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便所から始まる性剣の伝説  作者: てるる
第一章 浄水場篇
17/75

17話 小悪魔の遊戯 ②!?

 かくして始まった恐怖の『グレムリン対決』に関する記録は、一貫してこの全段数1000超えの大階段の上で行われる。

 従って、その決死の闘争を語る前に、この城下町から王城までを直線で結ぶ大階段について明確なイメージを持っていただきたい。

 もっとも、それにより私の決定的な説明力の欠損が浮き彫りとなるだけかも知れないが、そこの辺は読者の器量でどうにかして欲しい。


 では始めに、この大階段を城下町上空から俯瞰ふかんして見てみよう。

 それはザックリ言うと二段構造の山の様な形状をしている。

 大階段のふもとから300段程それを上がると、まず山の一段目に登る事が出来る。

 その山の一段目に、二段目の山をぐるっと一周するかの様に造られているのが、いわゆる貴族街だ。


 300段目を上がり切った場所には、踏破した者を労うかの様に見晴らしの良い10m×20m程の広場に出る。

 そこを少し歩き左右を見ると、そこには5m程の貴族街入り口があり、そのまま直進すれば、少しばかりの露天商に囲まれたあらゆる者の心をへし折る残り700段のバカげた大階段の続きが姿を現す。

 貴族街入り口には、現在は祭り中であるが故、そこには鮮やかに彩られた大きな看板が設置されている。

 どれくらい大きいかと言われれば、その大きさのあまり貴族街入り口を封鎖してしまう程だ。

 それに加え無駄な装飾に背も高い為、全体の質量はかなりのものになるだろう。 

 だが、貴族街の建物はみなでかい上にゴテゴテしているので、周りの風景と比べ浮いているわけではない。

 いや、あれ程巨大なのだから「看板」と言う表現では誤解を招く恐れがある。それ程までに巨大なのだと言う認識を持っていて頂きたい。


 しかし、当然封鎖されてしまえば貴族達を筆頭に困り果ててしまうので、看板の下部分は吹き抜けになっており、二本の木柱がそれを支えていると言う状態だ。

 つい数日前までは竹やら何やらを組み立てた作業台が設置してあったのだが、あれはえらく邪魔であった。


 そして、残りの700段をも登り切り山の絶巓ぜってんへと行き着くと、そこが我が居城である。

 因みに、階段は石造りだ。



◇◇◇



 現在、私『麓から283段目地点』ワッちゃん『麓から265段目地点』。

 貴族街まで残り17段。ワッちゃんとの差17段。

 ここに来るまでにも紆余曲折あったのだが、つまり、100段先制していた事を踏まえると私がかなり押されている状況だ。

 

「グレムリ...」

「待て、その前に聞いておきたい。ワッちゃん、お前はこの『グレムリン対決』で勝ったら、私をどうするつもりだ?」


 私は先程からその不安が脳裏をひしめいてならないのだ。

 場合によっては私は今、自分が思っているより遥かに抜き差しならない事態にあるのやもしれない。

 少なくとも、現在の状況を鑑みるに私の側にツキは回って来ていない。


「えー?もちろん食べるんだよ。あたしがお姉ちゃんを。負けちゃったらお姉ちゃんがあたしを。」

「...ッ」


 大方、想像通りであったが、あまりに想像通り過ぎたので私はつい滅入ってしまった。

 『食べる』と言うのが何の比喩なのかは分かりかねるが、もし負ければ私は死ぬかそれに匹敵する何かがこの身に起こるのだろう。

 「本気を出す」と言いたいところなのだが、今回に限ってそれも出来ない。

 選択したのは私なのだが、この『グレムリン対決』は完全なる運任せ。

 つまり、私がワッちゃんに”食べられる”可能性は50%、これは...まずいっ!


「「グレムリン!」」(”グレムリン”とはグレムリン勝負におけるジャンケンの掛け声である)


 私はチョキを出した。浅はかだが少しでも長くワッちゃんとの距離を離したかった。

 だが、結果はワッちゃんがグーで私の負け。

 

「グ・レ・ム・リ・ンッ!」


 ワッちゃんがそう言いながら5段分、私に迫る。

 先制した100段がどんどん溶かされて行く。ワッちゃんとの差12段。

 勝負に負けると言う事はもちろん避けなくてはいけないのだが、右足の出血と言う懸念点もある。

 私は今...追い詰められているッ!


「「グレムリン!」」


「...ふん、やるわね。」


 やった、勝ったぞ!チョキで勝ったぞ!

 鬼とは言っても所詮はガキ。心理戦の欠片もなっていない。

 まさか相手が二回連続で同じ手を出すとは読めなかったな。


「チ、ヨ、コ、レ、エ、ト... はぁ...」


 そう口にしながら、私は負傷した右足を庇いワッちゃんを6段分引き離した。

 だが、庇いながらとは言っても一歩進む毎に傷口は血を吐いていく。

 例えこの闘争の行き着くところで私が勝利したとしても、私はそれまで残り711段分の痛みに苦しむ事になる...まったく、なんて厄日だ。

 ワッちゃんとの差18段、貴族街まで11段。

 

「お姉ちゃん大丈ー夫ぅ?もう良い?」

「あ、あぁ...(てめぇが負わせた傷だろうが)」

「じゃー行くよー!」


「「グレムリン!」」


「よっしゃー!!!」

「えー、二連続ぅ!?むぅー!」


 や、やった!ツキが回って来たのか?またしてもチョキで勝ったぞ!

 ワッちゃんに二連続で勝ったのはこれが初めてだ。

 お陰でガキ相手にバカみたいに喜んでしまった。


『お前、何か楽しんでないか?』

(んな訳無いだろうが。)


 これでワッちゃんとの差は更に開かれる。

 貴族街までなら私の方が先に着けそうだ、既に不運は使い切った。

 これからは私のターンだっ!

 私は再び右足を気にかけながら、290段目に足を掛けた... だが、


「チ、ヨ、...」


 チヨ...? チヨ?

 お、おかしい...この続きは何だ?  

 何だ?さっきチョキで勝って進んだばかりなのに...私はチョキに対応する言葉と進める段数を忘れてしまったと言うのか!?

 さっき、さっき自分で言った言葉と進んだ段数を思い出すんだ...

 確か、確か...『グー』『チョキ』『パー』の中で一番進める段数が多かった筈だ。

 『グー』で進める段数が5段だから、少なくとも6文字以上の言葉でなくては...

 駄目だ!いくら思案しても頭に靄が掛かった様で、まるで思い出せない!

 

 チ、チ...


跳梁跋扈ちょうりょうばっこ...?」


 私は報われない思索の果てに無理矢理捻り出したその言葉を口にしながら、大階段を8段登った。

 8段分の反動が傷口にのしかかるが、これでワッちゃんとの差は26段、貴族街まで残すところ3段。

 だが、私はその無理矢理に捻り出した『跳梁跋扈』と言う言葉にどうにも自信が持てなかった。

 私は試合を再会すべくワッちゃんの方を振り返った。しかしそこには...


「お姉ちゃん、言葉も段数も違うよ?」

「ッ!」

 

 妖しげな笑みを浮かべてワッちゃんが私に言った。

 そして次の瞬間、私の右腕と左肩に斬撃の衝撃が走り、血潮がほとばしる。

 

「うぐぁ───ッッッ!!!」


 ルール、『・いわれた数よりおおくすすんじゃダメ!』『・かってにことばをかえちゃダメ!』...またしても、ルール違反!


 そうか、ジャンケンで二度に渡り敗北を喫したワッちゃんが再び無意識に魔法を...ッ!

 今度は記憶操作かッ!

 ワッちゃんの中には『ハンデがあるにも関わらず勝つ』と言うプランがある。 

 そして、私が二連続でジャンケンに勝った事で、それが多少なり揺らぐ。

 それをワッちゃんは心の何処かで潔しとしなかった為、それが引き金となり無意識に魔法が展開された。

 何が勝率50%だ!こんな無理ゲーがあるかッ!



 ───例えばそこに危険な毒虫が飛んでいたとする。

 その毒虫を視界に捉え、危険を覚えるとその感情が引き金となり無意識に展開された魔法がそれを排除する。

 『生まれつき、気に入らない事象は無意識の内に片付ける』ワッちゃんは、そう言う人達に囲まれ自分もそれが出来る環境で育った『鬼』なんだ。


「チョキに対応する言葉は『チョコレート』だよ、お姉ちゃん!もぉ。」

「『チョコレート』...そ、そうだった『チョコレート』だった。悪い、お姉ちゃんちと忘れちゃってたわ。2段下がるね。」

「ダメだよ!お姉ちゃんはルール違反したんだから今のはノーカンだよ!ノーカン!」

「そ、そうだよね... ノーカンだよね。」


 だが、それは飽くまで無意識。

 ガキの思考を自分の物差しで図る事程益のない事もあるまい。ましてや、それを責めて何になろう?そんな事をした日には、私はワッちゃんの無意識の魔法で粒子レベルでズタズタにされ、この地表と一体化してしまうに違いない。

 

 しかし、ワッちゃんの魔法の影響で私がルールを犯した事は、ワッちゃんの視点からすれば紛れもなく真実。

 ワッちゃんは無意識に魔法を展開し、その影響でルールを犯した私をまた無意識のうちに罰する。そして、それを当然の事と納得する。

 きっと、私と遊びたいと言うのはワッちゃんの純粋な欲求なのだろう。

 その末に私を食べたいと言うのもまた純粋な欲求。 

 遊び一つでも命取り。これが先祖代々からの鬼の常識なのか...?


「じゃあ行くよ!次は絶対勝つからね!」

 

 そう言い、ワッちゃんは再びジャンケンの姿勢を取った。

 さすがに三連続で勝つのはまずい。今回は絶対に負けなければ。


「「グレムリン!」」


 私はきっきから三連続でチョキを出していた。

 ワッちゃんは私の四連続チョキを見越してかグーを出した。

 結果は私もグーであいこ。

 

「あいこだっ!もう一回だね!」


 私の過去四回の手はチョキ→チョキ→チョキ→グー。

 ワッちゃんはグー→パー→パー→グー。

 従って、ワッちゃんはそろそろチョキを使いたくなってきた筈だ。

 ガキと言うのは戦略など関係無しに全ての手を平等に出したくなる生き物。(そんな気がする)

 見えた!貴様は次に、チョキを出す!


「「グレムリン!」」


 やった!ワッちゃんがチョキで私がパー、私の負けだ!

 これで次に私が勝っても恐らく安全に階段を登る事が出来る!


「チ・ヨ・コ・レ・イ・トッ!」


 ワッちゃんはそう言いながら私に6段分迫った。

 ワッちゃんとの差12段。まだ追いつかれるには距離がある。

 貴族街が近づいて来たこの状況。きっとワッちゃんは少しの感情の起伏で魔法を展開するだろう。

 二連続で勝つ事がそれに該当するのなら、私は二回に一回かそれ以下の頻度で勝たなくてはいけない。

 限られた勝利のチャンス。そこで出来る限りグーかチョキで勝ちたいと言うのは当然の欲求だ。


 だが、それは私が二回に一回かそれ以上の頻度で負けなくてはいけないと言う事でもある。

 となると12段と言う差はかなり心もとない気がするが...

 そして、こんなギリギリの攻防を後700段以上続けるなど正気の沙汰ではない。

 もはや、やるしかない...


 ───ワッちゃんを、倒す!


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