相譲らず
左手の剣を振り下ろす。
エルディアスは長槍を横にして受け止めた。
激しい音が響く中、グラートが声を上げる。
「ヒュー、リオのやつ、マジでやるつもりだぜ」
エルディアスは人ではない。魔物とも違うようだが感情があり、人の形をしているので躊躇いはあった。しかしリオは容赦なく剣を振るう。
がら空きの胴へ、右手の剣――『風』の無銘を突き出した。
しかし相手は予想していたのか、リオの動きに合わせて床を蹴り、大きく跳び退いた。
(これなら、どうだ!)
右手の剣は風の魔剣の力を得ている。魔力を通し、風の刃が飛び出した。
続けざま三つ。
風刃は頭と胴、さらには片足を目がけてエルディアスを追いかける。同時に到達した風刃はしかし――。
「ッ!」
エルディアスは長い槍を巧みに操りすべて叩き落した。
やはりダンジョンボスを単身で打ち負かした実力は本物だ。
けれど、
「ふっ!」
「ッ!?」
三つでは足りないとわかっていた。
だからリオは風刃を飛ばすと同時に回りこみ、側面から強襲する。
どうやら裏をかけたらしい。
エルディアスは槍を横に寝かせて受け止めようとするも、体勢は崩れていた。
このまま押し切る。
二つの剣を合わせるようにして、全体重を乗せて振り下ろした。
(えっ?)
手ごたえが、思いのほか薄い。いや、ほとんどなかった。
槍の柄がぽきんと二つに折れたように曲がり、剣は想定以上の勢いでエルディアスの肩を深々と切り裂いた、ものの。
スパッ! 「か、は……」
折れ曲がった槍の先端がリオの喉元を襲った。
何かがおかしい。
薄れる意識の最中、
――固有スキル【女神の懐抱】が発動しました。
リオの傷は全快した。
急速に取り戻した思考をフル回転させ、片足に力をこめて後方へ跳ぶ。
視線をエルディアスに合わせた。状況を即座に理解する。
(剣を受けて折れたんじゃない。初めから折れ曲がるようになっていたんだ)
双頭の長槍の一か所――片側の先からおよそ三分の一の部分が切り離され、金属製の短い紐でつながっていた。ふだんは鋼の紐を引っこませてくっつけているようだ。
さらに逆側の三分の一部分でも同じように節が現れる。
「三つに分かれる双頭の槍とはまた、おもしれえ武器を使うもんだな」
「あれって意味あんの?」
「長槍と自由に使い分けられんならけっこう厄介だぞ。槍ってのは懐に入られると立ち回りが厳しくなるが、その弱点を補える」
「あー、なるー」
事前にきちんと【鑑識眼】で詳細まで確認していれば防げた攻撃だ。リオは反省しつつ、双頭の長槍のステータスを確認した。
他に特殊な効果はない。ただべらぼうに頑丈で、使用者の意思で自由に槍にも三節に分かれもするらしい。
リオが着地する間に、エルディアスの肩から蒸気が立ち昇り、みるみる傷が消えていった。
「てかこれ、決着つくの? どっちも死なないじゃん」
「さてね。少なくともリオは文字通り全回復しちまうから、負けることはねえだろ」
果たしてそうだろうか?
リオは双剣を低く構え、白い少年を睨み据えた。
ステータスが見えないのでなんとも判然としないが、あちらも完全回復レベルである可能性は高い。
なにせ冒険島が作り上げた末端装置だ。
女神がその権能を最大限活用して創造し、自我を得るほどにまで成長した島。外の世界とはまるで異なる法則を管理する超常の存在が、自身を倒すためだけに寄越したのだとしたら。
(何か、策があって僕の前に現れたに違いない)
そもそも絶対に死なない固有スキルにも、弱点はある。
冒険島そのものとも言える白い少年が知らないはずはなかった。
だとしても。
(負けない。僕は絶対に負けるわけにはいかない)
女神が景品であるかどうかなど関係ない。
それを認めているような態度で戦う、エルディアスには負けられなかった。
三節を再びひとつの長槍にして、白い少年も低く構えた。
(どのみち僕がやることはひとつだ)
リオは『土』の無銘を床に突き刺し、魔力を流す。
地割れのごとく床が避け、エルディアスに向かって突き進む。
それを追いかけながら、風刃を飛ばした――。




