決勝
夜中っすよ。みなさん。
準決勝から1時間のインターバルをおいて行われる決勝戦に向けて新宿ダンジョンは人でごった返していた。リングは人垣に囲まれて小競り合いが起きる程で、少し離れたところではビールの売り子まで現れる始末だ。
「残すところはあと1試合!最強のゴブリンが決定します!これより、決勝戦です!」
「エジン、コジローペアの入場です!」
入場コールに会場が沸き立つ。神妙な面持ちのエジンとコジローがリングに上がり、更に歓声が大きくなった。
「ネームレス、フェイスレスペアの入場です!」
BOOOOOOOOO!
先程の歓声を大幅に上回るブーイング。大した人気だ。ついでにリング上ではエジンが睨みを利かせて待っている。
「なんだ。初対面なのに随分なご挨拶だな」
「茶番はよせ、根岸。お前はどこまでふざけるつもりだ」
「神に召されるまでだ」
「今すぐ神のもとへ送ってやろうか?」
「やめんか二人とも!戦うのはお前等じゃないだろ!もういいからさっさとリングから降りろ」
伊集院に弾かれてリングを降り、司会の声の後にゴングが鳴った。
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「おっと意外な立ち上がりです!フェイスレスが剣でコジローと打ち合っています!一体これはどういうことなんでしょう?」
「実は2戦ともフェイスレスの動きは良かったんすよ。ただ戦い方が小狡かっただけで」
「本当に驚きました!フェイスレスが普通に戦っています!素晴らしいです!」
「ヤンキーがちょっと良いことした時みたいっすね!」
「コジローの鋭い剣にフェイスレスが食らいついています!決して負けていません」
「フェイスレスが落ち着いて捌いてますね」
「2体の剣閃に会場が静まり返っています!これは本当にゴブリン達の戦いなのでしょうか!?我々が知っているゴブリンとはあまりにもかけ離れています!」
「本当に凄いっす」
「決勝にふさわしい熱戦です!世界中の人達が驚愕し、ゴブリンに心奪われていることでしょう!」
「目が離せないっす」
「一体この後どのような展開が待っているのでしょうか!?」
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コジローの斬撃の鋭さが徐々に増してきている。奴はスロースターターだったようだ。反応が遅れ始めている。そろそろ手を打つべきだ。
「フェイスレス!」
俺の声に反応したフェイスレスが短剣を大振りし、コジローが身を引いた隙に後方転回してマジックポーチに手を突っ込み、短剣を次々取り出す。
「剣を増やしてどうするつもりだ!?」
「ゴギャゴギャゴ!?」
「こうするんだよ」
「コーシルダヨ」
フェイスレスが【念動】で短剣を浮かし、自分も剣を構える。
「行け!」
「ギイ――!」
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「剣が舞っています!フェイスレスの一振りが幾重にもなってコジロー襲います!」
「【念動】のスキルですけど、練度が凄いっす!」
「しかしコジローも凌ぐ!なんで当たらないのか!」
「この大会を通じて初めてコジローが一方的に攻められてるっすね」
「しかし剣で弾き、身を躱し、当たらない!当たらない!当たらない!」
「ちょっとフェイスレス、不味いっすよ」
「というと?」
「いつまでもゴブリンが【念動】を使い続けることはできないっす。モンスターとしての壁があるんすよ」
「壁ですか?」
「そうっす。どんなに努力して研ぎ澄ましても越えられない壁があるっす」
「そんな、、」
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くそ。想像以上だ。コジローが凄いのか、鍛えたエジンが凄いのか。あれだけの斬撃をゴブリンが受け切れるものなのか。
【念動】が弱まり、一本、また一本と剣が落ちて沈黙する。少しずつ終わりが近づいているようだ。
宙に浮いていた最後の一本がカランと転がり、頼るものは手に持つ短剣のみだ。もう剣を振ることも出来ないのかもしれない。ただ真っすぐ構えてコジローを見据える。
「コジロー、やれ!」
「ギ!」
【斬鉄】
腰だめに構えたコジローの一刀が短剣をすり抜け、その仮面をも吹き飛ばした。
「ゴ右衛門!!!!」
誰もが言葉を失う中、和久津の叫び声だけが響いた。
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