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便所から始まる性剣の伝説  作者: てるる
序章、下水管篇
10/75

10話 本物 ② !?

 ───その日、私は王城から少しばかり離れた山岳地帯を訪れていた。

 何か特別なあてがあると言うわけでは無いが、王城を我が手中に収めた事で私は成長したのだ。

 これを期に新しい事に挑戦して行くのも私としてはやぶさかでない。 

 今日はその一環として、誠にクズらしからぬが自然を嗜みに来たのだ。


 私が山を訪れたのは恐らく8年程前、ユニオルと共に行ったのが最後になるだろう。

 あの時は昼頃に山へ入り、一通り散策した挙げ句おっぱいの”お”の字も無かった為、不平不満を垂らしながら帰ったのを覚えている。

 山を出たのもまた昼頃であった。 

 あれから四捨五入して10年。

 あの時には感じる事の出来なかったおもむきがあるのかと胸を躍らせていた時期もあったが、残念ながらそんなものは無かった。 

 何だ?山って。木を見て何が楽しいんじゃ? 

 まぁ、そもそもの間違いは”私が成長した”と言う所からだ。

 確かに成長はしただろう。以前より輪をかけてクズになったと言う意味で。

 自然を嗜む様な人間は王城を乗っ取ったりしないのだ。


 っと、気づけば私は少し開けた場所へ出てきていた。

 そして、そこにはそれはそれは大きな川が流れていた。

 名は何と言うのだろう?名が無いのなら私が付けてやりたいが...

 

「おぎゃー、おぎゃー!」


 私の眉根がピクリと動く。はて、赤子の泣き声とな。

 

「おぎゃー、おぎゃー!」

「ッ!」

 

 その瞬間、私は我が目を疑った。

 その場違いな泣き声の出どころが知れたのだ。

 なんと、川の上流の方から立派な”桃”の実がどんぶらこどんぶらこと流されて来るではないか!

 しかし、こんなおとぎ話と大差無い場面に出くわすとは...これでつまらない山へ来た事にも意味が出来たと言うものだ。

 私はその”桃”を逃すまいと、山岳地を疾走した。


「おぎゃー、おぎゃー!」


 岩と岩との間にまるで汚物のようにへばりついた”桃”は、見れば私がすっぽりと収まってしまいそうな程に非現実的なサイズであった。

 何はともあれ声はやはりここから聞こえる。何がどうしてこうなったのかは皆目見当もつかないが、尻があれば二つに割る様に、詰まるところ割るのみである。

 私は”それ”に手を掛けた。だが瞬間思い出す。

 あぁそうだった、性剣は物理攻撃には向かないんだった。 

 仕方がない、プランcだ。プランcとは”桃”を割るのではなく壊すと言う今思いついたプランの事だ。


 私は、我がかいなを一点に且つ水平に構え、一切の情を捨てそれを”桃”の中心へと叩き込む。

 僥倖ぎょうこうであった。”桃”が丁度良く熟れていた為その一撃により”桃は”『ぐじょぐじょ』と音を立てて大きな穴を開けた。 

 そして、そこからはわらにくるまれた、かなり大きめの赤子が顔を覗かせていた。

 

「おぎやぁー!おぎやぁー!」


 考えて見れば当然の事だ。”桃”に入った状態で少し離れていても十分聞き取れる声量だったのだ、果肉かべが破られればかなりかまびすしい。平たく言えばうるさい。

 だが、だからと言ってこのまま放置するわけがない。

 私は何故赤子が”桃”に入っていたのかと言う謎を解き明かさねばならぬのだ。

 この邂逅かいこうは運命なのか、あるいは必然なのか...(どっちも同じか)

 そんな事を考えながら私はその赤子へと手を伸ばす。


「おぎやぁー!おぎやぁー!」


 お、おかしい。重い、赤子はこんなに重かっただろうか...あるいは単に私が貧弱なだけなのか...?それ程なまでにこの赤子は重かったのだ。

 確かに背は少しばかり低いが、これでも私は16だ。健康状態もいたって普通。

 赤子一つ持てない16歳が何処に居ようか...

 

「おぎやぁー!おぎやぁー!」


 何とか抱き寄せる事は出来たが...どうしたものか、この重さを担いで王城までと言うのは流石に骨が折れる。

 クソっ...こいつめ、赤子のくせに美少女の胸を堪能するとは...将来大物になること間違いなしだな。

 

「おぎやぁー、おぎやぁー!」

「ッ!?」


 な、なんだ!?今、気のせいかもしれないが私はこの赤子が更に重くなったような気がした。

 まずい...このままでは16にして腰をヤッてしまうかもしれない。

 ここは一旦この子を置いて冷静に策を練ろう。

 私は膝を付き、赤子を抱く手をそっと地面の方へと伸ばした。


「おぎやぁー!おぎやぁー!」


 だがその瞬間、赤子は一気に重さを増した。それも私では到底支えきれないまでに...

 私は歯を食いしばり、それを必死に支える。

 何処からか『はやく赤子を降ろせよ、クソ陰キャ』と、ありもしない声が聞こえてくるが、それにも訳があるのだ。

 赤子が離れない。私の腕を私よりも圧倒的に強い力と、絶対に離れないと言うはがねの意志で掴んでいる為、どう足掻いても離れてくれないのだ。

 それに加え秒読みで増していくこの重み。

 助けも望めない。私は一気にピンチに陥った。


「おぎやぁー!おぎやぁー!」

「クソー、大○唇と小○唇の違いも分からないガキのくせに、この私に対して...ッ!」

 

 そして次の瞬間、私は決定的なものを見た。

 今まで角度が悪かった為、良く見えなかったのだが、赤子の顔にしわが寄っていた。そう、まるで年をとったジジイの様に...。

 それを見ると同時に、私の中にふと最悪の事態が浮かんだ。

 

 まさか、まさかこの赤子は...

 いや、間違いない。こんな事をする奴は一人しか居ない!

 

 こいつは...こいつは......ッ! 


◇◇◇


「”子泣きじじい”じゃねぇかぁぁぁーーー!!!」


 私は玉座の上で絶叫していた。どうやら夢オチだったらしい。

 本当に恐ろしかった。最近の子泣きじじいはあんな手段も使うのか...

 悪夢は星の数程見てきたが、今回のはその中でもトップを争えるだろう。

 うしこく、外は夜闇に包まれているのが見て取れる。

 せっかく王城を手に入れたのだが、どうも寝床に関しては実家のオンボロベッドから退化した様子。

 座った姿勢で寝ていては身体中がバキバキだ。(元王の寝室はジュリエルにより不当に占拠されている)


『大丈夫か?だいぶ凄い絶叫だったけど。まぁそんな事より、大変なんだアリシア。前方を見ろ!』


 私と全ての感覚を共有しているのなら”それ”もあの悪夢を見ていた筈なのだが、何故こいつはこうも平然としていられるんだ...?男の子は強いのか?

 しかし、『前方を見ろ!』とはどう言う事だろうか? 

 言われてみれば先程から”パリパリパリ”と言う耳鳴りに近い音が目の前から聞こえている気がしなくもないが。私は”それ”にうながされるままに眠い目をこすりながら、目線を前方へと向けた......


 ───元王は魔王の権限で田舎へ飛ばし、一連のゴタゴタが終わりしばしの安息が訪れていた今日この頃......それは突然やって来た。


 瞬間、私は”パリパリパリ”と言う音の正体を発見した。

 空間がひび割れていた。どうやらこの耳鳴りの様な音は、背後の空間が砕け落ちたが故に生じたものであったらしい。

 これまた非現実的な光景だが、実力者ならばこの程度の光景は魔法で作り出せるだろう。

 

「実力者ねぇ...。」


 私は疑問符を浮かべた。

 それもその筈、そのひび割れた空間から覗いている顔が私にはとても実力者には見えないのだ。


「ネタ四天王じゃねぇか。」

「ネタ四天王って言うな!」


 私のつぶやきに顔を赤くして反論したのは、鮮血の様な真紅の髪、そして嫌らしい豊満な身体付きをした20代半ば辺りの女。

 そう、間違いなくそれは恐喝姉さんだった。

 しかし、何故恐喝姉さんが今になって再び私の前に姿を現したのだろうか?

 奴ならば前に私が倒した筈だが。

 

『物理的に倒したわけじゃないから、また来たんじゃないか?』

(あぁ、そゆこと。)


「はぁ、どうやら貴様の私に対する偏った認識から訂する必要があるようね。魔王軍の四天王と対峙していると言う状況にも関わらず、何だ?貴様のその腑抜けた面は!?」 


 そりゃ寝起きですからね。

 まぁ強いて言うならば、悪夢の後なので一般的な寝起きよりかは意識がハッキリとしている。


「いい?数日前に貴様を恐喝した挙げ句、貴様に惨敗を喫した私は、私の出来の悪い部下が化けた偽物なの。分かったかしら?分かったなら一度だけ頷きなさい。それ以外の行動を取ったら殺すわよ?」

 

 また随分と物騒な。夜中なのによくそんなハッスル出来るな。良いことでもあったのか?

 しかし、偽物と言うのならあの弱さにも説明がつく。

 確かに言われてみれば今の奴からはオーラと言うか、気迫と言うか、凄みと言うか(どれも同じ様なもんか)が感じられる。

 これでは近付く事すら容易ではない。

 とりあえず、私は死にたくはないので一度だけ顔を上下に動かした。


「...しかし、偽物と言えど彼女達も魔族。貴様の様な人間の小娘に五対一にも関わらず惨敗したと言うのは考え難い。だから今回は”魔王軍四天王”たる私が直接、貴様についての幾つかの事を確認する為にここへ来たのだ。」


 ありがとう、全部説明してくれて。


「そこでだ、まずは貴様が下っ端達との戦いの時に使用したと言う剣を見せてもらいたい。もし貴様が取るに足らない雑魚であったなら私は貴様を半殺しにするだけに留めてやろう。これは最悪の場合、魔王軍の敗北にも繋がりかねない事態なのだ。さぁ、見せてみろ。」


 奴は目前の空間を自分が這い出でられる大きさに砕きながら、私にそう言った。


(なぁ、”それ”よ。)

『何だい?』

(赤の他人に対していきなりチ○コ見せろって言うのは完全にセクハラのたぐいだよね?)

『そりゃそうでしょうよ。』


 そうだよなぁ。こうも堂々とセクハラ出来るのこいつくらいだよ。


「どうした、何をしている?早く見せてみろ。さっきも言ったが、少しでも関係の無い行動を取れば、私はそれを敵意と見なし貴様を殺すぞ?」


 なるほど、チ○コ隠しても死。

 よしんば見せたとしても、私が雑魚なら半殺し。大層な大物であっても死。

 どう転んでも最悪な結果が待っているが、せめて半殺しでありたいと思うのは人間として基本的な欲求であろう。

 私はそっと股間に手を掛けると───”それ”を取り外した。


 月明かりが差せど暗然とした王室内を私の掲げた性剣の煌めきが淡く照らした。

 奴は『ほぉ...』と、短く声を漏らした。

 

「分かった。もうしまってくれて構わない。」

 

 一通り性剣を眺め、何かに納得したらしい奴は、目を閉じ静かにそう言う。

 そして、空間の割れ目からぬるりと這い出た奴は...


「貴様を始末させて貰う。」

 

 私にそんなとち狂った戯言を抜かした。何とはた迷惑な事か。

 だが、いくら私が心の中でそれに反抗しようとも現実は変わらない。

 瞬間、奴は右手に喫茶店での偽物とは比較にもならない業炎の球を作り出す。

 両手に作れば、奴の身体が竿、炎が玉となり見事なチ○コの形になりそうだ。

 っと、そんなクソ程しょうもない事を考えていられる状況でもなさそうだ。

 直感で分かる。人間の私があれに直撃すれば焦げた肉片になる事は避けられぬだろう。

 無敵と思われた私でも倒せるかどうか判然としない...。


 よし、トンズラすっか!


『おい、せっかく手に入れた魔王城どうすんだよ!』

(王城はこの際、放棄する。)

「ちょっ、お前...」


 何処かの誰だかが、人生を成功させる為には迅速な決断力を磨く必要があると言っていた気がする。

 だからこれも成長だ。そうに違いないのだ。

 しかし、そうなればジュリエルと王女ともここまでと言う事になる。

 初めて出来た女友達だったので、それだけが心苦しいが...。

 

「ッ!」

 

 奴が業炎を持つ手を振り上げる。 

 まずい、逃げるのなら今しか無い...ッ!

 大好きな彼も言っていたが、人とは時に大切なものを切り捨てる決断をしなければいけない生き物なのだ。

 きゃー、私ったら大好きなんて言っちゃった!もー、私のバカバカバカ! 


『......』


 私は覚悟を決め、目線を王室の扉へと向けた... だが、次の瞬間...

  

 ”ヴゥー ヴゥー ヴゥー”


 と言う恐怖心を煽るブザー音が王城内に鳴り響いた。

 そして、それと同時に奴の居る座標の周囲に鉄格子が降り注ぐ。


「へっ?」


 これには流石の魔王軍四天王様も驚きを隠せないご様子。

 びっくりした拍子に右手の業炎も消えてしまった。

 んもー、うっかりさんめっ♡


「こ、これは...ッ!まさかこの檻の中では魔法が使えないと言うのか!?」


 おや、どうやら確かな因果関係で球は消えた様だ。

 確かに、檻の中に薄くもやがかかっている気がする。あれがどうにか作用して魔法が封じられてしまうのだろう。

 では、私はこの隙にトンズラさせて頂きますわ。

 実のところ、あそこで私が逃走を図ったところでこの状況から逃れられる保証は何処にも無かったである。


 だが、真に驚かされるのはここからであった。

 次の瞬間、玉座が”プシュー!”と言う効果音を出し始めたのだ。


「はぇ?」


 気づけば私も奴と同じく間抜けな声を発していた。

 しかし、今の効果音。まるで何かが起きる前兆のようではないか。

 

 だが、私がそんな事を逡巡している間にその何かは起きたのだ。

 そう、真下の床がパックリと割れ、私を乗せた玉座がその中へと急降下を始めたのである。

 これには流石のアリシアちゃんもビックリだ!

 奴の姿がどんどんと視界からフェードアウトして行き、玉座と共に私の身体は下へ無限に続く狭い空間へと飲み込まれた───。



 考えてみれば当然の事である。

 魔王軍にここまで正確に且つ長距離の空間転移が可能な者が居るなら、戦争が始まると同時に王が秒殺され、それでおしまいだ。

 そんなでは、全世界で人間相手に戦争終了RTAが流行る事も想像に難くない。

 

「今回はお前が戦犯だぞ?」

『はー!?何で僕が?責任転嫁反対!』

「性剣の形が何かまずかったんでしょ?私はそんなの知らないし。」

『そんなん僕だって知らねぇよ!』


「ア゛バ゛バ゛バ゛バ゛バ゛ァァァ!!!」

 

 私達がそんな不毛極まりない押し問答をしていると、まだトラップが残っていたのか、上空からけたたましい破壊音と奴の悲鳴が聞こえてくる。


「結局ネタ四天王じゃねぇか。」 


 上で一体何が繰り広げられているのかと言うのは、非常に興味をそそられる話である。

 この破壊音から想像するに、きっとさぞ混沌とした世界が広がっているのだろう。

 この狭苦しい空間が何処へ通じているのかもまた謎なのだが...


 まぁ取りあえずは...


「人類の叡智に万歳!!!」


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