表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/67

英雄の血統


 リオはまどろみの中で夢を見た。幼いころの記憶だ。


『冒険者になりたいだって? アタシみたいな? はっ、やめとけやめとけ。どうせアタシみたく解けない呪いをかけられて、衰弱死を待つのがオチってもんさ』


 長い黒髪を後ろで束ねた、美しい女性だ。リオの母リーヴァ・ニーベルクである。


『けどまあ、どうしても叶えたい願いがあるなら、やってもいいかもな。とりあえず呪い耐性はつけとけよ? アタシみたくなりたくなかったらな』


 かつて最強にして最優の魔法剣士として名を馳せた彼女はしかし、とあるダンジョンボスとの戦いで強力な呪いを受け、やせ細っていた。


 母の武勇伝を聞き、憧れた。

 けれど今のリオは、ただひとつの願いを叶えるために戦っている。


『ふぅん。だったら、そうさな。『諦めるな』。この島を攻略するのに一番必要なのは、諦めの悪さだ。想いが強ければ強いほど、夢ってのはあっちから走ってくるもんさ』


 そんなセリフ、母が言った記憶はない。夢の中で激励されたように感じ、リオはゆっくりと目を開いた。

 決意を新たにして――。



 初めて剣を腰に差して町を出てから、一週間が経った。


 この間にリオの瀕死回数は百を超える。

 全回復した直後にまた死にそうなほど痛めつけられもした。


 けれどこの一週間で、固有スキル【女神の懐抱】の特性をおおよそつかむことに成功する。


 ひとつ、スキル発動によって得られる経験値は真剣に戦えば戦うほど多くなる。

 これは推測した通りだった。

 やる気がないのはもちろん、恐怖で戦意が喪失したら経験値が少なくなる。だから相手を必ず倒す、あるいは絶対に逃げのびるとの強い意志が必要だ。


 ひとつ、相手が強ければ強いほど得られる経験値は多くなる。

 倒す場合と同様に、レベル差によるボーナス補正がかかるらしい。

 この事実は、今の彼には優位に働いた。強い相手ならさくっと倒してもらえるからだ。怖いと感じる暇もない。


 ひとつ、意識を失ってもスキルは発動する。

 大きな成果だ。

 痛いのを我慢しなくてよく、安心して気絶できるので。

 ただし弊害もある。気絶すると得られる経験値が激減するのだ。なのでがんばって意識を保つことにした。


 ひとつ、与えられたダメージが大きい場合に得られる経験値が飛躍的に多くなる。

 検証にもっとも難航した項目だ。パターンが多岐にわたり、結果として試行回数が多くなった。

 万全の状態から即死級の攻撃を受けてHPがごっそり削られた際、袋叩きにされるよりもかなり多くの経験値が得られた。


 ひとつ、HPが0以外でのスキル発動時は比較的得られる経験値は少なくなる。

 腕を切断されたり、両足をつぶされたりしたときにもスキルは発動した。しかしこの場合、同じ相手に殺されかけたときよりずっと得られる経験値は少なかったのだ。


 ひとつ、このスキルは自分の意思では発動できない。

 完全なる自動発動だ。疲れたら発動して常に万全の状態で、とはいかないようだ。

 今はまだ必要ないが、先々苦労するかも?


 とまあ、大きくは六つの特性がつかめた。

 こまごましたものはノートにびっしり記録して把握する。


 けっきょくのところリオは、死に直面して復活するたび、通常ではありえないほど多くの経験値を獲得できる。


(なんでまたこんなバグじみたルールがあるんだろう?)


 疑問は後回し。今はこの事実をどう利用するか、だ。


 効率よく経験値を稼ぐには、より強い魔物と戦う必要がある。

 しかし強い敵はダンジョンの奥深くにいるから、そこにたどり着くまでに無駄な時間を費やすことになるだろう。


 ならば強いパーティーに入って、そういったところへ連れて行ってもらうのが現実的だ。

 ところがレベル1の自分では、ステータスをレベル内MAXにしたところで戦力足り得ない。強いパーティーがお情けで入れてくれるとは思えなかった。


 リオは自身のステータスとにらめっこする。

 幸い、筋力と体力の数値は(レベル1にしては)高い。回避もそこそこなので、パーティー戦で流れ弾に当たって迷惑をかけることは少なくできるかも。


(でも、じゃあ何がやれるんだ?)


 悩みに悩んだ末、リオはひとつの解にたどり着く。


(そうか。荷物持ち(ポーター)なら……)


 荷物持ちはそのものずばり、パーティーの荷物を運搬する職業だ。そもそも戦力を期待されていない。

 死を回避する究極スキルがあれば、荷物を置き去りにする危険が極めて低いのだ。


 これは重宝されるに違いない!


 方針は決まった。


 まずは各ステータスをレベル内MAXまで鍛え上げる。

 そうして荷物持ちとして、強いパーティーに随行するのだ。


 経験値一億。


 それをクリアするまで何年かかるかわからない。我慢の時間だ――。




 人の寄りつかない白い家。

 女神エルディスティアはソファーの上に寝転がり、美貌を手で覆って足をばたつかせていた。


「あぁ、もう! 見ていられないよぉ!」


 虚空に浮かぶ映像には、ボロボロになった少年が必死になって剣を振るっていた。


 こんなはずではなかった。

 レベル2までに絶望的な経験値が必要だとわかれば、冒険者になろうなんて考え直してくれると思ったのに。


 それどころか、である。


「この子ってば死ぬのが怖くないの!?」


 天まで届けとばかりの大絶叫が虚しく響く。


 たしかに、たしかにだ。

 リオに授けた唯一無二の究極スキル【女神の懐抱】で死の淵から復活すれば、モリモリ経験値が手に入る。


 この島ではあらゆる〝経験〟が数値化され、『経験値』として加算されていく。

 ありふれた経験ならばごく少量だが、魔物を倒すなどの『特別な経験』はより大きな値となってその人に与えられた。


 死からの完全復活なんて、特別中の特別な〝経験〟だ。

 さらに言えば、どこの誰が死にかけの自分に最高位の治癒魔法を施せる? 魔法を使う力も精神的余裕もあるはずないよね?


 要するに彼はそのレベルをやってのけている。

 誰もできないような、極めて特殊な〝経験〟を。


 さらに『やり遂げよう』との強い意志に、最低レベルであるがゆえのボーナス補正まで加わっているからさあ大変。

 相手次第では、レベル1でダンジョンボスを倒したくらいの経験値がゲットできてしまうかも。


 それもこれも自身が与えた固有スキルのせいなのだが。


 むろん彼女とて究極スキルを与えるにあたり、大量の経験値が入ることは危惧していた。

 でもレベル2に上がるまでに一流の冒険者でも生涯得られるかどうかの、絶望的な数値に設定したから大丈夫だと高をくくっていた。


「なのにもう! あの子ったらもう!」


 いくらなんでも思いきりがよすぎる。まだ12歳の子どもなのに。

 死にそうな目に遭えばものすごく痛いだろうし、たとえスキルがあろうと『死』への恐怖が拭われるはずがない。


 だというのに彼は、むしろそれを利用して経験値を稼ぐつもり満々ではないか。


「どうしてそこまで……」


 理由は明らかだ。

 生き別れになった妹との再会を果たす。そして兄妹きょうだい水入らずの穏やかな生活を望んでいるのだ――とエルディスティアは勝手に考えている。


 しかし、それにしてもリオの行動は常軌を逸していた。


「そういえば、〝彼女〟も向こう見ずなところ、あったなあ……」


 この冒険島で、唯一七つのダンジョンすべてを攻略した剣士。

 女神に拝謁して願いを叶えた女性こそ、


「血は争えないってことかあ」


 リオの母、リーヴァ・ニーベルクである。


「そこんとこ、考慮しなくちゃだったかも? うん、失敗したぁ……」


 神様なのに後悔しまくりのエルディスティア。

 虚空に浮かぶ映像を消し、しばらく悶々とするのだった――。




 ――それから二年。

 冒険島エルディアス中に、ひとつの噂が駆け巡った。

 万年レベル1ながら『死なない』便利な荷物持ちがいる、と。


 そしてついに、リオが待ちに待った瞬間が訪れる。


 レベル2の壁を、突破する瞬間が――。


お母さんが何を女神に願ったかは、いずれ語ります。


プロローグ的なお話は以上です。

次回は荷物持ちをがんばるリオ君のお話。

そのうちレベルが上がって、ステータスを伸ばし、スキルなんかをいっぱい覚えて、どんどん強くなっていくリオ君の活躍をお楽しみに~。


ブクマや評価、感想やレビューがとても励みになっています。ありがとうございます!

途中まででも読み終わったところでブクマや評価を入れていただければ嬉しいです。嬉しみ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このお話はいかがでしたか?
上にある『☆☆☆☆☆』を
押して評価を入れてください。

― 新着の感想 ―
[良い点] 漫画から来ました。楽しく読ませてもらってます続きが楽しみです
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ