究極スキルの弱点
鋭い金属音が響き渡る。
幾度となく血飛沫が撒き散らされた。
「リオっちがんばえ~、ふわぁ~……。やっぱコレ終わんなくね?」
グレーテが大あくびをしてこぼす。
「よく見てみろ。だんだんリオが押されてきた」
ん? とグレーテが目をこすって見やる。
リオは槍の遠い間合いに苦戦していた。左右の剣を駆使し、風刃や地割れを生み出してどうにか接近できたとしても、今度は長槍が三節に分かれて捌かれる。
剣が二本のリオに対し、中央部分と片側部分でそれを受け、残る片側部分で攻撃を仕掛けてくるのだ。
動きも次第に洗練されてきて、近寄っても不利が変わらない。鋭い槍の切っ先を避ければ再び長槍の間合いとなり、エルディアスは畳みかけてきた。
「だんだんこなれてきたってこと?」
「それもあるかもしれねえが、根本的なところで差が開いちまってるんじゃねえかな」
グラートは二人の戦いを眺めながら言う。
「おそらくだが、相手のが成長スピードが早い」
リオは死に瀕して大量の経験値を得る。戦いが始まってからレベルアップもしていた。
だがレベルが上がってもステータスは伸びない。戦い続けることで上がってはいるが、そちらはむしろエルディアスの方が早いとグラートは考えた。
「ぶっちゃけ脅威だぜ。リオ自体もステータス上昇スピードがめちゃくちゃ速いのによ」
固有スキルや経験値の取得量が異常なので目立たないが、リオは専用の固有スキルを持っているかのような伸びをしているのだ。
「けどさー、別に意味なくね? リオっちは死なないしなー」
そう、リオは死なない。それほど破格の固有スキルを持っている。
そして心が折れることもない。
どれだけ傷ついても、どれだけの恐怖を味わっても、リオは一億という途方もない経験値を獲得するまで戦い続けた。
今なお、何かに取り憑かれたように戦い続けているのだ。
不意に疑問が浮かんだ。グラートは首をひねる。
あの白い少年は、リオのそんな性格を知らないのだろうか?
なにやら因縁がある様子の二人。
自分たち以上にリオの性格を熟知していても不思議ではない。
仮にそうだとすれば、この戦い自体が無駄だと悟るはずだ。
(無駄じゃねえって、確信があるのか?)
グラートの不安は的中した。
「なんだありゃ?」
エルディアスは槍を素早く動かし始めた。虚空に何かを描くように――いや、実際に槍の切っ先の軌跡が、薄く光って何かの形を描いていく。
「アレって……棺?」
グレーテのつぶやきのとおり、ここ砂岩迷宮アヌビスのピラミッド内でときどきお目にかかるモノの形に酷似していた。
迷宮内では宝箱と同等の扱いながら、ときに強力な魔物が潜むトラップでもある。
もっとも形や大きさは同等でも、輪郭が光っているだけの無色透明。
「ちくしょう! そういうことかよ!」
宙に浮く透明の棺が、弾けるように飛び出した。
「あいつは初めからリオを倒す気なんてなかったんだ。あいつがやろうとしてんのは――」
リオを目がけてまっすぐに突き進む。
「檻に閉じ込めることだったんだ!」
絶対に死なない固有スキルを持つリオ。
しかしその身を物理的に封じてしまえば、その寿命が尽きるまで外界には干渉できない。
「いやいやいや、そんな魔法ある?」
「ねえよ。少なくとも俺は見たことも聞いたこともねえ」
「うへえ、切り札温存とか性格わるー」
「どうだろうな。リオ以上の成長スピードを持ってんだ。戦ってる最中に覚えたのかもしれねえ」
あるいは、創ったか。
むしろそちらのほうが説明としては納得できる。
未知の魔法だ。外の世界とまったく異なるルールで動いているこの島なら、どんな不可思議な事象が起こってもおかしくはないのだ。
リオが横に跳んで避けた。
目標を見失った魔法の棺は空気に溶けて消えていく。
「リオっち! 二個目きた!」
「――ッ!?」
続けざまに放たれた、無色透明の魔法の棺。先ほどよりも速い。
すんでのところで避けたものの、体勢が崩れた。
「うぎゃーっ! リオっち避けてー」
三つ目が来た、のではなかった。
避けたはずの二つ目がぐるんと方向転換して追いかけてきた。
「自動追尾だと?」
「さっきはあんな機能、なかったよね?」
これまた成長している、ということだろう。
「くっ」
リオは懸命に躱そうとしたものの、体勢が整わない中では無理があった。
魔法の棺がリオと重なる。
と同時に、棺がまばゆく光った。
輝きはすぐに治まったものの、棺全体がうっすらと光を帯び、そして。
「閉じ込められたーっ!」
グレーテの絶叫が響いた――。




