第四話 九鬼 恭也(下)
俺は人にぶつかってフィーネたちの方へと向かった。
「何をしているんだ!邪魔だ!」
道を遮っているのは分かる。
邪魔なのも分かる。
自己中心的な考えかもしれないけれど、俺はあいつらを助けたいっ!
もし、運が良ければ俺らは死なないで済む。
だが、運が悪ければ俺らはゲームオーバーだ。
爆撃音が聞こえてきたから、もう戦闘を開始しているのだろう。
俺はあの吸血鬼を知っている。
この世界に転移した先に街があり、そこで平和に暮らしていたら、今の状況みたいになったのだ。
あの爆撃でヤツの仕業なのだと思った。
でも、彼女らの判断が早すぎて俺は止めることができなかった。
あの吸血鬼の空間に入ったら、死だ。
しかし、それを防ぐ方法は一つある。
俺の左手だ。
必ずや成功するとは限らない。
でも、ここで使わなくちゃどこで使うんだ。
この超強い異能を......。
***
俺が異能を持っていることに気づいたのは、異世界に転移してからすぐのことだった。
壮大な草原がスタート地点だった俺は、とりあえず人がいそうな方向に歩いていった。
3日くらいが経った頃だった。
いつも通り、森林で野宿していた俺は、喉が乾き川に向かったら、
「ウオオオオオオッッ!」
ミノタウロスが俺の方に走ってきたのだ。
......俺の異世界生活はここで終わるのか。
と、諦めたが、最後くらい抵抗しようと思い何故か聞き手じゃない左手をミノタウロスに当てさせたら、ミノタウロスは弾かれていたのだ。
ミノタウロスは俺のことを強いと勘違いしたのか、後ろ歩きで逃げて行った。
その時は生きた心地がしなかった。
俺の左手は全ての攻撃を無効化できるのかもしれない......。
と、勘違いしてしまい痛い目に遭ったのだった。
そう、確率的な攻撃無効化なのだ。
何度も試してみた。
勿論、弱いモンスターでだが。
これは使えないなと思い、今まで誰一人にこの能力は見せていない。
今まで俺はパリィを、見たことがなかった。
かなりレアなのだはないかと俺は思っている。
***
俺ははじめに爆発した場所にようやく着いた。
そこにいたのは、倒れているフィーネ、弓を持って立っているピーター。
そして、以前いた街で見た不気味な笑顔を常にしている吸血鬼だった。
その吸血鬼が詠唱をし始めた。
「原初の血と雫、その理を打ち砕くとき、天童・快」
吸血鬼の指にエネルギーが注がれていった。
まだだ。
ベストタイミングで行かなくちゃ失敗する。
指先を動かそうとする刹那。
俺はダッシュでフィーネとピーターの前へ立ち、左手をラ・パディアが放たれたところに向けた。
お願いだっ!
成功してくれっ!
ドーーンッッッ!
目を開けたら、さっきいた場所にいた。
......良かった。
だが、ここからが本番と言っても過言でもない。
ここから勝てる方法は、相手を欺くことだ。
煙は段々と散っていき、視界が広がっていた。
「ッッッ!」
吸血鬼は相当驚いている顔をしている。
フィーネとピーターも驚き、俺に声を掛けてきているところだが、俺は無視をする。
ごめん。
でも、何かの作戦なのかと察してくれて、静まり返った。
「俺は相手の攻撃を無効化できるんだ」
余裕のある笑みでそう言ってみせた。
全然余裕ねえけどなっ!
そこから、一気に不意打ちをかける。
「俺と戦おうぜ」
そう言ったら、かなり動揺した。
なぜなら、ラ・パディアという術はヤツにとっては必殺技みたいなものだったからだ。
あの威力を無効化できてしまうのだ。
相手から見たら、俺は最強だと見えてしまうだろう。
それに、まだ戦っていな段階でも、こいつは色んな能力をを隠しているのではと考えるだろう。
そしたら、こっちのもんだよ。
「ちょっと新しい技覚えたんだ。試してもいいか?」
当然、そんなものは俺にはない。
「じゃあ行くぜ」
「ちょ、ちょっと待て下さい」
「何だ?」
威圧をかける。
「もう、ここで私は帰ります。最後に尋ねたいことがあります。あなたは何者何ですか?」
よっし!
俺の勝ちだ!
でも、吸血鬼がいる限り、いつもの俺にならないように慎重にいこう。
「俺は何者でもない。ただのクキ・キョウヤだ」
「そうか。覚えておこう」
と言って、もの凄い強い吸血鬼は何処かに転移していった。