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エルディアス・ロード ~女神にもらった『絶対死なない』究極スキルで七つのダンジョンを攻略する~  作者: すみもりさい


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名匠リトリコともう一人の異才


 蒸した空気の中を二人で歩く。

 エルディスティアは今度こそ迷惑をかけまいと集中を高め、魔物と遭遇しない道を選んでいた。


 道といっても足元は悪く、木々や茂みで遮られていないというだけだ。

 悪路をひたすら進むこと一時間。


「こんなところに安全地帯があるのか」


 ぽっかりと開けた場所にたどり着く。


「この島にもともとあるものではないね。君の母親がしていたように、結界を張って魔物を寄せ付けていないのさ」


 たしかに自然にできたものではなく、樹木を切り倒して作ったものだ。中心には一人住まい用の小屋と、その横に二階建ての店舗ほどの四角い建物があった。

 どちらも苔むしていて、ずいぶん長くこの場にあるのが窺える。


「ここがリトリコさんの工房なの?」


「そうだね。ただこちらは裏手のようだ。回りこんでみよう」


 大きな建物をぐるりと回って行くと、


「あ、いたよ。あそこに」


 老人が一人、切り株に腰を落ち着けていた。

 小柄で痩せ型。白いひげがもさもさ生えて顔の下半分を隠している。耳はエルフのように尖っていて、身長はミレイよりも低い。頭部に巻いた白い布は全体的に黒く汚れていた。

 目は開いているが意識があるのか疑わしいほど、ぼんやりとただ虚空を見つめている。


「すみません、貴方がレオナルド・リトリコさんですか?」


 リオが呼びかけても反応がない。


「おーい、起きてるかーい」


 エルディスティアが大声を張り上げても無反応。


「状態異常、ではないみたいだけど……」


 リオが【鑑識眼】で探っても、体に異常はみられない。寝てもいなさそうだ。

 近寄って体を揺すってみようかと考えていると。


 バタンと小屋のドアが開かれ、誰かが出てきた。


 淡い桃色をしたショートカットの、褐色肌のメイドさんだ。ミレイよりも低い身長ながら顔が小さく、そのため頭身は高くぱっと見は大人びた印象を受ける。

 人族ヒュームと姿はほぼ同じだが、おそらくドワーフをベースにいくつかの種族の混血だろう。


 女性は出てすぐ立ち止まり、リオたちを見てのちリトリコへ声をかけた。


「爺サマ、客だぞ。おい、聞いてるか?」


 しかしリトリコはぼんやり虚空を見つめているのみ。

 チッ、と彼女が舌打ちした。


「客だと――」

 ダンッ!

「言った!」

 ドゴォ!


 地を蹴り一瞬で肉薄するやリトリコの顔面を蹴り飛ばした。


「ぶっふぉおっ!」


 リトリコは錐揉み回転で地を這うように飛んでいき、大木を二本薙ぎ倒して停止する。


「客は歓迎する。客でないなら帰れ」


 メイド服の女性は何事もなかったかのようにリオたちに告げる。

 唖然とする女神とは対照的に、リオは平然と返す。


「剣を直しに来ました」


 冒険者には変わり者が多い。この程度で驚きはしなかった。


「そうか。客だな。なら中でお茶をどうぞ」


 リオとエルディスティアは飛ばされた老人を気にしながらも、踵を返して戻っていく彼女の後を追った。


 小屋の中はこぎれいに片付いていた。

 ベッドがひとつと小さな丸テーブル、椅子、キャビネットもひとつずつ。どう見てもメイド姿の女性が一人暮らしする家だ。


 椅子がないので立ち尽くす二人。

 女性はキッチンで火を熾し、ポットが沸くのを待っている様子だ。


 と、背を向けたまま唐突に口を開いた。


「ワタシはオルネラ・ヴィラ。もうすぐ十六になる。爺サマの孫娘オデッタの子だ」


 なんとも簡潔な自己紹介だ。

 二人も名乗るが、特に返事はなかった。エルディスティアが尋ねる。


「いろいろ訊きたいことがあるのだけど、まずもって曾孫の君がどうしてメイドをしているの?」


 オルネラは振り向くと怪訝そうな顔になった。


「ワタシはメイドと違う」


「じゃあ、どうしてメイド服なんかを?」


「オマエも似たものだろ?」


「私のは制服! 着替えずにここへ来たんだ」


 ふむ、とオルネラは納得顔になる。


「この格好すると爺サマやる気出る。だから普段着」


 簡素すぎる受け答えにも、リオは真顔で尋ねる。


「やる気を引き出すような特殊効果はないように思いますけど、どうしてでしょう?」


「よく知らない。本当はひらひらして嫌だ。でも爺サマが働くならいい」


「なるほど」


 ともに素っ気ない者同士、会話が弾まない。

 オルネラは沸いた湯でお茶を淹れた。


「立ってないで座れ。そこでいい」


 ベッドを指差すので、リオは背中の魔剣を壁に立てかけてから、遠慮がちに二人は座る。

 カップを渡されずずっとひと口。淹れ方は雑に見えたが香り豊かで繊細な味わいだった。


「直すのはどの剣だ? あっちの長いのは魔剣か。なら爺サマでも無理だぞ」


 魔剣とひと目で看破したのは彼女の持つ固有スキルゆえだろうか。


「直してほしいのはこれです」


 リオは先が欠けた曲刀を抜いて、柄をオルネラに差し出した。

 受け取り、しげしげと先端を眺める。


「溶けてるな。一から作るしかない」


 やっぱりか、と肩を落とすリオだったが、熱心に刀身を眺めていたオルネラが穏やかに笑みを浮かべたのに気づいた。


「よく使ってくれてるな。かなり無茶をしてる。でもコイツは嬉しい」


「嬉しい……? 剣が、ですか?」


「うん。乱暴と違う。コイツの強さをわかって無茶した。期待した? うん、そっちだ。嬉しくて期待に応えるとがんばった。オマエもがんばった。えらいぞ」


 いきなり饒舌になったが言葉足らずで意味がつかみづらい。

 意訳すると『剣とその使用者が互いに信頼し合い、高め合ってきた』と言いたのだろう。


「剣が、感情を持っているのですか?」


 リオはちらりと壁に立てかけた魔剣を見た。

 たしかにアレは感情のまま猛っていたように思うが、それは魔剣という特性ゆえかと考える。


「みな持ってる。ミミズだって石ころだって風だって森だって。変な奴だ」


 オルネラはむしろリオこそおかしいとでも言いたげだ。


 彼女の持つ固有スキルは【森羅識】。

 あらゆる事物をり得る可能性を秘めている、というなんともふわっとしたスキル説明しかなく、リオは実際に見るのは初めてだった。


 不思議そうにしていた彼に、女神が解説する。


「【森羅識】は人によって当たり外れが激しくてね。彼女の場合はステータスに現れない、異常なほどの感受性の高さが完璧に近いほど合致したようだ。ほんのすこしなら未来をも予知できるかもしれない」


 それでいて理由や過程をすっ飛ばして結果に至る危うさがあった。

 彼女にはさほど自覚がなく、万物どころか事象や現象、環境の感情まで意図せず読み取ってしまうのだろう。


「とんでもない才能だけど、君、それを何に使ってるの?」


「もちろん、『至高の一』を爺サマより先に作る」


 どうやら彼女は伝説の名匠と謳われた曾祖父の上を目指しているらしい。


「それよりオマエ、弱いのに強いな。コイツではオマエの力に耐えられない。これでお別れだ。さよならを言え」


「作り直してはくれないんですか?」


「人も剣も相手を選ぶ。強いのは強いの。弱いのは弱いの。どっちでもないのはどっちでもないのがいい。二つ使うなら……魔剣には見劣りする。でもひとつ、いいのを見繕ってやる」


「この魔剣は借り物で、できれば二つセットのものがいいです」


「本当に変な奴。その魔剣はもうオマエ(・ ・ ・)のもの(・ ・ ・)だ」


「えっ?」


 リオが驚くのを気にも留めず、「ちょっと待ってろ」とオルネラは部屋を出ていった――。



リトリコさんはいずこへ?

次回は彼も話に入ってきます。


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[一言] 魔剣ちゃんは実はツンデレ?天邪鬼?w
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