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ダンジョンで再会するのはよくあること


 ずりずりと壁から落ちる。


 魔物は捕食を目的としない。

 倒したと判断した相手からはすぐ興味を失くして去っていく。

 ズシンズシンと地面の揺れは遠くなり、静寂が訪れた。


 リオはしばらくぼんやりする。


 絶望的だと思われた、経験値一億を突破した。

 待ちに待ったレベルアップに小躍りして叫びたい衝動があるにはある。せっかく遠ざかっていくひとつ目巨人が舞い戻ってくる危険を考える冷静さはあるものの、それよりなにより。


「レベルが一気に、12まで上がった……?」


 その事実にただただ驚いていた。


 もしかしたら、レベル3に上がるにも経験値が一億必要だと危惧したこともある。

 しかし彼は知っていた。あの女神のずぼらな性格を。


 だからきっと、レベル3以降を彼女はまったく考えておらず、通常通りの数値になると信じていたのだ。


 ところが、である。


 リオは頭の中で計算する。

 先ほど獲得した経験値は12500だ。レベル2までに必要だった分を引き、以降、一般的なレベルアップの経験値数を照らし合わせる。


(8……いっても9がせいぜいだよね?)


 仮にレベル9だとして、レベル12までには1万五千ほどの経験値が要る。

 もちろん個人差はあるが、それにしても乖離が著しい。


(ふつうの人の半分くらいに減っている、かな?)


 リオの計算上では、それで辻褄が合う。だが『今の時点で』との条件付きなので、確証とまでは言えなかった。


(……まあ、今は置いておこう。ひとまずステータスの確認だよね)


 念じてステータス画面を開いてみれば。


=====

 HP :320/320

 MP : 70/ 70

 STR:141/273

 VIT:157/290

 INT:104/223

 MAG: 65/147

 AGI:126/288

 DEX:103/215

=====


 左の値が今のリオのステータス値。最大まで鍛えていたので、これはレベル1でのレベル内MAX値だ。

 右の値はレベル12におけるレベル内MAX値。鍛えればここまで上げられる。


 一般的に、レベルが1上がると各ステータスのレベル内MAX値は10前後上がる。だから11レベル分一気に上がると、およそ110前後の伸びが期待できる。


(筋力《STR》と体力《VIT》の伸びがいいな。もともと高かったけど)


 目を見張ったのは俊敏《AGI》だ。一気に162も増えていた。


 ただし残念な項目もある。


(魔力《MAG》が低い。それに――)


 レベルアップして、密かにリオが期待していたこと。


(魔法、覚えなかったな……)


 魔法は通常スキルに現れる。

 しかし他の通常スキルのように『やって覚える』ものではない。スキルに現れなければそもそも使えないからだ。


 魔法系スキルは、レベルアップとともに習得される(スキル欄に現れる)性質のものだった。


 どの時点で習得するかは才能によりけり。魔法の才能に優れた者なら、レベル2の時点で複数もあり得る。


 ところがリオは、レベルが12に上がってなお、ひとつも覚えなかったのだ。


(まあ、こればかりは才能だ。もともと魔力は低かったから、こういうものなんだろう)


 リオは気持ちを切り替えた。


 大目標であるレベル2を突破し、しかも一気に12まで跳ね上がった。

 これ以上の成果はない。

 ステータス値の伸び具合で自分の特性傾向がある程度わかったのも収穫だった。


 ここからは、自身の戦闘スタイルを決めなければならない。


 これまでのようにただ殺されかけて経験値を稼ぐのではない。もちろんそれを活用しもするが、多くの冒険者がそうであるように『戦って勝つ』ことを覚えなければならないのだ。


 七大ダンジョンの攻略には、それぞれの奥底に巣くうダンジョンボスを倒さなければならないのだから。


(まず魔法は頭から捨てる。回復系はもともと必要ないし、攻撃は物理に特化だね)


 魔法しか効かない相手は専用アイテムか魔法効果のある武具でカバーすればいい。


(器用《DEX》が平均的ってことは、中長距離用の武器は避けたほうがよさそうだね)


 弓や投擲武具の命中率は器用さに直結する。ここが優れていないと無駄な攻撃を繰り返す羽目になる。

 複雑な操作が必要な武具も除外。

 であれば近接戦闘を基本スタイルにするのがベストだろう。


 とはいえ。


(剣に槍、斧、槌……けっこう種類がいっぱいあるんだよね)


 いっそ筋力や体力に任せて肉弾戦を仕掛ける戦い方にしてしまおうか?

 武器の扱いにも器用さは影響する。端から武器を使わなければ器用さは関係なくなる。

 ただ肉弾戦主体だと、武器主体よりも攻撃力が劣ってしまうのが難点だった。


 あれこれ試して、けっきょくすべてのスキルレベルが平均以下、という事態は避けたい。『これだ!』とひとつに決めて、集中してスキルレベルを上げたかった。


(む、難しい……)


 リオが悩むのには理由がある。


 今まで多くの冒険者パーティーに随行し、たくさん『一流の技』を目の当たりにしてきた。

 真の一流は動きが洗練され、まるで舞い踊るように戦っていたのだ。

 毎回、その美しさに目を奪われた。彼らの姿が目に焼き付いて離れない。

 手本となるのが一人なら、迷わずそれを選んだろう。しかし彼らはそれぞれ多種多様な武具を使いこなしていたので、どれもこれもがカッコよかった。


(母さんの戦いぶりを見られたらよかったんだけどな……)


 解けない呪いに体を蝕まれた母には無理なお願いだ。顔にこそ出さず明るく生活していたが、そんな母に無邪気に頼めることではないと、幼いながらリオも理解していた。


 リオの母は剣士だった。厳密には魔法も操る魔法剣士だ。

 だからといって、母のような剣士になりたい、との強い想いはない。


 それでも腰に短めの剣を差しているのは、ただ取り回しがよいとの理由だけではなかった。憧れてはいるのだ。


(いちおう【剣術】はレベル2になっているし、やっぱりこれかなあ?)


 そういえば、とリオは思い出す。


(母さん、双剣使いだったっけ)


 伝え聞く話によれば、であるので彼は実際に見たことはない。


(まあ、器用さが平均的な僕じゃ、剣を二つも同時に操るなんて無理だな)


 目指すだけ無駄だ。


(でも、カッコよさそう……)


 そこは14歳の少年だ。諦めきれない部分もあった。


 帰ってゆっくり考えよう。そう決めて、立ち上がる。


「そろそろこの場を離れないとね」


 ロウ・サイクロプスは去ったが、他の魔物が寄ってこないとも限らない。

 リオは大荷物のところに戻ると、軽々と背に担いだ。


「せっかくだから、鍛えながら帰ろう」


 リオは駆け出した。迷宮の出口まで走り込みをするつもりだ。

 魔物に遭遇したら極力逃げる。

 ようやくレベルアップを達成した今日くらい、美味しいご飯を食べてゆっくり寝るのもいいだろう。


 油断はしていないつもりだった。

 しかしどこか気が緩んでいたのだ。


「な、んで……?」


 しばらく走った曲がり角。

 そこに――。


『オオォォゥ……』


 ぎょろりとひとつ目を動かす、ロウ・サイクロプスが立っていた。


(さっきの奴だ。待ち伏せていたのか?)


 いや、こちらに気づいていたならそんな遠回りなことはせず、走って向かってくるはずだ。


 たまたま。偶然。

 ここで立ち尽くしていたのに出くわした。


『オオォォオゥッ!』


 見つかった。

 一人きりの現状、一対一でも逃げられる自信がない。レベルが大幅に上がっても、まだステータスはレベル1のときのままなのだから。


(ともかく荷物を守らないと)


 最優先はそれ。リオは慌てて荷物をその場に落とし、すぐさま離れようとした。が――。


(ダメだ。向こうのが速い!)


 巨大な棍棒が、荷物ともどもリオを吹っ飛ばそうと――。


一刀いっとう――」


 女の子の声がした。


七閃しちせん!」


 まばゆいばかりの光がいくつも散る。


 次の瞬間には、ひとつ目の巨人がバラバラになって地に落ちた。


 リオの目の前を疾風のように通り過ぎ、おそらく巨人を倒した誰か。

 背を向けた格好でうずくまり、手にした細身の剣を腰に戻した。チン、と涼やかな音が鳴る。


(あれは……刀か)


 片刃で反りのある珍しい剣だ。使いこなすには高い技術が要求される。


(女の、子……)


 すっと立ち上がった体躯は、リオよりも低い。後ろ姿からも華奢だとすぐわかった。

 黒く長い髪を後ろでひとつに束ねた彼女が、それを揺らしながら振り向いた。


(――ッ!? 母さん?)


 母の姿が重なった。でもそれは一瞬で、やはりどこからどう見てもリオより年下の、女の子だった。


「お怪我はありませんか?」


 心配そうに見つめる愛らしい顔立ちは、リオの記憶にないものだ。

 けれど母と重なる面影は紛れもなく――。


(ミレイ……)


 リオは心の中で、生き別れた妹の名をつぶやいた――。



次回、刀使いの女の子は妹なのかどうなのか?




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― 新着の感想 ―
[気になる点] 何の武器にするのかな? 双剣は器用高くないと無理だし、刀も高い技術が必要だし [一言] 続きが早く読みたいです
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