冒険者を狩る者たち
「グレーテ……、なんでテメエがここにいやがんだよ!」
「あたしの勝手ですぅ」
「んだとコラ、勝手に団を抜けていいわけあるかよ!」
「ちゃんと団長には言いましたぁ。ウッザいのが一人いるから耐えられませぇんってぇ」
「ウザ……って、そりゃオレのことかよ!」
「他に誰がいんのよクソ兄貴」
目の前で繰り広げられる兄妹ゲンカに、リオは胸が抉られるような居たたまれない気持ちになった。
(ミレイにあんな風に言われたら、僕なら耐えられない……)
いろいろ事情があるのだろう。どちらも悪い人だとは感じていないので、いつか仲良くなってくれるのを願うばかりだ。
「ところでミレイ、君はどうしてここに?」
「はい! 実はですね……って、言っちゃっていいんでしたっけ?」
ミレイに問われてノーラが答える。
「冒険者ギルドからわたくしたちの団に直接調査依頼がありましたの。そのお仕事ですわね」
「もしかして、最近この辺りで起こっている冒険者の失踪事件ですか?」
「どうやらリオ様も同じ依頼を受けているようですわね」
彼女らが所属するのは島内最強と謳われる冒険者集団だ。直接彼らに依頼があったのなら、ギルド側の本気度がかなり高いと窺える。
「そして事件の起こったアムムトダンジョンではなくカジノにいらっしゃるということは、わたくしたちと考えていることは一緒のようですわね」
冒険者が消えたのはダンジョンの魔物やトラップによるものではなく、誰かが襲ったのだとノーラたちも考えているようだ。
(きっと依頼を受けたときにはもう、そこまでの確信があったんだろうな)
数ある団員の中からノーラが派遣されているのがその証拠。
彼女は一風変わった固有スキルを持っていた。
「ともかくテメエは一度戻ってこい。団長にはオレから言ってやる」
「はあ? 兄貴がいんなら戻る気なんてないんですけどぉ。てか恩着せがましいっての。そゆとこがムカつくってわっかんないかなぁ?」
二人の言い争いは終わりが見えない。
「そろそろ止めたほうがよくないですか? あまり目立つのはどうかと思います」
「ん~、目立つのはべつに構いませんわ。むしろ歓迎していると言いますか……」
ほんわかした雰囲気はそのままに、目の奥はギラついているようにリオは感じた。うっすらと額に汗もにじませている。
彼女は彼女で何かを探っているようだ。
ただその真意はわからない。
直接訊いてみようとしたところで、タイミングがいいのか悪いのか、グラートが姿を現した。
「お前らなに騒いでんだよ。フロアの端まで聞こえてきたぞ」
ガルフとグレーテの言い合いに呆れた様子だ。
「なんだテメエは? 関係ねえ奴はすっこんでろ!」
「ウケケケ、関係なくはねえんだなあ、これが。あんたの妹さん、俺に借金してんのよ」
ガルフの【威嚇】スキルにもたじろがず、グラートはケタケタ笑う。
「グレーテ、オマエ……カジノですったのか? この大バカ野郎が!」
「まあまあ抑えて抑えて。そんな大した額じゃねえよ。半年もありゃあすっかり返済できちまう程度だ。俺みたいに胡散臭いのに預けるにゃあ不安もMAXだろうが、しばらくそっとしといてくれねえか?」
「確かに胡散臭いが……リオとつるんでるみたいだしな。いいだろう。預けてやる」
「まった偉そうに……」
「グレーテもそこまでにしときな。文句を言い合ってばかりじゃあ、なんも先には進めねえよ」
「べつにあたしは……」
何か言いたげだが、グレーテは押し黙った。
「んじゃ、俺らはこれで失礼するぜ。お仕事があるんでね」
グラートはリオの肩をポンとたたく。
この場にはいたくないように感じ、ミレイたちへのあいさつもそこそこに、グレーテともども移動した。
フロアの端に三人で集まる。
「ノーラさんたちと協力しないんですか?」
「お前なに言ってんの?」
「リオっちダイジョブ?」
事件解決に向けた建設的な意見だったのに、まるで取り合ってくれない。
「そうしょんぼりすんなよ。要するにアレだ、俺らの取り分が減っちまうだろう?」
「いや、でも協力したほうが早いですよ。変に競争して犯人に逃げられても困ります」
「ノーラ・ベネディクトが出張ってきやがったんだぜ? まだ犯人連中がトンズラしてなきゃ、事件は解決したようなもんだろ」
「そうなんですか?」
「そりゃお前、知ってんだろ? あの女の固有スキルをよ」
ノーラの持つ固有スキルは【裁定者の天秤】と呼ばれ、嘘やまやかしを見破る力がある。言葉を持つ種族に絶大な力を持つ一方、魔物が操る幻影なども簡単に暴けるのだ。
その意味ではリオの秘密――主には妹ミレイとの関係を知られる危険があるので、近づいてはいけない相手ではある。
ただノーラだって常に固有スキルを使っているわけではないし、知られたところでミレイに伝わらなければよいので、彼女の性格からしてすくなくとも事前に問い質してくる気がしている。
「しかもあの女、かなり頭が切れるからな。あの騒ぎだって、半分は仕込みみたいなもんだぜ」
どうやら彼女は騒ぎの渦中で『自分』に注目している者を探っていたようだ。
彼女の固有スキルを知っていれば、隠そうとしても挙動にわずかな違和感が生まれるだろう。いや、隠そうとした時点で彼女に見破られてしまう。
「ああ、それでか」
リオは不意に、納得がいった。
「あの人、ノーラさんから逃げていたんだ」
「おいリオ、なんか気になることがあんのか?」
「気になるというか、怪しい二人組を見つけました」
「マジで!?」
「デジマ!?」
グラートが前のめりに尋ねる。
「特徴は? どんな連中だった?」
「双子です」
んん? 二人が首を傾げる。
「断定してるってこたあ、見た目そっくりな二人組か。俺も見える範囲で目を光らせてたが、そんなやついたか?」
「あたしも見てなーい。あ、いちおうざざっとチェックはしてたよ? お仕事だしね。ホントだよ?」
「グレーテさんは見ていますよ」
「リオっち無慈悲! あたしお仕事してないみたいじゃん!」
グラートが彼女にジト目を向けるので、リオは慌てて補足する。
「そうじゃなくて、ほら、僕にぶつかってきた人ですよ」
「ん? あのなよっとした兄ちゃん? でもあいつのそっくりさんなんていなかったよ? 連れは四人だし、五人組って多くね?」
グラートがハッとする。
「幻影か」
「四人組はリーダー格の大男だけが本物で、それもうっすら透けて見えて、その姿が僕とぶつかった人とまったく同じだったんです」
「ほへえ、【鑑識眼】ってそんなこともわかっちゃうんだー。すごいね」
「なかなか手の込んだことをしやがる。不特定多数に同じ幻影を見せるっつーのも驚きだ。もしかして、固有スキルが【幻惑】か?」
「はい。そして僕にぶつかってきた人は、固有スキルで証拠を完全に消せます」
リオの説明を聞き、二人がごくりと喉を鳴らす。
「このところ派手に遊んでた五人組は聞いてる。連中の容姿はドンピシャだ。ついでに双子の悪党を思い出したぜ。シャバトカ兄弟っつって、そこらで悪さしてた二人組だ」
兄ルボシュと弟のルジェク。手配書も出ている双子の犯罪者だ。しかし彼らの固有スキルはいまだ明らかにはなっていない。しかしそれもリオが暴いた。
「こりゃもう十中八九どころかほぼ真っ黒でそいつらだな。つーかリオ、そこまでわかっててなんで見逃したんだ?」
「二人ともレベルが40を超えています。僕とグレーテさんだけで追いかけても逃げられたかもしれません」
カジノにいるなら慌てる必要はなく、グラートと合流してから対策を練ろうとリオは考えた。
「けど連中は、ノーラを見つけて逃げる途中だったってわけか。こりゃもうトンズラしてんな」
がっくりうなだれるグラートに倣ったのか、グレーテもへにゃっと力を抜く。
「まだそう遠くへは行っていないと思います。この町の転移装置はカジノから見て湖の反対側ですから、今から追っても間に合いますよ」
「たしかに全力ダッシュしてたら目立つからなあ。けどよ、転移装置に向かったとは限らねえぜ? ノーラに警戒MAXなわけだし、歩いて別の町へ向かってるかもしれねえ」
「そうか……。あ、でもどこへ向かったかはわかると思います」
「さすが【鑑識眼】! さすがリオっち!」
「いえ、僕にはわかりません」
「「どゆこと?」」
声を合わせた二人を交互に見て、
「ワーウルフって、鼻が利くんですよね?」
リオは犯人を引き起こした手を、グレーテに差し出した――。
次回、犯人どもに迫ります!
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