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スキル検証、開始


 死の淵から生還したら、最弱の魔物402匹分の経験値が手に入ってしまった。


 唐突に謎を突きつけられ、リオは仰向けに寝たまま思考を巡らす。


「……固有スキルの発動が、関係してるよね」


 状況的に、それがもっとも可能性が高い。

 しかし固有スキルを発動しただけで、膨大な経験値が手に入る理屈がわからなかった。


 リオは幼いころに女神に拾われ、ずっと人里から離れて生きてきた。

 ゆえに常識がかなり欠如している。


 経験値は、ふつうに生活していても微量ながら得られるものだ。極論、息をしているだけでわずかながら手に入る。

 ただあまりに小さな値であるため、魔物を倒すなどしたときに加算され、まとめて経験値取得アナウンスがされるのだ。


 むろん、スキルによっても経験値が得られる。

 ただし数百、数千もの経験値となるのは、ごく限られたスキルが特殊な条件で発動した場合のみなのだ。


(ともかく試してみよう)


 リオはむくりと起き上がると、茂みをがさがさと剣で鳴らした。


『キキキッ!』


 ぴょんと飛び出す巨大アリ。


「さあ来い!」


 リオは剣を腰に差し、両手を広げて待ち構えた。


『キ?』


 やられる気満々な彼を、不審そうに見つめる巨大アリ。

 だがリオの膝が震えているのに気づいたのか、きらりと複眼を光らせて襲いかかってきた。


(ぅ……やっぱり怖いな)


 いくら『死を回避する』究極スキルを持っていても、痛いものは痛い。

 さっき二匹に袋叩きにされたときも、全身が痛くて泣きそうだった。実際ちょっと泣いてた。


(そもそも、このスキルって万能なの?)


 頭をつぶされても復活する? 大魔法で跡形もなく消え去ったら?

 ソルジャー・アントにそれほどの力はないとわかっていても、万が一の文字が脳裏をよぎる。

 それでも――。


「ぐわっ!」


 恐怖を押しやり、まともに攻撃を食らった。腰のあたりが大あごに挟まれる。

 大アリは最弱であるがゆえ、一撃でHPを全部もっていくことはない。

 しかしだからこそ。


「痛いってば!」


 が、耐える。検証は必須なのだ。


 胴体の両断を諦めたのか、ソルジャー・アントはいったん離れ、戦闘意欲がまるでないリオを牽制しつつ回りこむ。


(そういうのいいから、早くやっちゃってよ)


 ようやく棒立ちの彼目掛けて背後から飛びかかる。

 その後は全身ガジガジされ、なんとかHPが0に近づき、


 ――固有スキル【女神の懐抱】が発動しました。


 待ちに待った声に安堵する。

 ライフもだが意識もゼロに近かった。気絶してスキルが発動できなかったらとの不安から懸命に耐えたのだ。


 HPが全回復した。

 大アリが去っていく。


 ――経験値160を獲得しました。


 少なっ! と内心で叫ぶリオ。


(……とはいえ、ソルジャー・アント32匹分か)


 もはや経験値の単位が大アリになっていた。


(これでもふつうに倒すよりは全然いいけど、さっきと違い過ぎるな)


 二匹を相手にした、とは関係が薄いように思う。十倍以上も異なる根拠足り得ない。


 さっきと今、違いがあるとすれば。


(僕の、意識の違いかな……?)


 本気で戦おうとしたか、わざとやられたか。


(いやまあ、最初のは逃げようとして失敗したんだけどさ)


 それでも必死に抗ったのは事実。

 その点に、大きな違いがあるような気がしてならなかった。


「よし、じゃあ試そう」


 今度は本気でやる。

 倒してしまうかもしれないが、疲れたところでもう一匹と戦えばスキルは発動するだろう。


 正直、怖い。

 一度目はわけがわからないままだった。しかし二度目は覚悟してなお、意識が途切れそうになるほどの痛みがあったのだ。


 あの苦痛を、また味わう。

 いや、一度で済むほど簡単ではないだろう。


「でも、やるしかない」


 あの楽園のような生活を捨ててでも――あの優しくも愉快な女神の下を離れてでも、冒険者を志した。


 この冒険島エルディアスの七大ダンジョンを攻略する。

 そうしてもう一度、あの女神に正しい(・ ・ ・ )手順(・ ・ )で会う。

 でなければ彼女は願いを叶えられないから。


 リオの願い。


 それはただ純粋に、不自由極まる女神を解放すること。


 できる保証はない。余計なお節介と嫌われるかもしれない。

 けれどずっと独りぼっちな彼女を放ってはおけなかった。


 すでに装備はボロボロだ。上半身を露わにし、彼は三度の死に挑むのだった――。



次回はスキルの検証結果。そして実はすごかったリオ君の出生の秘密も明かされたり。



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― 新着の感想 ―
[良い点] 冒険者になったのは、そういう理由なんですね。
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