18話 小悪魔の遊戯 ③!?
現在、ワッちゃんとの差12段、貴族街まで11段。
「よしっ!お姉ちゃん、次行くよ!」
焦りは募るばかりだ。
鬼が本気を出した場合、一体如何程の惨事に発展するのかなど杳として知れぬ。
私は魔法の類は全くもって使えない。私の武器は性剣だけ。しかし、性剣でワッちゃんを襲う場合私はワッちゃんに近付く必要がある。
それに加え性剣は物理的ダメージを負わす事は出来ない。もしワッちゃんに性剣を挿せたとして、それが引き金となって魔法が展開されたらどうなる?恐らく肉骨粉がいいところだろう。
第一、こんな公衆の面前で幼女の喘ぎ声を響かせると言うのがそもそも大問題だ。
「あの...血が出てますけど、大丈夫ですか?」
その時、優しそうなお姉さんが私に声を掛けた。
どう見ても大丈夫ではないが、これに乗じて私がゲームから離脱すればワッちゃんは怒り心頭に発する事であろう。さすれば世界は核の炎に包まれること請け合いである。199x年の幕開けだ。
「だ、大丈夫ですよ...。その、そう言うメイク...なので...」
私は小声ながらに必死に取り繕った。
「そうですか?血が滴り落ちている様に見えますけど?」
「ほ、本当に...大丈夫なので...」
「なら良いですけど...。」
お姉さんは去っていった。その後、お姉さんを見た者は誰もいなかった。
この様に大階段には人通りもあるのだ。余計に性剣の行使は出来まい。
となれば、ワッちゃんを倒す条件は二つ。
『ワッちゃんの不意をつく』、『ワッちゃんを一撃で仕留める』
それらを踏まえた策を可及的速やかに練らねば...
「もう良い?お姉ちゃん。」
「え?あー、うん。」
そして、私はこの一回で負ける訳にはいかない。
万一の為にワッちゃんとの距離は保って置きたいし、作戦の幅を広げると言う意味でも新しい景色である貴族街の広場には先に着きたい。
ここは一つ、『呪いのパー説』を提唱してみるのはどうだろうか?
私の三連続チョキの中でワッちゃんは二連続パー負けを経験している。
そして直前には私がパー負けをしている。つまり過去三回の戦いで三回共パーを出した側が負けているのだ。つまり、『呪いのパー』。
ワッちゃんはこの状況で再びパーを出そうとは思はないだろう。となると次の手はグーかチョキ。
そこで私が敢えてパーを出し、50%の確率で勝つ事で『呪いのパー』を覆し運を自分の側に引き込むのだ。
我が覇道がこんなガキ一人に妨げられる様な脆弱なものでない事を知らしめてくれる!
「「グレムリン!」」
「うおっしゃぁーーーッッッ!!!」
「なにぃぃぃーーー!!!」
見たか!愚劣なるチ○ポコめぇぇぇーーー!!!
とうとう野人と見分けのつかぬ風体と成り果てた私は、四肢をぐるんぐるん回し血潮を撒き散らしながら「パンツァァァーーーッ(戦車ではない)!!!」と絶叫し、大階段を3段駆け上がった。
もしチョキを出され負けていたのなら、ワッちゃんに6段も近づかれた挙げ句、運気という運気が一斉に私と袂を分かつと言う目も当てられぬ惨状となっていたのだが、これはこれでいささか見るに堪えない。...と、今の私を客観的に俯瞰してみて思った。
ワッちゃんとの差15段、貴族街まで8段。
「...むぅ!次だよ!」
「「グレムリン!」」
「やった今度はあたしの勝ちだよ!」
「ふっ、ならば近付くが良いさ。そして幾度なりとも挑むが良い、この私に!」
やはりツキは私の側に回って来ている!
何の戦略も無しに出したチョキでワッちゃんに負けられた。
これで次の戦いで安全に階段を登れると言うものだ。
◇◇◇
その後、世界を味方に付けた私は数度に渡ってワッちゃんを捻り潰して行った(二回に一回の割合で)。
『呪いのパー』を覆した事により世界のありとあらゆる”気”は私を中心に回り始め、もはや私は世界の特異点となっていたのだ。
だが、この身に宿る運気がいつまでも味方してくれるとも限らない。
この勢いでワッちゃん本体をも捻り潰すが吉!
そして現在、ワッちゃんとの差8段、貴族街まで3段。
順当に行けば次の勝負で私は輝ける貴族街へ一足先に付けるのだが...
「「グレムリン!」」
私はつい勝者の笑みを禁じ得なかった。
ただただ戦慄しているワッちゃんに踵を返すと、私は遥か彼方を見据え咆哮を上げた。
「すぅぅぅー...」
「パンツァァァーーーッッッ!!!」
「お姉ちゃぁぁぁーーーんッ!!!」
私は再び傷口から血潮を噴出させ、山の一段目を踏破すべくあらゆる関節をあらゆる方向に回転させる。
ひょっとしたら血に紛れて臓物も顔を覗かしていたかも知れない。
だが、私が大階段の298段目に足を掛けたその瞬間... 奇怪な事が起きた。
「パ・...?」
298段目に登った時、それは小さな違和感でしかなかった。
しかし、それは次第に大きなうねりとなり、私が大階段を3段分駆け上がった時それは確かな不都合となっていたのだ。
「ン・ツ...」
私が300段目を登ると、そこには栄光ある貴族街の入り口がある筈だったのだが...豈図らんや、そこには残り3段の階段があった。
私は半ば呆れながらワッちゃんの方を振り返る。
「さっ、次行くよ!」
「おい...」
やはり、そんな気はしていたが...どうやら先に貴族街に着かれる事、それ自体がワッちゃんの気に障る様だ。
それによりまたもや無意識に魔法が展開され、階段が増えたのか私が下ったのか...ともかく3段登ったにも関わらず3段残っていると言う奇怪な現象が起こった訳だ。
「グレム...」
「おいワッちゃん。」
「なぁに?」
「もし次かその次に私が勝てたら、私は貴族街に行って良いか?」
「えー、駄目な訳無いよ!ルールなんだから!」
私の問にワッちゃんは確かにそう答えた。
果たして効果があるかは分からない、それに何度も使える手でも無いだろう。
だが、今の問い掛けによりワッちゃんは私が貴族街に行き着く事を正当な事とした。
それが無意識にまで刷り込まれていれば良いのだが...
私には何としてでも貴族街に先に着いていなくてはいけない理由がある。
何故なら...そこにワッちゃんを倒し得る”策”があるからだ。
「「グレムリン!」」
「おら、さっさと登れよ。」
「分かってるよぉ!グ・レ・ム・リ・ンッ!」
ジャンケンに勝ったワッちゃんは、そう言いながら階段を5段駆ける。
だが、譲るのは今回だけだ。次で私は...
因みにだが、ワッちゃんに抱かれていた黒い犬は今はワッちゃんの周りをうろうろしながら「バッフバッフ」言っている。
ワッちゃんとの差3段、貴族街まで3段。
「「グレムリン!」」
そして、運命の時はやって来る。
私はおもむろに万全の策を練ろうとしたが、その万全の策が失敗する可能性も躊躇なく考慮に入れた完璧なる策と無策が紙一重の関係にある事に気づき、私は考える事をやめた。
強いて言うならば、信じていただけだ。
私が改変した世界を...『奇跡のパンツ』の存在を。
「むぅ...しょうがないなぁ、今回は譲るよっ!」
「ふっ、悪いな。」
「パンツァァァーーーッ!!!」
私はまたしても公衆の面前で発狂した。
そして、自ら体内の血を傷口から絞り出す勢いで階段を3段駆け上がる。
───そこは、貴族街であった。
『それで、策とは何の事なんだ?アリシア。』
(あぁ、それなんだが...)
私は広場の左右、貴族街の入り口に位置する巨大看板に目を向けた。
(この巨大看板でぶっ潰すってのはどうだ?)
『......』
”それ”は亀頭をつぐんだ。
股間の方から『呆れ』や『困惑』と言った感情を感じる気がするが...きっと言葉も出ない程この策に感動しているに違いがない。
(ね?完璧な...)
『じゃあ聞くが、どうやって巨大看板を倒すんだ?』
その疑問から推察するに、”それ”は私の想像以上に小さな事で我が策を批判していた様だ。
その程度、ぬかりはない。
『ワッちゃんの不意を突く』、『ワッちゃんを一撃で仕留める』この二つを安全に両方共こなせる良い方法がある。
それは、第三者にワッちゃんを倒させる事だ。
(ジュリエルの”オパンツカッター”なら余裕だろ?)
『ハッ!』
問題はこの場所からどうやってジュリエルに指示を出すか...と言う事だが、それも全然モウマンタイだ。
私に性欲がある限り、世界に問題など無いのだ。
私は傷ついた右足を引き摺りながら広場の少し奥の方へと行き、高く聳える我が王城を見やった。
そして、目線をその一点に向けたまま...私は───”それ”を取り外した。