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やりすぎ女神さま

数ある作品の中からお越しいただき、ありがとうございます。

お楽しみいただければ幸いです。


コミック1巻が発売しました!

表紙はこんな感じ。

挿絵(By みてみん)

全国の書店さま、ネット書店さまにてお買い求めいただけます。女神さま可愛いですよ♪


詳細はあとがきの下の広告をさらに下にスクロールするとご覧いただけます。




 リオ・ニーベルクは幼いころ、唯一の保護者である母を失った。

 野たれ死ぬ寸前の彼の前に現れたのは、人ならざる雰囲気を醸す美しい女性だった。


 そうして彼女と二人の、新たなる生活が始まる。


 高原に建つ小さな白い家に、彼ら以外が寄りつくことはなく。

 お腹が空けばテーブルには料理が並べられ、お風呂を出れば新しい服が畳まれている。

 リオはもちろん、彼女だって用意している風には見えないのに、いつのまにか。


 気温も天候も“彼女〟の気分次第。

 ほんの少し歩けば海や砂漠や山頂に行き着く変なところ。


 数年を過ごし、12歳を間近にリオはある決意をする。


「エルディスティアさん、僕、ここを出ていくよ」


 きれいなひとは、変な顔をしてもきれいなんだな、とリオは彼女を眺める。

 金色の髪はさらさらで、白い肌も赤い瞳もそれ自体が光を放っていた。このところはよくいろんな服を着てリオに見せていたが、今は出会ったときと同じく白い清楚なワンピースだ。


 当のエルディスティアはこの世の終わりかのように愕然としていた。


「いやいやいやいや! 待っておくれよ私を見捨てないで! じゃなく、なんでいきなり『ここを出ていく』なんて言うんだい? 私があまりにずぼらだから? ついに愛想が尽きちゃった? でもでも家事全般まったく生活能力がないのは認めるところだけどそこはそら、私ってほら――」


 エルディスティアは息継ぎもせずまくしたてた。


 ――女神だし?


 リオはふるふると首を横に振る。

 愛想が尽きたわけじゃない、との意思表示だが、エルディスティアは美貌を歪めて今にも泣きだしそうになる。


「いやだ見捨てないでおくれよぉ……。もう正直に言ってしまうけど、私はね、君のことがす、すすすぅ……好きなんだ! さらさらふわふわした黒い髪も堕ちていきそうなほど深い黒の瞳も、愛らしい唇も華奢な手足も、むろん起伏の乏しい感情なんかも含めて何もかもが!」


「僕もエルディスティアさんのことは好きだよ」


「はぅわっ! もう死んでもいい……」


「貴女には死んでほしくない」


「うん、珍しく真摯に厳しめの顔つき、ありがとうごちそうさま。大丈夫。私は死なないよ。死ねないからね」


 リオは軽い口調にもわずかに眉をひそめた。

 エルディスティアは居心地が悪くなり、彼から目をそらしつつ言う。


「わからないな。ここでなら君は、何不自由なく過ごせる。逆にここを出てしまえば、もう私は君に何もしてあげられなくなるんだ」


 それでもあえて、出ていこうとするのはなぜか?

 もう一度、彼女は真面目なトーンで尋ねた。

 するとリオはきっぱりと言い放つ。



「僕、冒険者になりたいんだ」



 返ってきたのはあまりに意外過ぎて、あまりに受け入れがたいものだった。


「ダメダメ絶対だめだよそんなの! 冒険者だって? そんな危ないもの……えっ、本気? もう決めたし絶対に譲れない? 私でも? そう、か。ふーん、そっかぁ……」


 ぷくーっと頬を膨らませたかと思うと、なんだか神妙な顔つきになり、やがてどんよりするや、へなへなと肩を落とした。


「ああ、そうか。君には叶えたい願いがあるんだね。それはきっと、生き別れた妹に再会することだ……」


「えっ?」


「みなまで言わなくていい!」


 びしっと手で制するエルディスティア。


 リオには二つ下の妹がいた。

 しかし母を失い孤児となった兄妹きょうだいのうち、女神が引き取ったのは一人だけ。


 リオは知る由もないが、エルディスティアはときおり妹がどう暮らしているかを確認していた。

 優しい老夫婦に育てられ、穏やかに生活している。


 かつてのように兄妹仲睦まじく、慎ましやかに暮らしたいだろう。けれど――。


「うん、わかっているんだ。人の心は神だって変えられない。だから君の決意を、私は覆すことができない。そりゃあね、ふつうなら説得とかやるのだろうけど、私にそんなスキルはない。人とまともに会話したことなんて、君以外にはほとんどなかったんだ」


 だけど! と今度はキリリとしつつも、どこか辛そうに。


「私は反対だ。それでも行くというのなら――」


 悲愴にも似たこちらも決意に満ちた顔で、エルディスティアは告げた。


「意地悪をさせてもらう」


 リオはあまりに子どもっぽい物言いに、ぷっと吹き出した。


「な、なんで笑うのさ!? 言っておくけど、わたしは隠し事ができても、嘘はつけないからね。ホントの本気だぞ!」


 知っている。それもまた、彼女が不自由である証左なのだ。


「それでエルディスティアさんの気が済むなら、いいよ」


「うぅ……気が済むとかの問題じゃあ……ええい! もうホントに知らないからね!」


 エルディスティアは言葉の勢いとは裏腹に、ためらいがちにリオの頬にそっと手を触れた。

 ほんのりとあたたかい。しかし次の瞬間、リオは体の奥底が煮えたぎるような熱さに襲われた。


「ああ、やっちゃった……。きっと私、君に嫌われてしまう……」


「僕が貴女を嫌いになることなんてないよ」


 あえて何をされたかは聞かなかった。

 落ち込みようから、かなり深刻な問題が自身に降りかかったとリオは考える。

 それでもあまり気にならないのは、彼女の本質が『いいひと』だと信じているからだ。


「嬉しい……。やっぱり君と離れたくない。けれど君の決意が固い以上、私にはどうすることもできない。意地悪してごめんね? その代わりと言ってはなんだけど――」


 彼女はもう一度、慈しむようにリオの頬を撫でた。


「君が生来持っているユニークスキルは【英雄】だ。私が授けるものの中では最上級に位置する。けれど、私に意地悪された君が持っていても仕方のないものなんだ。だから――」


 またも体の芯が熱くなる。


「君のユニークスキルを、変更した」


「えっ」


「私は、君を死なせたくない。冒険者なんて危ない仕事、命がいくつあっても足りないよ。むろん〝不死〟は神の領域だから無理だ。でも新たに授けたユニークスキルなら、君は天寿をまっとうするまでけっして死にはしない」


 これでいい。

 冒険者にでもなろうものなら、妹に再会する前に死んでしまう。


(だから、これでいいんだ……)


 生気が抜けたように落ちこむ女神を見て、リオは焦った。

 だってユニークスキルは生まれながらに誰でもひとつだけ持つ、生来のスキルなのだ。

 それを途中で、しかも個人的感情で変更するなんて――。


女神あなた自身が、ルールを破ったんですか?」


「うん、これは重大なルール違反だ。自分で作ったルールを無視した忌むべき行為だよ」


「それじゃあ、貴女はまた( ・ ・)――」


「いいんだ。これから先、私は君を見守るしかできない。私が生み出した魔物に君が殺されるところを見るなんて、私には耐えられないよ」


「メンタル弱いもんね」


「そうだけど! だいたい君に会うまで、私は自分がこんなだなんて知らなかったんだ……」


 リオが両手を広げると、見るからに大人で美しい女性が、思春期前の男子の胸に顔をうずめた。

 金色に輝く髪を、リオはそっと撫でる。さらさらでふわふわだ。


「立場が逆ぅ……」


 頼りなくも優しい、人以上に人間味にあふれる女神様。

 けれど彼女に自由はほとんどなく、神々のルール、自らのルールに縛られている。


(僕は、このひとを救いたい)


 命を救ってくれた恩返し。

 楽しかった日々へのお礼。

 それよりなにより、彼女のことが大好きだから。


 妹に会いたい気持ちはある。女神が言うのだから、彼女はきっと生きている。

 ならばなおさら、すでに相応の生活があるだろう彼女に、今さら『兄だ』と名乗り出て困惑させたくはなかった。


 リオの願いは、ただひとつ。


(神様のルールなんて、僕が打ち破る!)


 ゆえにこそ彼は、頂点を目指す。


 決意を胸に、リオは彼女のもとを離れた――。



 拠点を定め、さっそく冒険者登録をした。

 ステータスを確認し、レベル1と判明する。


 それはいい。

 まだ子どもの自分なら、今の時点でレベル1なのはむしろ当然と言えた。


 しかし問題は、ここからだ。


 ――次のレベルまで100,720,194です。


 必要経験値が一億ちょっと。

 それは一流冒険者でも生涯をかけて獲得できるかどうかの、途方もない数字だった――。



次のレベルまで果てしなく長い道のりですが、そんなに話数はかけないつもりです。

次回、冒険者デビュー。思わぬ方法で経験値を大量ゲット!


途中まででも読み終わったところでブクマや評価を入れていただければ嬉しいです。嬉しみ。



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