第二話 フェルツ
恐らくブリテリア王国の中で一番大きな建物であるフェルツの中に俺は入ってしまった。
金色に輝いている絨毯がここらでは見えない先の方までひかれているだろう。
「キョウヤ何しているの?」
フィーネがそう訊いてきた。
俺以外の二人は何ともない顔をしている。
むしろ、「キョウヤ何処か具合悪いの?」みたいな目で見ている。
この二人には吸血鬼狩りになって庶民の気持ちが分からなくなっているんだろう。
吸血鬼狩りは国規模で動いているらしいからな。
こういう豪華な建物には慣れているんだろうな......。
......俺も吸血鬼狩りになったら、庶民派ではなくなるんだろうな......。
まあ、その心配は吸血鬼狩りになってからするべきか。
「ボーと立ってないでさっさと進むわよ。吸血鬼狩殲滅部隊部屋まで遠いしね」
吸血鬼殲滅部隊という用語は初めて聞いたが、吸血鬼狩りの組織のことだろう。
それにしても名前かっこいいよな。
目的地の部屋まではフィーネが言っていた通り、かなりの距離を歩いた。3階に上がったと思ったら、2階へと下る。
フェルツという建物の中がかなり複雑な形になっているのだろう。
目の前に大きな扉があるところにやってきた。
それは即ち吸血鬼狩り殲滅部隊の本部にやって来たということだ。
ここに来て、かなり緊張してきた。
だが、フィーネとピーターは俺を気にする素振りすらなく、巨大な扉を開いた。
「叔父様、キョウヤさんを連れてきました」
部屋の中に入ってみると、目の前に円卓会議がされそうな机に一人ダンディな男が座っていた。
この人がフィーネが言っていた叔父様か......。
吸血鬼狩りの長だと思う。
まだまだこの組織について詳しく知らないけれど、何となくそんな感じがした。
「おう、君がキョウヤくんだね。私はフェルズと言うものです。訳あって吸血鬼狩りという職業をやっています」
その訳っていうものを知りたいが、流石に訊ける勇気が俺にはない。
「ポノン。紅茶を淹れてくれ」
奥の方からポノンとフェルズさんに言われている人がやって来て、こっちに一礼してから、紅茶を淹れに行った。
彼女はここのメイドか。
「ではキョウヤ君よ。少し話をしませんか」
フェルズさんから椅子に座ることを促がされた。
フェルズさんと対面する形で座ることにした。
フィーネとピーターに関しては、俺を挟む形で座った。
「キョウヤ君はこの二人から好かれているのかね」
「....どうなでしょうね」
曖昧な笑みを浮かべることしかできなかった。
「早速だが、キョウヤ君には書類を書いてもらいたい」
そう言ってフェルズさんは俺の前に書類を置いた。
だが、何を書いているか分からなかった。
なぜなら、俺はこの世界の字を読めないからだ。
言葉は何故か通じたのだけれど、文字は以前いた世界で見たことがないのが使われている。
「どうしたのかね」
書類をずっと目視していたから、声を掛けられるのは当然だった。
「....あの実は俺文字が読めないのです」
正直に言った。
「ふむ。キョウヤ君の生まれは中東の方かね」
「....はい。実は3年前に両親を亡くしてしまってここの国にやって来たのです」
嘘をついてしまった......。
「......そうだったのか。失礼な質問をしてしまったな」
罪悪感半端ねえ。
「いいえ、全然大丈夫ですよ。もうとっくに受け入れてますし」
「そうか。ではキョウヤ君には文字の勉強をしなくてはな」
「はい。よろしくお願いします」
文字が読めないとかなり不便だ。
これを機に文字について学んでみよう。
「この書類は後回しにしよう。今日はだいぶ長旅になっただろうしゆっくり休むといい。だが、明日からはフィーネが吸血鬼狩りについて必要なことを指導するからな。よろしくなフィーネ」
「はい。叔父様」
そういえば会話の中でこの二人一言も喋っていなかったな。
「あの、紅茶をお淹れしたのですが飲んでいきます?」
メイドのポノンが紅茶を持って来ているか否かを確かめに来た。
「せっかく入れてもらったんだし、俺飲んでいきます」
「私が淹れてといったんだし、ここにいる人は全員飲んでいくように」
そう言って、皆の前に紅茶が置かれていった。
飲んでみると、以前いた世界の紅茶と変わらないような味がした。
......ここは本当に異世界なのか?
そう思ったのは、言葉はなぜ通じるのかがきっかけだった。
....そうなの考えていても仕方ないか。
少し考え事をしている間に紅茶を飲み終わっていた。
「キョウヤ様、おかわりはいりますか?」
「あっ、いらないよ」
メイドさんはよく人を見るんだな。
この後、俺とフィーネとピーターは夜の王都を散歩することを決めた。