第三話 休日
約束通りに一時間後にフェルツの前にやって来た。
その後にフィーネが続いて、最後にピーターが集合場所に来て、全員が集まった。
「さあ、行こうか」
「今日は久しぶりの休日だな」
ピーターはそう言った。
「吸血鬼狩りってそんなにブラックなのか」
「ぶらっくって何?」
二人とも聞いたことのない単語を耳にして俺の方に向いてきた。
......そうか、知らないよなこの言葉。
説明してみることにした。
「ブラックっていうのは、働く時間が長いということだ」
「おお、そうなのか。じゃあ、吸血鬼狩りは滅茶苦茶にブラックだな」
吸血鬼狩りになるかもしれない相手に滅茶苦茶ブラックとか聞かされたら、入る気なくなるな。
「ブラックの分、報酬はおいしいけどね」
フィーネ、今の言葉でモチベーションが上がったよ......。
この後の会話は、他愛のない雑談をしていた。
***
「ここの店のパン凄い美味しいのよ」
どうやら、この店はフィーネにとってお気に入りのようだ。
俺たちは屋台が連なっている中央通りにやって来た。
フェルツに向かう時に通っていたからかなり気になっていた。
休日の夜ということもあって、賑やかになっている。
......だが、もう少しで21時になるけど。
「僕はクリームパンを食べようかな」
ピーターはメニューに目を通してそう言った。
まさか世界にもクリームパンはあるとは。
しかし、メニューを見たところカレーパンは売っていなかった。
そもそもこの世界にカレーというのはないか。
......いいことを考えてしまった。
以前いた世界であった料理を提供すれば爆発的に人気になるのでは?
この考え方は結構汚いけど、お金に困ったら挑戦してみよう。
「そこの少年はどうするんだい?」
店のおばちゃんに声をかけられた。
フィーネとピーターを見てみると、両手にそれぞれのパンを持って、もぐもぐと咀嚼している。
俺は大変困った。
お腹空いていてパンという炭水化物を食べたいところだが、お金がないのだ。
そんなことを思っていたら、フィーネが気づいたのか、俺に財布を渡してくれた。
「ありがとう、フィーネ」
フィーネは食べている途中だから、声は発せれずにコクコクと頷いた。
「じゃあ、一番人気メニューでお願いします」
「はいよ」
と言って、ケースの中から取り出したのは、パンの窪の中にたっぷりと野菜が入っているパンだった。
「銅貨3枚ね」
フィーネの財布の中から銅貨3枚を取り出した。
この恩は絶対に返さなくちゃな。
俺もパンを咀嚼してみると、食べたことがない歯応えだった。
野菜がパリッとしていて新鮮味がかなりあった。
が、やっぱり食事は以前いた世界の方が美味しいな。
まあ、それは文明の違いだから仕方ないよな。
皆が食べ終わったら、またこの辺をフラフラすることにした。
俺たちが店を離れようとした瞬間、
ドッカーーーン!!
強烈な爆発音がした。
背後からの音だったから、振り向いたら100メートル先くらいの建物周辺が崩壊していたり、燃えている。
「ピーター行くわよ!キョウヤくんは危ないからついてこないで!」
そう言って、ピーターとフィーネは瞬く間に過ぎ去っていた。
俺は足を前に運ぶことすらできなかった。
恐怖。
その2文字につきた。
あっちに行ったら、おそらく死ぬんだろうと確信した。
ここの住民は猛烈なスピードで俺の方向へと走ってきた。
「吸血鬼だ!」
「逃げろ!」
「もっと早く走れ!」
もう、混乱の渦となっている。
恐らくフィーネたちのもとに行ったら、死体の山を目にするだろう。
勿論、俺もそこに行ったら、死ぬのだろう。
......だが、何故か俺は一歩前に前進していた。
そして、もう一歩。
もう一歩と。
周りの人に体が接触して転倒しても立ち上がった。
俺は思った。
ここで戦えに行けない奴は、吸血鬼狩りになれやしねえと。
それに、あいつらが死んだら、一生後悔するんじゃないかと。
だから、覚悟はできた。
「オラあああああああッッッッッ!」
今までにないスピードで走り出した。