母のご褒美
兄妹の前に現れた母リーヴァは、にかっと屈託なく笑う。
「つーか、アタシは『通りすがりのお姉さん』としか言ってなかったけど? なんでそんな長くなっちまったんだい?」
「盛りました。それより、どうして今まで姿を見せてくれなかったんですか? わたしが冒険者になったからでしょうか?」
「おう! その通りだ」
がびーんとショックを受けるミレイ。
リーヴァはからからと笑う。
「いやまあ、冒険者になったのはいいんだよ。ただノーラ・ベネディクトのいるとこってのが悪くてね。あと団長」
「ノーラさんが、ですか? それに団長も悪いって……」
リオは首を捻った。
ノーラはその固有スキルから、母の正体が知られる危険があるのでわかる。しかし団長までもが含まれているのはなぜなのか?
(もしかして、古い知り合いなのかな?)
伝え聞く限りでは中年の偉丈夫らしい。年齢ではリーヴァよりも上だ。可能性はあった。
「どっちもいい奴だってのは知ってる。けど例によって言えない事情があんのさ。てなわけで、女エルフが酔いつぶれてる今がチャンス。用件を伝えるぞ」
リーヴァはリオに近寄りその頭に手を置くと、わしゃわしゃと撫で回した。
「よくオベロンを攻略したなあ。えらいぞぉ」
ぱっと手を離すや言い放つ。
「そしてゴメン! 課題をクリアしたら次の講義と言ったな、嘘じゃないが何も考えてない!」
えぇ……っとリオは脱力する。
「いやホント悪かった。つーかアンタに教えることってあんまないんだよねえ。だからまあ、代わりと言っちゃなんだけど」
リーヴァはするりとリオの腰から剣を抜いた。先の溶けた方だ。
「見事に欠けちまったねえ。あの爺さんに怒られるぞぉ? アンタはただでさえ、ちょくちょく修理に出してるしな。てなわけで、だ」
リーヴァの横に、円形の魔法陣が現れる。
そこからにゅっと出てきたのは、剣の柄だ。ぐいっと引っ張ると、刀身が一メートルほどの片手剣が姿を見せる。漆黒にも思える刃の色は、宵闇に沈んだ木の葉のような深く濃い緑色だった。
「それって……」
リオは【鑑識眼】で剣のステータスを見て身震いした。
「魔剣じゃないか!」
えっ!? とミレイも驚くのを気にも留めず、
「ちょいと持ってみろ」
リーヴァは無造作に剣を放り投げた。
リオは慌ててその柄を両手でつかむ。
「ぐっ!」
ずしんと地面に引っ張られるような重量感。さらに剣から風が巻き起こり、リオを拒絶するように離れようとする。
「ん~、やっぱまだ早いか。けどまあ、アンタなら剣に食いつかれても死なねえし。大丈夫だろ」
さらりと恐ろしいことを言ったリーヴァは、魔法陣から鞘を引っ張り出して剣に被せた。
風がやむ。しかし重量は増したので、リオはたまらず剣先を地面につけた。
「さすがにソイツをくれてやるのはできないけどね。剣を修理に出すときゃそれを持っていきな」
「リトリコさんに……? でも、どうして?」
「持ってきゃわかる。終わったら返してもらうから、それで遊ぶなら今のうちにじっくりやっとけよ?」
「ぇ、ぁ、うん……」
「うしっ、これで講義のぶんはチャラだな」
うんうん、と一人納得顔の母リーヴァは、ミレイに笑みを向けた。
「んじゃ次だな。アンタもがんばってるから、なんか欲しいモンがあるなら言ってみな」
「えっ、わたしも、ですか?」
「おう、『なんでも』は無理だけどね」
「というか、ですね。魔剣とかそれを取り出した魔法とかいろいろ気になることはありすぎるんですけどそれよりなにより――」
ミレイは二人を交互に見て、尋ねる。
「お二人は、知り合いだったんですか?」
知り合いどころか実の親子だ。しかしそれを言うわけにはいかない事情がある。
「コイツがオベロンを攻略する前に、ちっとお悩みを聞いてやってさ。ついでに稽古をつけてやった」
「稽古!」
目をらんらんと輝かせた直後、ミレイはしょんぼりする。
「わたし、そういうのやってもらってません……」
「前会ったときはレベル低かったからねえ。アタシとしたらすぐレベルアップしちまうよ」
「今ならいいんですか!?」
前のめりになるミレイ。
「つーか、どこの誰かもわかんないのに稽古つけてほしいのかい?」
「はい! お姉さんがすごく強いのはビシバシ感じます。ホントに……足が震えちゃうくらいなんですけどあなた何者なんですか!?」
今度は涙目になるミレイ。
「んじゃまあ、いっか。でも一個、条件がある」
リーヴァはあっけらかんと、しかし無理難題を突きつける。
「団を抜けろ。したら稽古つけてやる」
「ぇ、それはちょっと難しいと言いますか、お世話になっている皆さんに悪いと言いますか……」
「べつにずっとってわけじゃない。さっきも言ったがアソコにゃ団長とノーラがいるからね。修行すっからちょいとお暇をくださいな、とか言っとけばいい」
「ど、どうなんでしょう? そんな理由で団長が許してくれるか……」
「へーきへーき。団長にはな、こう言やいいのさ」
リーヴァはミレイに耳打ちする。
「風の魔剣? リオさんに渡したのが、ですか? それを持ってる人に教わるって言えばいいんですね」
「こっそり教えたのになんで口に出すかな? まあいいけど」
すみません、と頬を掻いたミレイはしゅぴっと片手を挙げ、
「ではまずノーラさんに許可を取ってきます!」
たったかと駆けて行った。
「団長以外に魔剣の話はすんじゃないよー。あと――って、もういなくなっちまった。どこで落ち合うか決めようと思ったのにさ」
リーヴァは苦笑いしつつも、まあいっかとリオに向く。
「んじゃ、アンタは剣を直しといで。アイツも寂しがってるだろうし、たまにはゆっくりしてきなよ」
「うん。ありがとう」
リーヴァは以前と同じく、踵を返して手を振るうちに霞のように消え去った。
リオは魔剣を胸に抱き、酒場へと戻るのだった――。
次回、名匠のお宅へGO!
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