11話 本物 ③ !?
狭苦しい通路を何度か右に左にカーブし、辿り着いた先は王城の裏山であった。
目前には黒い風に揺れる鬱蒼とした雑木林、背後には私を乗せた玉座がすっぽり収まりそうな矩形の穴を開けた王城の城壁がそそり立っている。
そして、依然として私は玉座に座ったまま。
こんな場所で女の子が一人、玉座に座っていると言うのは、なかなかどうして珍妙な構図である。
そこで私は考える。
「アリシアちゃん、さぁどうする?」
とね。
二つに一つと言うやつだ。このままあてもなく何処かへ逃げ次の手を模索するか、再び王室へ戻り奴と戦うか。
『アリシア、お前まさか...』
「あぁそうだよ。ここまで来て急に城を捨てるのが惜しくなって来た。」
冷静に考えてみると別に勝機が無いわけではないのだ。
さっきまでこの裏山まで届いていた、あのトラップによる破壊音は大したものだった。
魔王軍四天王を冠しているからには椀力で檻をネジり切り飛ばすくらいやってのけるのかもしれないが、先程のけたたましい悲鳴からしても無傷と言うのは考え難い。
何なら既に死んでいるかもしれない。
「やっぱりここで逃げるのは成長じゃ無い。それに喫茶店での恐喝姉さんが偽物とあっては私の栄光に傷が付く事になる。ならばもう一度、今度は本物を倒して一切の曇りなき栄光を掴むまでだ!」
『お、良いのか?そんな性に合わない主人公っぽい事言っちゃって。』
「そうなんだよね。しかもここで王室に戻ったら”友達を守る為に一皮脱いだ”みたいな構図になって更に鼻につくし。」
やはり今も昔も変わらない、最大の改善点は私の清々しいまでにねじ曲がった性根なのだ。
だが、今回に限り私は主人公になってやろう。これもまた成長だ。
私はその目に硬い決意を宿すと、先程玉座と共に出てきた矩形の穴を見やった。
「......と、その前に。」
一つそうつぶやくと、私は玉座から腰を上げ、草木をかき分け目前の雑木林へと足を踏み入れた。
『アリシア?何やって...』
「オェェェェェーーー!!!」
『!?』
ふぅ、スッキリしたわい。
美少女の嘔吐物と言うのは、さぞ霊験あらたかであられるのだろう。
それをみすみす雑草の肥やしとするのは私としても不本意であるのだが、まぁ今回は良いだろう。
「本当は下に下がるだけ下がってから裏山の方向に一回曲がるだけで良い筈なんだよ。それがどうだ?あの玉座何回カーブしたよ?軽く2、30回はカーブしたぞ?それも超スピードで。王を守る為の装置ならもっと金かけて作れよ!」
私は服の袖で口元を拭い、みっともなく不平不満を垂れながら玉座へと舞い戻る。
玉座の下にレール等が見当たらない事から、恐らくだがこの装置は魔力を原動力としているのだろう。
物理現象で説明がつかないのなら、そこには大抵魔力が絡んでいる。
魔力とはそう言う使い勝手の良いものなのだ。
だが、となればこの玉座を再び王室に戻すにはどうすれば良いのだろうか?
『魔力を注げ』だなどど言われるなら、学園の授業をことごとく寝るか妄想にふけるかしていた私には何する事も出来ない。
しかし、全私よ安心したまえ。
私は知っている、こんな時どうすべきかを。
これは、古来から伝わる伝統的手法だ。
私は拳を握り、それを玉座の背もたれへと狙いを定めた。
「角度45、風向き3.2.1のa(?)、そこだぁーーー!!!」
柔らかい玉座の背もたれが、”ぼすっ”と静寂なる闇夜に音を立てた。
するとどうか、たちまち玉座は”プシュー!”と言う効果音を放ち始めたではないか!
そして私は、再び王室へと動き出した玉座にしがみつき、そのまま城壁の穴へ飲み込めれて行くのだった───。
この時点で既に、致命的なミスを犯しているとも知らずに。
◇◇◇
二度目の吐き気は何とか堪えた。
王室の様子はと言えば、それはもう凄かった。
綺麗に敷かれた絨毯は乱れ、千切れ。天井は崩壊しかかっているのが見て取れる。
辺りには何処から出てきたのかと言う、まるでビーム砲でも放ちそうな兵器の残骸が幾つも横たわっていた。
そして、こじ開けられた檻の傍に、血を流しながら膝を付く奴がいた。
呼吸は乱れ、かなり疲弊している様子である。
「貴様か、また戻って来るとはな...。はぁ、はぁ...私ならば大した事は無い。」
どう見ても死にかけですが?
「傷だらけになった挙げ句...ぐふっ!か、身体中の組織をズタズタにされただけだからな......だが、この程度魔族ならば瞬時に回復させてしまうだろう。まったく、ここに衛兵共が居たなら、罠に掛かった私をどうにか出来たと言うものを...本当に愚かな。」
だからそれを死にかけって言うんでしょうに。
それに、衛兵が居なかったが故に仕留めそこなったと言うなら、その分を私がやれば良いだけのことだ。
私は今一度、股間へ手を掛け─── え、今何て言った?
『この程度魔族ならば瞬時に回復させてしまうだろう』...って、何?
(何の事?)
『僕に聞かれても。僕あんま世の中の事知らないし。』
(くそっ、使えないチ○コめ!お前なんか黒ずんで使い物にならなくなれば良いんだ!ムキー!)
『あん!?アリシアこそ授業をことごとく寝てるって言ってただろうが!悪いのは自分の怠慢のせいで教養を失ったアリシアだ!』
ぐぬぬ、口の達者な肉棒だわい。
だが、言われてみれば”魔族”と”回復”と言う言葉の並びには、脳の端っこに何やら引っかかるものがある。
確かに、魔族には常軌を逸した回復スピードがあると言う馬鹿げた設定があった気がしなくもない。それも、高位の魔族である程早いんだとか......。
(どうしよう!?そんなん勝てる訳無いじゃん!?)
『安心しろアリシア!もしそんなチートじみた設定があったとしてもだ、僕の事を忘れたのか?性剣は物理攻撃には向かない。でも逆に言えば、それは性的な攻撃なら魔族にも効くと言う事じゃないのか?喫茶店でも僕達は確かに、魔族である恐喝姉さん達を倒しただろ!』
そ、そうだ”それ”の言う通りだ!焦っちゃ駄目だぞ、アリシアちゃん!
私達には既に下っ端の雑魚と言えど、魔族を倒した実績がある。
何なら私は人間界で唯一、姑息な知恵を使わずに魔族と張り合える存在であると言う説も否定は出来ない。いや、そうに違いない!
私は再び股間に手を当て───”それ”を取り外した。
「ほぉ、来るか?魔王軍四天王に棒振りもまともに出来ぬ貴様が。」
私は行儀悪く玉座の上で立ち上がり、性剣の刃先を奴へ向ける。
「ならば...ッ!」
「!?」
その瞬間、奴の向けた右手から魔力が瞬いた。
事故の直前などに人は一秒が数十秒にも感じると言うのを聞いた事があるが、私はその時まさにそれを体感した。
魔法の余波と言うべきか、私はスローモーションの世界でその余波から伝わる、今までに類を見ない”死”を直感させる凄みを感じた。
これは...まずいっ!
瞬間、私は玉座の真横に飛び退き、それと同時にたった今まで私の居た座標から轟音が轟く。
紙一重だったな...。
間一髪、私は攻撃を躱せたが、奴の放った業炎の直撃した玉座は見事に炎上していた。
今更だが、本当に迷惑な奴だな。お前。
(で、どうやって変身すんの?)
『確かに!』
(この部屋にエロ本なんて無いが。)
以前までは、手近な所に運良くおっぱいがあったから変身出来ていたが、今回は安易に近づける相手ではない。近づけば死があるのみだ。
そして、こうして逡巡を巡らせている間にも奴の負傷は再生しているのか、奴は徐々に身体を立ち上がらせ、再び右手をこちらへ向けようとしている。
『アリシア!良いか、僕の言う通りに叫ぶんだ。それが精神的なファクターとなって君と性剣の秘められた力が一時的に開放される!今はそれしか無い!』
(んなっ!お前、そんな事も出来るのか。さっきは黒ずんでしまえ!なんて言ってごめん。)
『過去の事は良いさ。躊躇していられる暇は無い。自分の中に眠る無限の力を想像しながらだ。...行くぞ!』
「『Unlimited tintin!!!(アンリミテッド・チンチン)』」
これで力を開放される私は何?
だが、事実として漲って来る。
私の中の深淵から湧き出る、得体のしれないパワーが。
それは光となり身体から漏れ出て行き、次第に私の身を包んで行く......。
───魔法少女アリシアちゃん、参上!!!
刹那、私の視界が純白に包まれる。
気づいた時、私は白く輝く光を纏った性剣を手に、覚醒していた。
下の方が熱い...”それ”め、女の子を強制淫乱モードに突入させるとは...。
”Unlimited tintin”...恐ろしい言葉だ。
「...っ、その姿は!?なるほど、それが私の部下を倒した力の正体か。」
変身出来たのならそれは良い。しかし、奴にどう近付くのかと言うさらなる難問が残っている事には変わりない。
「まぁ良い、私は四天王だ。その程度で私をどうしようと... ぐふっ!」
その時、無理に身体を動かしていたのか、腰辺りの傷から鮮血が迸り、奴は再び床に膝を付かせた。
隙きだ、隙きが出来たのだ。やるなら...今しか無いっ!
ためらいを捨てるんだアリシア!
瞬間、私は雑念を捨て、前方に身を弾くように地を蹴った───。
「こ、こんな時に傷がっ!はぁ、はぁ...ならば良いだろう、来るが良いアリシア・バァラクーダ。貴様の未知なる力には興味がある...」
そう言うと、奴は膝を付いたまま防御の姿勢を解いた。
その誘いには喜んで乗ってやろう。
ならば貴様も、恐喝姉さんと同じ快楽に堕ち行くが良い...
”約束された勝利の巨根”(エクス...カリバァァァーーー!!!)
私は心の中で叫喚した。
そして、私の覚悟に共鳴した性剣が、先端から我○汁に塗られて行く。
私はその確かなヌメリの感触を手のひらに感じながら、無防備な奴へ極太性剣を、左手を引きありったけのピス*ン運動でねじ込んだ。
さよなら───そして、ようこそ。無限の快楽の世界へ───。
「くっ...うっ、あっ♡」
これには流石の魔王軍四天王も顔に隠せぬ動揺を浮かべる。
いや、ここは性感帯を不意打ちされたにも関わらず、短く一度喘ぐだけに留まった事を褒めるべきか...。
「あ、あ♡...き、効かないなぁ!!!」
何!?
「”性具”...か。そうか、確かにこれは性具だ!」
『ま、まさか...性剣を根本まで挿し込んまれて精神をまともに保っていられるだと!?考えなれない!こいつには性感帯が無いのか!?』
(それこそ考えられない!きっと、何か効かない理由がある筈だっ!)
それに、私の攻撃はまだ終わっていない。
もっとだ、もっと奥まで愛で満たす事が出来れば...知性ある生命ならば、○かない道理は無い!
生まれろ、新たなる生命の光...必殺”射光”!!!
届け───圧縮した、淫らな愛。
瞬間、私の中の漲る力が...魔法少女の源が性剣を伝い、増幅した純白の輝きが奴の挿し込まれた境界面を襲った───!!!
だ が、
「ふっ、ふふ...フッハッハッハ!効かないと言っただろう!面白い...面白いが所詮この程度だ!ハッキリとしたな。貴様に私は撃てない。何故なら...私の経験人数は3桁超えだぁぁぁーーー!!!」
(『なにぃぃぃーーー!!!』)
その時、私の中で決定的な何かが音を立てて崩れ去るのが分かった。
そして、それと同時に私は”射光”の反動と、奴の衝撃的なまでの気迫に押され、身も心も女としても小さな私は宙を飛び、炎上する玉座を超え...何も無い王室の床へと叩きつけられた。
勝てない。私は決して奴に勝てない。
今、間違いなく私は無防備な奴へ、自分の持てる全てを最高の形で叩き込んだ。
それだけは本当だ。私は全力だった。
だからこそ、何もかも未経験の、女としても人間としても未熟過ぎる私は───絶対に奴に勝つことは無い。
『アリシア...』
遂には”それ”もこの状況を飲み込んだらしい。
私は...完全に敗北したのだ。
天井を見上げている為、私の視界に奴の姿は無いが、分かる。
奴は今にも私を始末しようと業炎を放つだろう。
終焉の瞬間が......来る。
だが次の瞬間、思いもよらぬ声が私の鼓膜を撫でた。
「深夜にうるさいですよ。まったく...ちょっとそっちの軍内で位が高いからって何やっても許されると思ってるあたり、本当に浅ましいのよねぇ。」
姿を見えなくとも、その澄んだ声色から良家の令嬢の姿を思い描くのは容易であった。
私は声の方向へ”射光”後の活力の無い身体を向けた。
そこには、開け放たれた王室の扉から眠そうに奴を睨む、ジュリエルの姿があった。
あまりに感動的だったので『お前、起きるの遅すぎじゃね?』との無粋なツッコミは心に留めて置いた。
現在公開可能な情報
魔族の殺し方
魔族は例えそれが乳児であっても物理的要因により殺害することは不可能である、と言うのが現在の定説である。
しかし、それは物理的要因に限った話であり、餓死、孤独死、過労死、毒殺...いずれも有効である。
よって計画的な殺人は充分可能と考えられる。
また、自殺の場合に限り物理的要因での死亡が可能となるが、詳しいメカニズムは不明である。