共に戦う意義
オルネラは隣の建物に入ってすぐ飛び出してきた。
その手には斧と槍を合わせたような巨大な武器――ハルバートを握っている。片手で軽々と持つ彼女はリオに目もくれず森へ突っこんだ。
ドシン、ドシンと地面が揺れる。
丸くぬめぬめした肌の、二メートルほどの魔物が飛び跳ねていた。
バルーン・フロッグ。
単体ならぎりぎりリオでも相手できる魔物だが、林立する大樹の間には目測で二十を超えるほどの数がいた。
「今日は多い」
オルネラはつぶやき、獲物を物色する。
リオは魔剣を鞘から抜いた。
「ぐっ……」
風が両腕を締め上げる。剣自体も風で暴れ、構えるのも難儀した。
(これのどこが僕のものだって?)
相変わらず反抗的に感じるのは気のせいではないと思う。
巨大ガエルの一体が、ドシンドシンと跳ねながら大口を開いた。
ボンッ、と腹に響く音と同時。
大口から空気の砲弾が撃ち放たれる
(しまった! 避け――)
られない、とリオが剣を突き出そうとしたとき。
ドォンと大音響が目の前で弾ける。
オルネラが斧槍で空気弾を叩き飛ばした。
「一回目」
無表情で告げる。
助けたら双剣の代金に上乗せすると事前に言っていた。支払いが増えるのも嫌だが、リオに構ってオルネラがケガする事態はなんとしても避けたい。
「僕はいないものと考えてください」
リオは魔剣を握り締め、オルネラを追い越して魔物の群れに突っこんだ。
「? どういう意味だ? おい待て」
オルネラの呼び止めを振り切り、リオは巨大ガエル一匹を目掛けて斬りかかった。
群れの中に突っこめば、空気の砲弾での攻撃が繰り出せないはず。リオが避ければ仲間に当たってしまう危険があるからだ。
魔物同士で傷つけることはない、との特性を利用した一般的な戦い方だ。
暴れる風を押さえつけ、リオは強引に剣を振りかぶる。
「ッ!?」
大口が開いた。リオの真後ろには仲間の巨大ガエルがいるのに。
しかし空気の砲弾が放たれるには間がある。
口から飛び出す前にリオは身を捻り、楽々攻撃を避けた――のだが。
空気弾が別の巨大ガエルに命中した。
しかし巨体にめりこむと、リオへ向かって弾かれた。
「ぐはっ!?」
不意をつかれてまともに背に食らう。骨の折れる音が激痛の中で聞こえた。
「だから待てと言った。死んだか? 困る。助けると言ったのに、ワタシが嘘つきみたい」
オルネラが残念そうにつぶやいた直後。
――固有スキル【女神の懐抱】が発動しました。
彼女へ向かっていた一体に押しつぶされそうになったところを、リオは地面を転がって避けた。
「む? よかった。生きてた。でも、あれ?」
オルネラは一体を斧槍で切り伏せ、疑問符を頭に浮かべた。
「オマエ、ケガもしてない。どうしてだ?」
「僕の固有スキルは死にそうになると全回復するものです。だから僕に構う必要はありません」
「ふぅん、便利だな。理解した。オマエは構わない」
いったん納得した様子のオルネラだったが、ハタと気づく。
「でもオマエを助けないと稼ぎにならない。困る」
空気の砲弾をすいすい躱しながら考えて、
「減るのを防ぐ。これだな」
リオの近く――魔物の群れの中へ突っこんだ。
「オマエには稼がせない」
「貴女が嫌なら、僕はべつにまけてもらおうなんて思っていません」
「爺サマは約束を守る。オマエの意思は関係ない」
面倒なことになったとリオは肩を落としつつも、魔剣をぎゅっと握り締めた。
(ともかく魔物を倒すことに専念しよう)
わずかに剣を傾ける。突風が吹き荒れ、リオが吹き飛ばされた。
空での戦闘でコツはつかめている。
風を利用して木々の間をすり抜け、巨大ガエルを斬りつけた。
(よし。風のおかげでかなり素早く動ける)
俊敏性がレベル10ほど上がったのと同等の動きだ。ただ無理な方向転換は体が悲鳴を上げた。
一撃では仕留められなかったが、大きく回りこんでもう一撃。
空気弾を警戒しながら数度斬りつけ、リオは一体を撃破した。
「ぬぅ、負けない!」
オルネラが気合を入れた。宣言のとおりリオに負けじと斧槍を振り回す。
(すごいな。戦い慣れている)
彼女のレベルは46。ステータス値が全体的に高いのでそれ以上の動きをしていた。
それだけではなく、魔物の攻撃を予想した無駄のない動きと、急所を的確に捉える正確さが際立っている。
何度も同じ魔物を相手していることや固有スキル【森羅識】の効果を考慮しても、戦いに微塵も恐怖を抱いておらず、ゆえに達人クラスの流麗な槍捌きを実現していた。
「オマエ、なかなかやる。やっぱりその魔剣はオマエのもの」
言われて気づく。
魔剣は相変わらず腕を締めつけてくるが、さほど力を入れずとも扱えていた。
抗うのではなく、受け入れる。そんな風に自分の意識が変わっているように思えた。
それは無心であるがゆえ。
(母さんと稽古したときの感覚だ)
頭で考えない分、これまでの経験から体が勝手に魔剣を扱う術を引き出している。
「これはもらうぞ」
リオに斬りつけられて注意が向いた一体を、オルネラが槍部分の先端で突き刺した。
「あっちはオマエにやる」
ちょうどリオの進行方向へ、串刺しにした巨大ガエルを思いきり放り投げる。
HPが0になって消えゆく前に、リオの姿を隠してくれたので。
「雷霆」
肉薄して魔法を撃ちこめた。
(これ、連携しているって言うのかな?)
オルネラにその気はないようだが、結果的には互いに邪魔せず、むしろ多数相手に有利な状況を作るのに役立っていた。
(とはいえ、数が多いな)
巨大ガエルがさらに増えていた。
障害物の多い中での戦いは不慣れで、かつ双剣でもない状況。魔剣にいろいろ吸われもしている中ではやはり――。
「ぐわっ!」
何度も攻撃を食らう羽目になった。
それでもオルネラはまったくリオを気遣うそぶりを見せず――。
「オマエは五つ。ワタシは三十八。どうだ」
全滅させたときにはさすがのオルネラも肩で息をしていた。
「むぅ、オマエはへいちゃらだな」
「さっき固有スキルが発動しましたから」
「そうか。いいな、それ。ワタシは疲れた。帰って寝たい……」
言いつつも、ドロップしたお金をせっせと集めている。
「ん? なんだ? 嬉しいことでもあったか?」
「え?」
「笑ってる。違うか?」
オルネラの行動が微笑ましかったのもあるだろうが、
「嬉しい、というより、楽しかったのかもしれません」
レベルはひとつ上がって33。
それにも気づかぬほど、戦闘中は夢中になっていた。
(きっとオルネラさんが僕を気にしてなかったからだ)
一人で戦うときにはなかった、充足感に満たされる。
「オルネラさん、ありがとうございます」
「? よくわからないが、お疲れ」
誰かと一緒に戦うのも悪くない。そんな気持ちになるリオだった――。




