捨てて、進む
火。
火は好きだ。
私の部屋を埋めた本達が、
今私の目の前でバチバチと音を立てて燃えていく。
夕焼けが空を紅に染める時刻、
本を燃料とした炎が焼酎を飲んで赤くなった私の顔をさらに赤く照らした。
その傍に乱雑に重ねた本の山から、
本を乱暴に掴んでは炎に向かって乱暴に放り投げた。
数十冊を同時に投げたり、一冊づつ手裏剣のようにして投げてみたり。
自分が今まで読んできた本が燃えているのを見るのは何とも不思議な感覚だった。
思い入れがある本もそうでない本も、
もう一度手に取れば手放せなくなりそうで、
炎に放るまで出来るだけタイトルも背表紙のあらすじも目に入れぬようにした。
一度捨てると決めたのだ。
この本を全部燃やしたらこの田舎を飛び出して町に出よう、そう決めたのだ。
ある本の表紙に印刷された女性の顔が燃えて灰になる。
一度ページに着いた炎は物語の記された文字に津波のように迫り飲み込んでいく。
抗う術のない文字達が灰になる。
積み重ねた本が燃えていく様は、
自分の今までの過去までが灰に帰されるようで身体が震えた。
これは過去との決別だ。
明日からのドラマチックな人生への序章だ。
明日からは本の中じゃなくて、
本当の人生を生きるんだ。
そう自分に言い聞かせながら、
黙々と炎に燃料を投下した。
時々頬を伝う涙は、
炎の熱が乾かしてくれた。
本を燃やしてることに涙してるのに、
本の熱でその涙が乾くなんて可笑しな話だ。
この本を全て燃やし終われば、
この興奮を焼酎で抑えて、
睡魔に誘われるままに床に就こう。
そして明日の朝起きたら、
本で出来た灰の山を蹴飛ばして行くんだ。
東京へ‼︎