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そらのそこのくにせかいのおわり(改変版)5.4 < chapter.6 >

 マクヴェイン家の応接間に通されたゴヤは、挨拶もそこそこに、さっそく本題を切り出した。

「ロドニー先輩からお聞きになっているかと思いますが、我々特務部隊は、この件が『心霊案件』である可能性を疑っています。ジュディ・デラムさんは、今どちらに?」

 対面に座るイヴァン・マクヴェインは、ドア横に控える執事に視線を送る。事前に打ち合わせてあったのだろう。それだけの合図で、執事はそっと扉を開けた。

 十数秒の間をおいて、開け放たれた扉から、小柄な女性が入って来た。

 ゴヤが抱いた第一印象は、痩せている、ということだけだった。

 美しいとか、女性的な魅力を感じるとか、そういう感想は一切抱けなかった。その人はただただ痩せていて、どうやって長旅に耐えたのか、想像するだけで不安になるほどに骨の浮き出た身体をしていた。マクヴェイン家の手厚い庇護を受けてなお、栄養不足でボロボロの髪、目の下に色濃く浮き出た隈は改善していない。長年にわたる貧血、睡眠不足、極度のストレスが窺い知れた。

 手紙が本物だろうと、偽物だろうと、すぐに保護せねば母子ともに死亡する。イヴァン・マクヴェインがそう判断したことも頷ける。

 ゴヤは立ち上がり、彼女の前に進み出て一礼した。保護された虐待被害者であっても、この女性は貴族だ。士族のゴヤにとっては上位階級である。貴族の女性に対する型通りの挨拶を済ませる。

 それを受けるジュディ・デラムは、どこか値踏みするような目でゴヤを見つめた。

 家主に促され、ゴヤは改めて着座したのだが──。

「はじめにお断りしておきます。私は、母の霊に取り憑かれてなどいません。私はジュディ・デラム本人です」

 真っ先に口を開いたのはジュディだった。

 そして彼女は、こう続けた。

「私はあなたと同じです。霊の声が聞こえます。霊の姿が見えます。私は父の屋敷に監禁されていましたが、必要な知識は、母の霊から教わりました。あなた方が疑問に感じたのは、母しか知り得ない出来事を私が知っていたから。そうでしょう? だからロドニー・ハドソンはあなたをここに派遣した。違いますか?」

「あの……はい、その通りなんですが……」

「なぜはじめから、救いを求める手紙を出さなかったのか。そうでしょう?」

「はい。筆跡を真似る練習をするくらいなら、最初からそういう手紙を特務部隊宛に送れば、無理な長旅なんかしなくても……」

「それでは特務は動いてくれません。私が監禁されている証拠も、強姦被害を受けて妊娠した証拠も、なにひとつ手元にないのですから。父の認知機能が衰え始めているとはいえ、迂闊なことをすれば、私はこれまで以上に厳重な監視下に置かれていた事でしょう。ですから、チャンスは一度きりでした。特務部隊が、情報部が、確実に動く形で事を運びたかった。だから私たちは……私と、あの男に辱められた女たちは、全員で知恵を出し合って、絶対に成功する方法を考えました」

「その言い方だと、被害者はあなたとお母様だけではないということですね? 作戦本部のメンバーは、具体的には誰と誰ですか?」

「私、母、祖母、かつてデラム家本邸で働いていたメイド四名と、その両親たち。あとは、あの男に襲われた市民階級の娘が八名です」

「今ここに、本人たちを呼び出せますか? 本人の証言を聞きたいのですが……」

「もちろんです。全員そのために、あなたの来訪をお待ちしておりました」

「……お願いします……」

 背筋に這いあがるゾワゾワとした感情を気合でねじ伏せ、ゴヤは手帳とペンを取り出した。そして霊が集まってきたところで、霊感の無い家主を置いてきぼりにしないために、《鬼哭》の魔法で霊を実体化させる。

 するとイヴァン・マクヴェインは、ぞろぞろと姿を現した霊に驚くどころか、さもありなんといった顔つきで言った。

「オカルト研究部の絶対的エースだったものね、君は。娘が同じ特殊能力者でも、僕はちっとも驚かないよ。ねえ、シンディ?」

 話しかけられた女性の霊は、申し訳なさそうに微笑んだ。

 けれど、何も話そうとしない。

 色恋沙汰に疎いゴヤでも、さすがに勘付いた。二人の間に漂う微妙な空気感は、かつて交際していた男女のものだ。

 ここはひとまず、話を流しておいたほうがいい。そう判断し、霊たちに向かって問う。

「時系列に沿って話を聞いていきたいので、まずは、一番古い時代に被害に遭った方からお願いします」

 これに応えたのは、古めかしいメイド服を身につけた少女と、その両親だった。

 少女は六十八年前、小学校卒業と同時に就職した。現在でも下層階級の子供は中学校に進学しないことが多い。当時としてはごく自然、当然の流れとして、領主の屋敷で住み込みの仕事を始めたのだ。

 だが屋敷に入って間もなく、少女はその家の次男、エンジュレアム・デラムの子供を身籠ってしまった。こういう場合、普通であれば少女の実家にある程度の金額を提示し、本人には出産、もしくは堕胎が済むまで暇を出し、事を穏便に納めようとするものだ。

 しかし、デラム家の次男はこの少女を手元に置き続けると言った。それを聞いて、少女の両親は喜んだ。それはつまり、この少女を事実上の妻として迎え入れるという宣言だからだ。当時の一般的な考え方では、この少女は下層階級の女が得られる幸運の中で、限りなく最上に近い玉の輿に乗ったことになる。

 このとき両親は問題の次男、エンジュレアム・デラムからこう言われた。

「他のメイドが嫉妬して、彼女に嫌がらせをするかもしれない。無事に出産を終えるまで、妊娠のことは秘密にしよう。絶対に、誰にも口外しないこと」

 両親はその言葉を尤もなことだと思い、ごく近しい身内にも、何も打ち明けずにいた。

 それが間違いだった。

 しばらくして、両親はエンジュレアム・デラムから呼び出しを受けた。

「正式な結婚は不可能でも、両親の前で花嫁衣装は着せてやりたい。内々で食事会を催しましょう」

 そう言われて疑う者はいない。両親はとっておきの晴れ着を着て迎えの馬車に乗り込み、そのまま、帰らぬ人となった。

 誰にも、何も話していないことが仇になった。彼らの死因はごくありふれた事故死とされ、デラム家とのつながりを類推する者はいなかった。

 そして両親の死から数日後、愛する家族の死に耐えたれず、悲しみに暮れた娘が自殺した──そんな筋書きで、話は丸く収められてしまった。彼女が妊娠していたことも、三人が同じ人間に殺されたことも、世間の誰にも知られていない。

「ん~……さすがに、もう証拠は残ってない感じ……ですよね?」

 六十八年も前のことだ。凶器も証拠品も、現場の状況を語れる証言者も、何もかも失われているに違いない。

 そう考えたゴヤだったが、ジュディ・デラムが首を横に振る。

「いいえ。彼女は絞殺されたあと、すぐに毛布で何重にも包まれて、その状態のまま棺に納められました。当時の埋葬方法は土葬です。ミイラ化した彼女の胎の中には、胎児が残されています。少なくとも、エンジュレアム・デラムから性的暴行を受けた事実だけは証明できるでしょう」

「別件と絡めて世間の心情に訴えかければ、ってヤツですね?」

「ええ。十分、勝ち目のある証拠となるかと」

「分かりました。それじゃあ、その埋葬場所を……」

 ゴヤは共同墓地の場所と区画番号を聞き出すと、すぐさまロドニーに連絡を入れた。

「……ってコトなんスけど、墓暴はかあばきの許可って下りますかね?」

特務ウチじゃあ無理だけど、情報部ならなんとかしてくれんだろ。話は通しとく。お前は次の被害者の話聞いとけ」

「了解ッス」

 通信を切ると、ゴヤは次の被害者から聞き取りを開始した。




 ロドニーからの連絡を待つまでも無く、情報部は動き出していた。現在、エンジュレアム・デラムの身柄は情報部の管理下に置かれている。彼は本部敷地内の迎賓館に宿泊し、一見すると『貴族らしい待遇』を受けているように見える。が、実際には薬漬けにされ、ピーコックの洗脳魔法で過去の出来事を洗いざらい吐かされていた。

 特務部隊オフィスの様子は、内部監査名目で設置された監視カメラで情報部には筒抜けだ。ロドニーが通話音声をオープンにしたこともあり、事前に聞き出していた情報とのすり合わせはリアルタイムで行われた。デラム家取り潰しの下準備として、騎士団本部は複数の部署から人員を派遣している。すでに現地入りしているそれらのチームに連絡を入れ、ピーコックはあっという間に墓暴きの段取りを整えてしまった。

「……次は六十五年前の……ああ、これか……」

 ロドニーに入る二回目の着信。その通話内容を聴きながら、ピーコックは速やかに必要な連絡と人員の手配を済ませていく。ピーコックの周りには、彼と同じ貴族案件専従チーム『コード・ブルー』の面々が集まっている。全員、ピーコックと共に供述調書の文言を目で追う。

 すべては順調である。ピーコックが聞き出した情報に間違いはない。しかし、だからこそ顔色は冴えない。

 数分ごとに舞い込むゴヤからの着信。そこで語られる、被害者本人の証言。それらを加害者の供述と照らし合わせていくと、非常に残念な事実が浮かんでくる。


 実際の犠牲者は、ゴヤの前にいる霊の数よりもずっと多い。


 ゴヤが全ての霊の証言を聞き終わった後でも、手元の供述調書には、まだ十数件の『自供』が記載されている。当然のことながら、それらすべての犯行をエンジュレアム・デラム本人が行うことは不可能である。強姦と監禁、数名の女性の殺害は本人の手による犯行だが、大多数の被害女性とその家族の殺害、および事後の処理には、別の人間の手を借りる必要がある。

 いくら雇い主の命令といっても、目の前の人間を平然と殺害できる使用人はいない。とすれば、エンジュレアム・デラムは証拠隠滅、情報操作、人心掌握に長けたプロの『始末屋』を雇っていたに違いない。

 しかしその点に関しては、何度洗脳を掛け直しても、うまく聞き出すことができなかった。

 洗脳が甘かった訳でも、ピーコックの誘導が悪かった訳でもない。エンジュレアム・デラムは「共犯者」「協力者」「実行犯」などの単語を耳にするたび、フッと意識を失ってしまう。これは催眠系呪詛を仕込まれた人間特有の反応だ。特定の単語に反応して眠気を催すよう設定しておけば、その人間は誰に何を聞かれても、肝心なことは何も答えられない。こんな呪詛まで仕込めるとなると、雇われた『始末屋』は、そんじょそこらのチンピラヤクザとは思えない。裏社会を知り尽くした凄腕か、あるいは──。

「犯行の段取りは完璧。証拠の隠滅も、周囲の人間を信じ込ませるシナリオも、当時の常識で見れば限りなく完璧に近い。ジュディ・デラムの件が無ければ、誰も彼らの死に疑いを持たなかった。これ、どう見ても素人の仕事じゃないよな?」

 ピーコックの言葉に、コバルトは軽く肩をすくめてみせる。

「それ、僕も気になっちゃってね。今朝方、地下資料室に降りてみたんだ」

 そう言いながら、コバルトはピーコックのデスクに一枚のコピーを置く。それは騎士団関係者の身辺情報を記載した身上書だった。

「……おおよそ見当はつくけど、一応聞いたほうがいいかな?」

「ま、そこはお約束としてねぇ?」

「これは?」

「七十年前に脱走した特務部隊員」

「脱走した理由は?」

「一言でいえば、人事への不満かな。この時代、事務や会計処理の一部に電子計算機が導入され始めていた。それまで手計算でやっていた事務仕事の負担が大幅に軽減されたため、特務部隊では専属事務員を三割減らして、一部の人員を別部署に異動、十二の小隊を九まで減らして再編することとなった。そのとき提示された再編案に反対して、結局折り合いがつかず脱走……だってさ」

「所属は……第十二小隊、チーム・ラプンツェル? 情報部の前身かよ……」

「で、ここを見てほしいんだけど。彼の本名、アーサー・べルガティスでしょ? エンジュレアム・デラムの母親の旧姓も、ベルガティスなんだよねぇ?」

「あー……繋がっちまったか」

「繋がっちまったねぇ」

「エンジュレアム・デラムの母親との関係は? 兄と妹? 妹と兄?」

「情報部で検索可能な書類上では、どちらが上か判断できない」

「え? 生年月日は調べられるだろう?」

「うん、調べたよ。その結果、二人は同じ日に生まれた二卵性双生児だと分かった」

「うっわ、双子かよ! ってコトはこいつら、普通の『兄妹』よりも仲が良かった……かもな?」

「あり得るね。双子ちゃんって、他人の目には異常に映るくらい仲が良かったりするし」

「双子の片割れの嫁ぎ先に逃げ込んできたのを、デラム家全員で庇って、匿っちまった……ってことか。地味に厄介なパターンだな。貴族の屋敷の中まで、強引に踏み込むことは出来ないし……」

「そういう前提で考えると、この件のアレコレが違和感なく繋がるんだ。情報部の前身、第十二小隊出身の工作員がデラム家に隠れ住んでいた。そして彼は自分の甥、エンジュレアム・デラムが犯した罪の隠蔽に手を貸していた。動機なんてわかり切ったことで、甥の悪事が明るみに出れば、自分がここに潜伏していることも、いずれバレてしまうから。エンジュレアム・デラムとアーサー・ベルガティスは持ちつ持たれつの共犯関係だった……と。この推理、良いと思う?」

「ま、それ以外無いだろうな。今も昔も、脱走者は『発見次第その場で射殺』だ。命が惜しかったら、どんな悪事にも手を貸すしかない」

「じゃあ、この筋で話を続けるよ。デラム家には凄腕の工作員がいた。その人物が完璧な事後処理をしてくれたおかげで、エンジュレアム・デラムは何の心配もなく、のびのびと第二、第三の犯行を重ねていった。脱走者と知った上でそれを匿った者は、本人と同様に処分される。家族はエンジュレアム・デラムの凶行に気付いていたかもしれないが、彼を止めるには、何らかのアクションを起こす必要がある。けれども、いつもと違うことをすれば、アーサー・ベルガティスを匿っていることを誰かに知られてしまうかもしれない。そうなれば自分たちも身を亡ぼす。だからデラム家の人間は、誰ひとり、彼らを止めることができなかった。エンジュレアム・デラムが兄嫁を強姦しても、兄は弟を追い出すどころか、自分が妻を連れて逃げ出している。そうせざるを得なかった理由は、弟とガッチリ手を組んでいる始末屋、アーサー・ベルガティスの存在……ってところじゃないかな?」

「納得どころじゃないな。もうそれ以外ないだろ、絶対」

「それなら、もう少しだけ話を続けさせてもらうよ。色々と調べてみた限りでは、エンジュレアム・デラムには、甥の領地経営や姪の大学生活をサポートするだけの能力はない。はっきり言って無能だ。でも彼は、それを問題なくこなしていたように見える。とすると、やはりここにも、かなり有能なブレーンがついていたとしか思えない。そのブレーンが、アーサー・ベルガティスだとしたら? 貴族の家に生まれた男子として、アーサーは一通りの知識を教え込まれている。騎士団では特務部隊にまで昇進し、特に頭の切れる連中しか入れない第十二小隊に配属されている。では彼は、今はどこにいる? 老齢で死亡していれば良いけれど、そうでなかったら……?」

「……最後の『後始末』に来るかもしれないな?」

「今更揉み消すことは出来ない。ジュディ・デラムを殺害するメリットも無い。エンジュレアム・デラムの身柄が騎士団本部に在る以上、彼の殺害は不可能。だから、常識的に考えればここで出て来る可能性は低いと思う。でも……それでももし、最期に騎士団への私怨を晴らそうと思い立ったら……?」

「……特務部隊員の現在地は?」

 ピーコックの問いに、シアンとナイルがスケジュール表をチェックする。

 ほぼ全員が中央市内にいて、警備部や治安維持部隊の人間と行動を共にしている。万が一アーサー・ベルガティスが接触を試みても、直ちに命の危険が及ぶとは考えづらい。だが一人だけ、表向きは休暇扱いとされながらも単独任務中の隊員がいる。

 それは、現在ヴェインハイブにいるガルボナード・ゴヤだ。

 ナイルとシアンはスケジュール表を見せながら、ピーコックの問いに応える。

「ガッちゃんだけなんだよね。若干……じゃなくて、わりとガチめに不安な場所にいるの」

「ヴェインハイブはマクヴェイン家の私兵隊が強い分、騎士団支部には通信基地レベルの人員しか配備されていない。いざという時に、支部からは応援要員が出せないな……」

「って、ちょっとシアン? まさか、行くとか言わないよね?」

「言うか。夜行列車で二日だぞ? 今から行っても間に合わない」

「良かった。ガッちゃんのことになると、シアン、ものすご~くアホになるからね!」

「おい、コラ、ナイル。俺のどこがアホだと?」

「どこって言うと……みんな、どこだと思う?」

 仲間たちに話を振るナイル。すると仲間たちは、満面の笑みで即答する。

「「「その辺かな~♪」」」

 目線はシアンのデスクに向けられている。

 彼らは知っているのだ。弟同然に可愛がっているガルボナード・ゴヤが中央を出たその時から、シアンがずっと、ゴヤの推定現在地の気象情報、事故・犯罪発生情報などを調べまくっていたことを。

 デスクの上には、その際使用した地図、鉄道路線図、地方ラジオの受信装置などが置きっぱなしになっている。シアンは仲間の視線に気付き、小さく「あっ……」と声を上げると、慌てて話を変える。

「と、ともかく! 次の連絡のタイミングでガル坊……じゃなくてゴヤに、アーサー・ベルガティスについて教えておこう。まさか、直接戦闘になるとは思えないが……」

「生きていたとしても、百歳超えてるもんね。エルフ族やアスタルテ族ならともかく、ベルガティスさん、ヤマネコ族でしょ? 平均寿命は八十くらいだったはずだし……」

 と、ナイルが話している途中だった。ピーコックの端末に、ゴヤからの着信があった。

「はいは~い、毎度おなじみ、ピーコさんだよ~? 何の御用かな~?」

 先ほどまでは、特務部隊オフィスのロドニーとの通話を監視カメラ越しに聴いていた。そろそろゴヤからの直接連絡があるだろうと踏んでいたため、このときは誰も危機感を覚えてはいなかった。けれども話を聞くうち、一同の顔色は変わっていく。

 反射的に飛び出そうとするシアンを、ラピスラズリとターコイズが両側から押さえつける。

「落ち着けシアン」

「アホになるなって!」

 一通りの状況説明を早口で済ませ、ゴヤは一方的に通信を切った。落ち着いて話をする余裕も無いということだろう。

 通信端末を乱暴に放り出し、ピーコックは背もたれに身体を預ける。

「……さすがはガッちゃん。引きの強さは神レベル……」

「たまには、何も引かないでもらいたいんだけど」

「無理は言うもんじゃないよ、コバルト。それがガッちゃんだ」

「ま、それもそうだねぇ?」

 応援要員は出せない。出したところで、絶対に間に合わない。

 今の彼らにできることは、ゴヤの勝利を信じて、事後処理の手はずを整えておくことだけであった。


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