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人探し



声をかけるとしたら飛び切りの美女がいい。

ドラマには美女がつきものだ。


行き交う人々を眺めながらそのような事を考えているといつのまにか数時間が経過していた。

帰りたいという感情を何度も押し殺しながら、誰かに声をかける機会をうかがった。


本の山に埋もれたあの時、

私が思いついた考えはこうだ。


あの時手に取った本は

「書を捨てよ、町に出よう」。

寺山修司の本だ。

それがきっかけで、本の山を燃やしきり、

実際に町に出る。

向かう先は夢の国、大都会東京。

東京に出れば人が山のようにいる。

ほとんど無一文の状態で東京に出て、

とりあえず誰かに声をかける。

そして私が東京に来た経緯を説明して、

「良かったらあなたの家に住ませてくれないか」

と懇願する。

東京ほど人がいれば、いきなりあった赤の他人を居候させてくれる面白い人がいるに違いない。

そこから始まる夢の東京生活、なんとドラマチックではないか。



そんな単純な馬鹿な思いつきで、

私は本当に東京まで来てしまった。

しかし大都会東京で赤の他人に声をかけて、

いきなり居候させてくれと懇願するのは考えれば考えるほど馬鹿で無謀な考えだった。

何度も声をかけようとするのだが、

その度に尻込みして流川に沈む重たい石のように動かなくなってしまうのだ。

あのっ…あのっと、

声にもならない音は喉と口の間から出る事なく殺されてしまう。

これでは、はたから見たら明らかにただの不審者じゃねえか。

よく考えると面白くもなんともない思いつきだ。家出少年みたいな事を、成人した大人がやろうとしている。しかも俺みたいな人との関わる事を大の苦手としている人間が。俺は阿呆か。

だいたい、こいつらは何処から来て何処へ行くんだ。

どいつもこいつも死んだ魚見たいな目して歩きやがって。

と筋違いな八つ当たりの感情まで沸いてくる。


建物の壁に凭れてふと空を見上げれば、

高層ビルに囲まれた空が見えた。

それは深い井戸の底から天を見つめているようだった。

井の中の蛙大海を知るために飛び出したものの、

別の井戸に落っこちてしまったかのようだ。

この井戸には自由に泳ぐスペースも無いくらいオタマジャクシが蠢いている。井戸の上から大きなバケツが降ってきて、そのバケツがオタマジャクシで満杯に満たされる様を想像して少し吐き気がした。



場所を変えてみよう。

名前を知っていたから何となくこの新宿に来てみたが、声をかけるにしてもここは人が多すぎる。

私は新宿を抜け出すことにした。

もう少し落ち着いた所を探してみよう。

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