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アラヌスと海底遺跡  作者: 紗吽猫
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第六章 太陽の剣

「え…?」


部屋の中央で下を向いているアラヌスの方を見ていたルチーナは、その光景にぎょっとした。

カチッと何かの音がした後、間違い探しのように姿を消した物があった。…ドラゴン像だ。向かい合わせに置いてあったドラゴン像が台座から忽然と姿を消した。アラヌスはまだ床を調べていて気がついていない。ルチーナが異変を伝えようと口を開こうとした瞬間、それらは彼女の目の前に移動していた。


「きゃあっ」


思わず悲鳴があがった。驚いて後ろへとバランスを崩して転けそうになる。そんな彼女を狩るように石像だったドラゴン像が二体、爪で引っ掻くように攻撃を繰り出した。


ーあ、やばいー


そう思った。転けそうにバランスを崩している彼女は精一杯、身体を反らして避けようとした。が、咄嗟の、バランスを崩した状態での判断だった為、避けきれなかった。

ザシュッ!と鋭い爪で切りつけられる。


「痛っ!」


左右どちらの脇腹も切りつけられ、勢いのまま背後へ倒れ込んだ。尻餅をつき、両方の脇腹を押さえた。だが、ドラゴン像は休み間もなく再び仕掛けてこようと繰り返し狙ってくる。二体は前と後ろで挟み撃ちをしようとしている。ルチーナは青ざめた。


ーちょっと…!なんで私を狙ってくるのよ…!?


心の中でそう叫んだ。自分にはこの状況で即席かつ前後に放てる攻撃魔法も防御出来る魔法はなかった。詠唱する時間さえあれば…っ!そう嘆いてもどうしようもなかった。避けようにも切りつけられた脇腹が痛み、すぐには動けそうもない。

咄嗟に、ルチーナは叫んだ。


「アラヌス!!!」


二体のドラゴン像の口が開き、前の個体からは火が、後ろの個体からは氷のつぶてが繰り出された。

もう駄目だと思ったルチーナは思わず目を閉じた。その時、


「ルチーナ!!!」


聞き慣れた声がした。と同時に目の前にいたドラゴン像は真っ二つに切り裂かれ、吐き出した火も塵となって消えていくのが見えた。彼女の後ろにいた個体も吐き出した氷のつぶてごと割れ、塵となって消えていった。ルチーナは後ろを振り向く。そこには、見慣れた後ろ姿あった。


「ふう…危機一髪だったな」


こちらを振り向いて彼は言った。


「無事か?ルチーナ」


大きな光の剣を肩に乗せ、手を差し伸べている。ルチーナはその手を取り、立ち上がる。と、同時に、


「これを見て無事だと思うわけ!!?」


ばっ!と血で染まった両脇腹を見せる。


「助けてくれたことには礼を言うわ!どうもありがとう!けどあんた一体何したのよ!!!突然襲ってきたし、あんたもすぐ側の事だったのに気づくの遅すぎないかしら!?」


痛みで苛立っているのと、恐怖心からか声を荒げた。

ちょっと半泣き顔だ。ついでに顔も真っ赤だ。


「わ、わりぃ…」


思わず面食らってしまったアラヌスは素直に謝った。恐らく、自分が押した床の凹みがドラゴン像が動き出したきっかけなのだろうと思った。つまり、ルチーナが怪我をしたのは自分のせいでもある。何かあると思って床を押したが、ドラゴン像の方が動くとは予測していなかった。


「傷、どうにかしなきゃな」


アラヌスはルチーナ脇腹に手をかざすと、患部を白い光が覆った。すると、服についた血の痕を残し、みるみるうちに傷は塞がった。痛みも退いていく。


「治癒魔法はルチーナの得意分野だけど、オレにもこれくらいなら使えるからな」


ルチーナは脇腹を触る。痛みも傷跡もない。


「あ、ありがとう」


「いや、ルチーナの言うとおりオレが早く気づけば良かったんだ。ごめんな」


「…もういいわ。私もちょっと言い過ぎたわ、ごめんなさい。」


ルチーナは首を振りながら答えた。それから、二人は改めて中央のドラゴン像があった台座を見る。


「ほんとはさ」


台座に近づきながらアラヌスが話す。


「床の凹みを押せば剣が出てくるんじゃないかって考えてたんだ」


「剣?」


ルチーナが後を追うようについてくる。

彼女が隣に来たところでアラヌスが続ける。


「壁画と文章にあったろ。"太陽の剣で竜を討つ"ってやつ。ここの台座の間の剣の絵。そんで壁画の龍みたいな生き物と剣を持った人の絵の位置関係。そっからさ、この凹んだ床がちょうど剣の人の位置だと思ってさ。踏んだらこの剣の絵の部分に何かが起きると思ったんだよ。剣が出てくるんじゃないかって」


「けれど、実際には…」


「そう、ドラゴン像の方だったわけだ。」


台座を調べてみても特に何もない。一体、どういうことだったのか。剣の絵の他には微かな窪みがあるだけで何もない。

ルチーナは辺りを見渡す。すると、何かが光った気がした。


「ねえ、アラヌス」


「ん?」


「太陽の剣で竜を討つって言葉、まだこの剣の絵で表現出来るんじゃない?」


「え?」


ルチーナは先程、自分が襲われたところまで行き、何かを拾った。松明の明かりが届くところまで戻るとアラヌスにそれを見せる。


「…玉?」


二つの玉だ。いや、正確には玉が割れた状態のものがふたつ。


「襲われたところにあったわ。塵になって跡形もなく消えたと思っていたけれど、こんなものが落ちていたようよ」


「これ…魔力珠…じゃないか?」


魔力珠(まりょくじゅ)…魔法式を組み込んだ魔力を込めた珠。生きていないもの…ぬいぐるみや物などに埋め込むと特定の条件下のもと動き出すように出来る。魔法が使える人間なら大抵の人間は出来る簡単な魔法だ。


「こんなものまで仕込んであったのか」


「どう?わざわざこんなものまで用意しているんだし、試してみない?」


ルチーナは魔力珠の欠片をアラヌスに渡す。アラヌスは、色々な角度に回して眺めた後、


「これを…剣の絵の回りにでも置けばいいのかな?」


そう言いながら絵の周りに欠片を散りばめる。が、何も起こらない。


「ちょっとアラヌス!そこの窪みに欠片を置くんじゃないの?」


「おお、なるほど。確かにピッタリだな」


ルチーナが言うとおり、窪みに欠片を置いてみる。すると、砕けていた魔力珠が光り出し、剣の絵と魔力珠を中心に部屋の床全体に魔法陣が展開された。


「!?」


部屋全体に広がった光を前に、二人は思わずその眩しさに目を細めたり、手で光を遮ったりとその眩しい光が収まるまでその場から動けずにいた。そして、ようやく光が収まったかと思った頃、今度は目の前の光景に釘付けになった。


「これって…」


二人の目の前、剣の絵があった場所に光放つ剣が浮いていた。魔力を帯びている。

しばらく、呆然とその剣を見ていたが、我に返ったようにアラヌスが口を開いた。


「まさか、これが"太陽の剣"なのか?」


壁画に描かれていた剣の人が持っていた剣。文章に"太陽の剣"と刻まれていた剣。光放つそれは、確かに太陽のように部屋全体を明るく照らしている。壁画の物語をなぞることで魔法陣が展開される仕掛けがなされていたようだ。


「何でこんな仕掛けが…」


つくづく、不思議な遺跡だなと思う。用意されたような魔法が掛けられているであろう石盤などの文章、答え合わせのような壁画、魔力珠が埋め込まれたドラゴン像とその珠を用いた床全体に広がる魔法陣。まるでゲームでいうダンジョンのようだ。

本来、魔法は術者無しでは発動しないものだ。故に基本的な遺跡で魔法陣が発動することはない。その為、建物を守る結界や魔法もない為に風化したり侵食、崩壊していく。だが、この遺跡は海底遺跡であり、だがしかし海の水が入って来ず、水圧にも負けぬよう遺跡全体を守る魔法が張られてあり、こうした内部の魔法も生きている。

ここまでのことが起きれば、自然と可能性が確信へと変わっていくだろう。


「ルチーナ」


「な、何よ…?」


アラヌスは太陽の剣と思われる光放つ剣を見つめながらルチーナに話しかける。


「これはもう可能性じゃない。絶対、術者が生きてる。常識で考えれば、人間じゃないやつだけどな。幻獣や精霊の類いだ。そんでもって、来るやつを試してる。ただ何かを護っていて触れられたくないなら、こんなヒントなんか残さない。そうだろ?」


光の、太陽の剣の奥にあの錠と鎖で封じられた巨大な石の扉が重々しく存在している。あの錠を開け、先に進むには鍵が必要だ。


「そうね…きっとそうなんだと思うわ。これだけ遺跡に掛けられた魔法が生きているなら…きっと魔法を継ぐ存在が生きているのでしょうね」


ルチーナはごくりと唾を飲んだ。

最初は海が荒れた原因を探しに来ただけだった。だが今は、その原因もわかっていないのに、この不思議な海底遺跡で遺跡の謎解きをしている。その上、人ならざる存在がこの遺跡にいるかもしれない。まだ、実際に目にしたことがない存在。アラヌスは趣味の遺跡探究で一度だけ精霊を見たことがあると言っていたが、彼女にはその経験はなかった。だからこそ、この先、更なる未知の出来事が待っているとなると、冒険が趣味という訳でもないルチーナにとっては、不安で胸がいっぱいになってくる。

正直に言えば、引き返せば良かったと思っている。ドラゴン像にも襲われたのだから。この先に進めば、また何かに襲われるのではと思う。第一、こんな仕掛けを作っているような術者だ。話の通じる相手だとは思えない。だが、そんなルチーナの不安を他所に、アラヌスは光放つ太陽の剣を掴もうとしていた。


「アラヌス?何をー…」


ルチーナが言い終える前に彼の手は剣に触れ、目が眩むほどの光を放ったかと思うと、その形を変え、光放つ鍵の姿になっていた。


「太陽の剣が扉を開ける鍵だったんだな…」


巨大な扉を閉じる大きな錠に見合うだけの大きな鍵。その大きさはアラヌスの身の丈ほどはある。


「アラヌス…」


ルチーナの不安そうな声がする。アラヌスは振り向くと笑ってみせた。


「大丈夫だって。ここまで来たら行ってみようぜ。何かあったらオレが守るって。先頭はオレが切る。だから、ルチーナはオレの援護頼むよ」


アラヌスが遺跡内部で引き返す性格じゃないことも、中途半端に投げ出す性分でもないことを彼女は良く知っている。小さい頃から彼の冒険探検には付き合わされてきた。そして前を行くのはアラヌスで、後ろから援護をするのはルチーナだった。

彼女は小さくため息をついた後、


「了解」


とだけ答えた。それを受けてアラヌスは魔法で高くジャンプし、錠に鍵を差して回した。


カチッ


と音がする。鎖が外れ、扉が開いていく。鈍く重い音が響き渡る。

錠と鎖は床に落ち、アラヌスの手元には光放つ鍵が残った。


「これ…まだ使うってことか?」


手元に残った鍵を眺める。床に落ちた鎖と錠は一気に年月を過ぎたかにように急激に風化し、錆びれ、朽ちていった。その役目を終えたようだ。


「アラヌス…これって…」


ルチーナは朽ちた錠と鎖を見ながらアラヌスの側に寄る。


「…多分、この遺跡の本来の時間軸に戻ったんじゃないか?ここはまだ魔法が生きてるし、本来の時間軸よりは時間の流れに差が出ているのかもしんない」


「じゃあ、本来ならもっと朽ちているってこと?」


「おそらくな。確かに今でも朽ちた感じがあるけどさ、この建築様式が使われていた全盛期は今から5000年から7000年前なんだ。だから、海底に沈んでることも考えれば、形が残っていることの方がおかしなくらいさ」


「なるほどね…」


ドオォン…。


更に鈍い音が響き、二人は音のする方を見た。巨大な扉が開ききった音のようだった。

その先には暗闇が広がっている。


「行くぞ、ルチーナ」


「ええ」


息を飲む二人。この先に、一体何が待ち受けているのだろうか。またさっきのような戦闘があるかもしれない。アラヌスは未だ手の中にある鍵の形へと姿を変えた太陽の剣を強く握り締めた。


そうして、二人は扉の向こうへと進んでいったー…。

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