1話 生えちゃった!?
───幼き頃、親から『トイレには神様がいる』そんな話を聞かされた人は数多いだろう。
もちろん私自身も知っている。
この世界の者であれば、地域によって信じるものは違えど、その殆どは何かしらの神を信仰しているものだ。
しかしながら、ハッキリ”神”と付いているにも関わらず、トイレの神様こと厠神を信仰している者は私の知る限り誰一人として存在しない。
もし厠神は神では無く、そもそも厠神なんてものは存在しないというのなら、”神”と付いているのは本物の神々に失礼というものだ。
そんなもの各宗教の狂信者達によって闇に葬り去られて然るべきである。
しかし、そうなっていないという事は、やはり厠神は実在したのだ。
───可哀想ではないか。
ある時、私はふとそう思った。
そして、その時を堺に私は”トイレ”という親近感の湧く場所の神に無性に相見えたくなった。
そう、何を隠そう私がいつも学園で昼食を食べる場所なのである。
そう思ってからの私は早かった。時に便座を掃除し、時に美しく花をつけた雑草を花瓶に生けたり……
こうして、今まで社会的有為な人材となるための布石を悉くはずしてきたホモ・サピエンスの面汚したる私は、またも打たんで良い布石を狙い澄まして打ち始めたのである。
それから幾日か経過した頃、私は言った。
「あぁそうだった、私は相手を小馬鹿にしてイラつかせる方が得意だったんだ!」
私は強者に諂うことも苦手ではないが、イラつかせ怒らせる方がずっと得意だったのだ。
その日より、私は厠神に媚を売り気に入られる作戦では無く、厠神を憤慨させ便器の底から引きずり出す作戦にシフトしたのだった。
「カー、ペッ!」
私は今日も学園の個室トイレで、便器につばを吐き捨てると同時に、日頃の恨みつらみも吐き捨てる。
何も知らない者からすれば、それはさながら狂人を思わせるだろう。
しかし、そんな私にいつしか厠神は微笑んだのである。
そう、厠神は私と比べるなど失礼に当たる程に、器の広い御方だったのだ。
思えばそれは、これから始まる私の激動の人生の始まりの一歩に他ならなかったのだが───。
◇◇◇
学園内の廊下を小走りする、長く美しいふわっとした金髪が特徴の華奢な美少女がいた。
それが、由緒正しき聖リヴォル・ヴァレッジ学園に学費が無料だからという理由で通う、彼氏はもちろん友達すらまともに持たず、暴君の母親に消息不明の父親と妹を持つ、御年16の私である。
「あの、あなたちょっと良いかしら…?」
そんな私に、一度声をかける、背丈は私程の黒髪メガネの女が現れた。
「悪いんですけど、この資料を職員室に届けてくれるかしら?」
「え、え......あっ、はい。」
小声で見るに堪えない受け答えをする私に、急いでる風を装うその女は強引に手に持つ資料を押し付けると、颯爽とその場を去って行く。
何をペコペコしている...”アリシア・バァラクーダ”よ。
そして、あの女もあの女だ。
今まさにトイレに向かわんとする人間、何なら名前すら知らぬ相手に自分の面倒事を押し付けるとか、どういう教育受けてんのか甚だ疑問だ。
ちょっと真面目ぶっていれば何しても許されると思っている辺り本当に浅ましいのよね。
しかもあいつ、日頃から先の尖った帽子やら黒いローブ的な物やら身に付けやがって、なんだそりゃ魔法使い気取りか?
そもそも、元来魔族など他の種族と比べ極端に少ない魔力保有量を誇る人間がいくら魔法を極めたところで所詮たかが知れている。
それに、そこそこの魔法使いになったとて、そんなものいくらでも替えがきく。
だったらその時間で別のスキルを磨いた方がよっぽど有意義だというのに......それにしてもあの女、ルックスでも思想でも私に負けてるとか...どこに存在価値があるのかしら?
だが、そんな思考停止人間がお高くとまる事を是とし、私の様なキラリ美麗に煌めくよく分からない物の原石が日の目を見られぬ現実である。
しかし多様性の昨今、そんなよく分からない物の原石こそが真に市場価値のある人間なのだと私は思うのですよ。えぇ。
結局のところ、学園とは馬鹿が馬鹿同士、馬鹿として成長して行く機関に過ぎないのだ。
それが才能を持つ若き芽を摘み取ってしまうというのなら、果たして私はここへ居るべきであろうか。
仮にその答えを”否”としたのなら私は学園逃亡を視野に入れるべきであろうか。
だが、その答えこそ、きっと真に”否”であろう。
だって私、馬鹿なんだもーん☆
馬鹿は馬鹿なんだから、せいぜい馬鹿として成長しなさい。
ほらアリシアっ!あの黒髪メガネの女を見習いなさいっ!
と、いつも通り平常運転で妄想を遥か虚数方向へ歪曲させつつもトイレへと着いた私は、壁の際へ資料を置き、いつも通りの女子トイレの個室へ赴く。
今日は厠神に用があったわけではない。
さっきから感じる、尿意でも便意でも無い下腹部の違和感を確かめる為……この場所へと足を運んだのだ。
私は早速、便器へと座り純白に輝くパンツを下ろす。
そして、それと同時に私は我が目を疑った。
光っていた。
”股間”が……何と光っていたのだ!
少し考えた私は、一旦思考を停止し天井を見た。
「あ、蚊だ───。」
満を持して、もう一度私はその目を股間へと向ける。
そして、またしても私は目を疑った。
”生えていた”。
光っていた場所から”生えていた”のだ。
そう、チ○コがである───!!!
『あ、こんにちは。』
うわっ、このチ○コ喋ったよ……
『勝手に生えてきてすまんねぇ、今僕は君の脳に直接語りかけているんだ。もちろん僕は君の身体の一部だから君が考えてることも分かるよ。』
私は、突然に訪れたこの何とも滑稽かつ珍妙な状況に、呆気にとられていた頭をフル回転させる。
これは厠神の使者か?あるいは厠神その人なのか...!?
しかし、脳内に直接語りかけて来るチ◯コとは……随分と奇っ怪なチ◯コがあったものだ。
『その……なんだ、あんまりチ○コチ◯コって連呼されると字面が酷いから、これからは僕のことは ”それ” って呼んでくれると嬉しいな。』
何言ってんだこのチ○コは。
クズ小説始めました。
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