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ウーベル食べるよん!  作者: 破魔矢タカヒロ
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第5話:ウイルス

 1等陸佐はサラダに付けるドレッシングの小袋が物証だと言うのだが、もちろんそれだけでは話が見えない。




 そこで副長が詳しい説明を求めた。




「で、ドレッシングの小袋がどうかしたのか?」




 もちろん、1等陸佐は直ちに返答するわけで、




「例えば、牛丼をお持ち帰りにすると、紅ショウガが入ったプラスチックの小袋を付けてくれますよね。ああいう小袋のことです。他にも、醤油が入ったもの、塩が入ったもの、薬味が入ったもの、ウスターソースが入ったもの、それとかマヨネーズが入ったものがありますね。それで、今回の件ですが、サラダにかけるドレッシングが入った小袋の中からウイルスが検出されたのですよ」




「ウイルスとは、新型コロナウイルスのことか?」




「はい、そうです。遺体からコロナウイルスが検出されたのは小袋に入っていたウイルスをドレッシングごと口に入れてしまったからでしょうね」




「しかし、どうしてそのことが判ったのかね?」




「証拠として保管してあった料理の残りを、念のため、店のスタッフに見てもらったのですよ。それで、件の小袋には店名などがプリントしてあるわけですが、プリントに不審なところはなかったものの小袋のプラスチックの材質が少し違う気がすると言うのですよ」




「それで、小袋の中身を調べたわけか?」




「ええ、我が隊の生物化学兵器分析班に調べさせました。まずはドレッシングの未開封の小袋の中身を分析してみました。そうしたところ、小袋の中に新型コロナウイルスが封入されていたというわけです。ちなみに、小袋の材質ですが、店のものよりもフィルムの厚いプラスチックが使用されていました。それから、他の小袋についても中身を分析してみたのですが、他のものを入れた小袋からも新型コロナウイルスが検出されました」




「そうか、それはでかしたな。それで、毒物の方はどうだった?」




「やはり検出されませんでした」




 この話を聞いた隊長があることに疑問を持った。




「なるほどな。しかし、ひとつ引っ掛かるのだが、浦安の老夫婦は海老のチリソースを食べた直後に亡くなったと聞いている。しかし、海老のチリソースには、普通、ドレッシングはもちろん、塩もウスターソースも醤油もかけないだろ。味の好みは人それぞれとは言えな」




 この問いに対して1等陸佐が答えた。




「チリパウダーをかけたのですよ。あの老夫婦は年齢の割に辛いのが好きだったみたいですね。普通、宅配メニューにせよテークアウトメニューにせよ、中華料理にチリパウダーを付ける店などありませんが、何故だかチリパウダーが入った小袋が現場に残されていたのです。ところが、その店のスタッフによると、チリパウダーが入った小袋など付けていないし、そもそも店にもチリパウダーなど置いていないと言うのですよね。実は、存在しないはずのチリパウダーがあることを不審に思った店のスタッフが、それをきっかけに、小袋の材質の違いに気が付いたというわけです」




 これを聞いた隊長が納得した様子で言った。




「なるほど、犯人は、ありもしないチリパウダーの小袋まででっち上げたというわけか。念を入れ過ぎたのだな。しかし、そのお陰で謎の一つが解けたな。すると残るは誰が犯人かだが ・・・」




 隊長のこの疑問に対して、副長が意見を述べた。




「同じ店の料理を食べて死んだのなら、店側が疑われるところですが、犠牲者たちは異なる複数の店の料理を食べて死んだのですよね。だったら、料理を運んだ人間の仕業ではないですかね? 被害者たちはデリバリーされた料理を食べたと聞いていますけどね」




 この意見を聞いた隊長は、早速、指示を出した。




「なるほど、デリバリーか、つまり、料理の宅配を請け負う業者が怪しいというわけだな。よし、おい1等陸佐、デリバリーをした業者を洗ってくれ」




「はい!」




 指示を受けた1等陸佐はすぐさまどこかへと駆けて行った。




 そして、1時間後 ・・・




 1等陸佐が隊長のもとに報告をしに来た。




「隊長、どのケースもデリバリーをしたのは『ウーベル食べるよん!』という業者でした。UBER eatsを真似てデリバリー事業を2年前に始めた業者です」




 この報告を受けた隊長は1等陸佐に更なる情報を求めた。




「ああ、『ウーベル食べるよん!』か、その業者の配達リュックならどこかで見たことがあるな。それで、その業者の素性も調べたのか?」




 求めに応じて1等陸佐はすぐさま説明を始めた。




「はい、それも調べました。2年前に設立された会社です。代表取締役社長の氏名は金森武といいまして、今は日本人ですが、2年前に帰化した在日北チョソン人の3世です。どうやら、北チョソンの息がかかった会社のようですね」




 すると、隊長と1等陸佐のやり取りを脇で聞いていた副長の表情が色めきだった。




「北チョソン! やはり奴らか! すると、奴らの作戦というのは ・・・」




 隊長もすぐに反応した。




「これだったのだな。つまり、奴らの作戦とは我が国の市民へのテロ攻撃だったのか。だとすれば、今はまだ小袋から毒物は検出されていないが、詳しく分析すればきっと何か出てくるはずだな。おい、1等陸佐、料理に付いていた小袋を調べ直してくれ、急げ!」




「はい!」




 1等陸佐がいずこかへと急行するのを見届けた隊長は副長にも指示を出した。




「毒物が確認されるまで待っていたのでは間に合わない。おい副長、海上保安庁に要請してくれ、北チョソンの奴らは日本海を渡って帰国するつもりだろうから、不審な船舶やボートを発見したら、漏れなく拿捕するように言うのだ。容疑などなんでも構わん。片っ端から捕えて吐かせてやる。もう数時間もすれば、奴らは必ず日本海を渡ろうとするはずだ。奴らの工作船も既に沖で待機しているだろう。奴らはその工作船に乗り込むはずだからな。副長、急いでくれ、頼んだぞ!」




「はい、承知しました!」




 一方、




2020年9月7日の夜。


新潟県のとある海岸。




 例の怪しげな男女の二人は海岸に近いバス停で下車し、今は海岸の岩場にいる。




 何かを探しているようだ。




 女が言った。




「あの辺りですかね?」




「ああ、あの電信柱の下のところに隠してあると聞いている。さあ、探すぞ」




 20分ほど探したところで女が探し物を見つけたようで、




「あ、これですね」




 男が女のいるところに来た。




「うん、これだな。ほお、随分と丁寧に畳んであるな。やはり同志の仕事は手抜かりがない。さあ、広げて空気を入れるぞ」




「はい」




 20分後。




 男がボートの膨らみ具合に満足した様子で言った。




「よし、これだけ膨らめば十分だな。早速、乗り込んで沖に出よう」




「はい」




 二人は移動中に購入しておいたオールをゴムボートにセットして、ボートを海に浮かべ、沖へと漕ぎ出した。




 女が不安気に言った。




「海が荒れていますね」




「台風の影響だな。九州からはかなり離れているが、超大型の台風だからな、この程度には荒れるさ。なーに、こんなの大したことないさ、訓練ではもっと荒れた海を漕ぎ切っただろ」




「はい、仰る通りですね、これくらいなら平気ですよね」




「そうさ、なにせ俺たちはコクリョ民主主義人民共和国の軍人だからな、こんなの平気だよ」




 2時間後。




 女が心細そうに言った。




「もう随分と漕ぎましたよ。位置信号も出しているのに工作船が来ませんね」




 男が答えた。




「ああ、この辺にいるはずなのに、変だな」




 すると、女が、




「あ、サーチライトだ! 同志の船ですね」




「おお、そうだな、あれだな」




 しかし、10分ほどの時間が経過すると、女がたいそう驚いた表情で、




「あ、あれは! そんな!」




「えっ! どうしてだ! あれは日本の海上保安庁の船じゃないか!」




=続く=


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