始まり
なぜこうにも人生というものはつまらないものか。
そう思っているのは私だけかもしれない。
私がつまらない人間だから、
その人生もつまらないのかもしれない。
私も奇想天外、摩訶不思議、奇異怪々な世界を闊歩するように刺激的でデンジヤラスな人生を送ってみたい。
そのような願望は、現実のつまらなさと反比例するように日々積もり積もって拡大していくのだった。
しかし、はたして私のようになんの才能の欠片も持たずこの世に生を授かった身としては、
どのように物語の主人公のような人生への歩を進めればいいか皆目見当がつかないわけである。
才能が無かったとしても、主人公に必要な要素の一つである勇気や大胆さというようなものを少しでも持っていたのなら、今頃は私の人生も少しはドラマチックなものであったと思うのだ。
けれども、私という人間、勇気だとか度胸だとかという大それた言葉を口にすることすら烏滸がましい、むしろ臆病だとか、卑屈だとか主人公の気質とは正反対の性質を形容する言葉が似合うような人間であるのだ。
だからこそ、今の今まで片田舎の暗い部屋で光の当たらない路地裏の隅の方にあるブロックをひっくり返した時に出てくる、同じく暗く湿った虫達のように背中を丸めて生きているのだ。
そんな私の唯一の趣味が読書であり、毎晩毎晩暗い部屋で本の世界に没頭していた。
つまらぬ現実から逃げるように、本の世界を物語の主人公と共に旅した。
しかし、読み終えた本を積み重ねる度に、現実に引き戻される現実があった。
物語は終わっても、私の人生は続いていくのだ。
積み重ねた本の塔が部屋の天井に達した時、
私の中に累積された人生の儚さや現状への不安や退屈感、そのような類の思念を含んだ感情が爆発しそうになった。
そのようにして私が積み重ねた本の塔は一本一本、私と机、部屋の裸電球を囲むように部屋の中に建設されていった。
私を囲むそれらの塔は、最終的には壁になり、
天井に接する最期の本を置いた時、
私は椅子の背もたれに寄りかかり、
宙に浮かぶ裸電球の円を見つめて、
目を閉じた。
さらに、背もたれに体重をかけると、
ズドン、っと私は床に倒れた。
自分が床に倒れたことを認識した数十秒後に、
後頭部に感じる鈍痛と共にハハハと一人乾いた笑いと共に目を開いた。
気づけば叫び声をあげていた。
叫び声と共に、部屋に積み重なった本の壁を夢中で破壊した。
倒壊した本は自分自身に積み重なり、
私は本の山の下敷きになった。
本達の重みを全身で感じながら、
本が積み重なった自分の今の状況は私の人生の中でも、まあまあ面白い瞬間なのではと思いながら、
本をかき分けて、
本の山から顔を出した。
片付けるのがめんどくさいなあと思いながら、
いつのまにか握っていた一冊の本を見た。
「書を捨てよ町に出よう」