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因縁の二人


 みるみる傷口が治っていく様を見て、グラートとグレーテがこぼす。


「回復魔法って感じじゃねえなあ」

「リオっちのと似たようなもんじゃね?」


 リオの固有スキルには劣るようだが、その効果は抜群だと見て取れる。

 妖しく光をたたえる赤い瞳が、リオを捉えた。


 エルディアス――この島の人型端末装置だ。


 リオはその名を飲みこんだ。

 さすがに島と同じ名前ではグラートたちが不審がるはず。


「なんで、君がここにいる?」


「……」


 白い少年――エルディアスは何も言わず、身振りで応じるでもなく、ただリオを睨みつけていた。


(まだしゃべれないのかな? にしても――)


 相変わらず【鑑識眼】でもステータスが見えない。もっともそれは女神に対しても同じだ。ある意味、創造主と近い性質を持っていると言えるだろう。


 だが見えなくともわかる。

 その実力は本物だ。以前はただ石頭であるだけだったが、


(ダンジョンボスを単身で倒すほどには強くなったってことだ)


 小躯には似つかわしくない、歪な長さの槍をも操るらしい。

 リオは無防備に立つエルディアスをじっくり観察する。


 と、背後から声がかけられた。


「おいリオ、上を見ろ」


 オルネラだ。

 彼女の言葉に従いたいが、エルディアスから視線を外せば襲ってくるかもしれない。


「ん? 何あれ? 人?」

「女っぽいな。気を失ってんのか?」


 グレーテとグラートの会話に、リオはぞくりと背に嫌悪が走った。

 ただならぬ気配を感じ、視界の端にディアスを捉えつつ目線を上へ。


「――っ!?」


 絶句する。


 二人の言う通り、上空二十メートルほどの高さに女性がいた。

 両手を上げ、手首を魔法的に拘束されているのか合わせるようにして、虚空に吊るされている女性。

 長い金髪が風に流れ、スカートの裾もはためいている。


 見慣れた酒場の制服を着る彼女は、間違いなく、


(エルディスティアさん!)


 見間違えるはずがない。

 あれはこの島の創造主、女神エルディスティアだ。


 外傷はぱっと見では確認できない。寝息を立てているような、そのくらい表情も穏やかだ。


 安堵しつつも、リオの怒りは頂点に達した。

 彼女は神であるがゆえ、そして自らが課したルールにいくつも抵触したために多くの権能――神の力を失っている。


 だが創造主たる彼女を拘束できるモノは限られるだろう。

 そして状況を鑑みれば、女神を捕らえた不届きモノは疑いようもなく――。


 素早く視線を下に戻して睨みつけた、のだが……。


(あれ?)


 白い少年は女神を仰ぎ、両目を見開いて口をあんぐり開けていた。


「あの子もめっちゃびっくりしてんね」

「あいつがやったんじゃなさそうだな」

「……」


 確かに、エルディアスが犯人ならばあんな驚き方はしないはず。

 では一体誰が?


「人質って感じじゃなさそうだな。てことはアレ、景品か?」

「あ、女の子を景品扱いとかよくないと思いますー」

「……」


 グラートの言葉に疑問符を浮かべるリオに対し、エルディアスの表情には喜色が浮かんだ。


「お? あっちはやる気になったっぽいぞ」


「うわ引くわー。男の子ってみんなそうなんかなー? リオっちはダメだよ? 女の子には優しくね?」


「別に男女は関係ねえだろ。女同士だって色恋でバトってもいいじゃねえか」


「あたしは借金返せるならバトるかなー」


「まず借金をすんじゃねえよ」


 呆れて言うグラートは気を取り直して続ける。


「ま、なんにせよダンジョンボスが復活するまで時間はかかるし、なんか因縁があるっぽいし、ここでスッキリしてくのがいいんじゃねえか?」


「そだねー。んじゃ、お姉さんたちは暖かく冷やかしますかー。リオっちがんばえ〜」


「……」


「って、オルネラどうした? さっきから黙りこんじまって」


「なんかソワソワしてね?」


 指摘されたように、オルネラはさっきから辺りを目だけ動かして探っているような、ともかく落ち着かない様子だ。


「ダンジョンボスはいないしやることがないならワタシは帰る」


「めっちゃ早口なのウケる。てか応援してかないの?」


「……ここには、いたくない」


 何かを感じ取っているのか、怯えたようにオルネラはこぼす。


「こえーなオイ。お前が言うと洒落になんねえぞ。なんかヤバいのがいんのか?」


「危険はない。きっと手は出してこない。ただ、長く当てられたくない(・・・・・・・・)


 ふむ、とグラートは上空を見やった。


(リオが戦いを始めたら隙を見て女性(アレ)を確保しようと思ったが……)


 そういった邪な企みを抱いていたのがよくなかったのかもしれない。


(誰がこの舞台を整えたか知らねえが、邪魔はすんなってことか)


 グラートはその場にどかっと腰を下ろした。


「んじゃ、腰を据えて応援するかね」


「あたしも座ろっと。固有スキル使ったから疲れてんのよねー。あ、今日は二発目打てないから、しくよろー」


 グレーテも長槍を置いて座りこむ。


「……〝圧〟が弱まった。なんでだ?」


 オルネラは不思議がりながらも二人に倣った。

 三人が観戦モードになったのを背に感じつつ、リオはエルディアスを注視する。

 双頭の長い槍を構え、今にも飛び掛かってきそうだがそれをしない。


(僕が構えるのを待っているのか)


 そう感じ、双剣を握りしめて半身になった。

 ニヤリと、エルディアスの口角が歪んだ、次の瞬間。


 ダンッ!


 石床を蹴る音は二つ。

 互いに最大速度で肉薄し、


 ガキィンッ!


 戦いの火蓋が切って落とされた――。


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