空っぽな僕と君。
死後、僕に渡された箱の中身は空っぽだった。
聞いていた話だと、この中には生きた結晶が沢山詰まっているという事らしい。
僕はおかしいと思い周りを見渡した。
見てみると、周りの人たちはその綺麗な何かを箱から取り出して、大事そうに抱えていた。
僕はもう一度箱の中を覗き込んだ。小さな箱を隅から隅まで祈るように探した。
それでもやっぱり何もない。
いったい生前の僕は何をしていたのだろう。少しだけ怒りが湧いた。
けれど、ふいに悲しくなってしまって僕は箱を閉じた。
周りの人達はその綺麗な何かを抱えたまま、満足そうな顔をして静かに消えて行ってしまった。きっと成仏ってやつだ。
僕は箱を抱えたままその場に立ち尽くしていた。
それから僕は何人もの人達を見送った。
たが、どれだけ時間が経とうとも僕の箱の中は空っぽのままだった。
僕だけ一向に進むことが出来なかった。
それからまた時が経ち、1人の女の子が箱を持ったまま立ち尽くしているのを見つけた。
女の子は、来る日も来る日も箱を開けては閉めてを繰り返していた。
ある時僕は彼女に話しかけた。
「何も入って無かったんですか?」
女の子は少し不機嫌そうだった。
「いえ、入ってますよ。ただ、あまりにも綺麗なので大事に閉まっているだけです。そういうあなたはどうなんですか?」
僕は箱を開けて彼女に見せながら言った。
「空っぽでした。何も無かったみたいです」
彼女は少し口を緩ませた。
「へぇ。そうですか。可哀想な人ですね」
「そうですね」
僕は少しがっかりして、また部屋の隅っこに戻ろうとした。
すると彼女は
「可哀想なので、お喋りくらいなら付き合ってあげます。私もまだ成仏する気ないので」
とそっぽを見ながら言った。
それから僕達は部屋の隅っこで沢山の人を見送りながら、他愛もない話を眠くなるまで毎日続けた。
その間、彼女はいつまで経っても成仏しようとしなかった。
ある日僕が箱を開けると、中には小さな星のような綺麗な何かが入っていた。
僕は彼女にそれを見せると、彼女も自分の箱を開けて中を見ていた。
「はぁ、よかったですね。やっと心置きなく成仏できます。私に感謝してくださいね」
彼女は初めて僕に箱の中を見せてくれた。
僕のとよく似た、小さな星のようなものが入っていた。
「ねぇ、来世っていうのがあったらまた会えるかな?」
「きっと会えますよ。私たち似たもの同士ですから」
「そっか。なら良かった」
僕と彼女は箱の中から小さな星を取り出して手のひらに祈るように包み込んだ。
僕の頭に彼女と過ごした日々が流れ込んできた。
笑い合ったこと。少し怒ったこと。一緒に走り回ったこと。悲しい話をしたこと。隣で眠ったこと。好きなものを見つけたこと。
どれも綺麗で、全てが鮮明に僕を包み込んだ。
朦朧とする意識の中で僕は彼女に語りかけた。
「また絶対会おうね」
彼女は、僕が大好きな透明な笑顔で言った。
「はい、また私の事を見つけに来て下さいね」
「うん。絶対にまた君を見つけるから」
「約束ですよ」
彼女が小指をこちらに向けた。
僕もそれに応えて、指切りをした。
消えてしまう最期まで僕達は離れないように、固く指を結んでいた。