21.探索の条件
「ユーリ王女の言うことももっとも。慎重に進むべき。ただ、あまりノンビリもしていられない」
祥吾達の会話を聞いていたシャイナ・ハスルザードが淡々と意見を述べる。シャイナが発言したことでパーティーの弛緩していた雰囲気が締まる。
勇者パーティーに参加しているこの小柄な魔法使いには、王女であるユーリも一目おいている。
彼女は、齢12歳にて宮廷魔法使いになり、16歳となった今では王国一の魔法使い、主席宮廷魔法使いとして君臨している。
小柄で華奢な体躯の彼女は、顔立ちが整っていることもあり、一見、年齢以上に幼く見える。が、王国で彼女を若輩者と侮るものはいない。恐らく今回の探索で一番の実力者は、祥吾でもエリザでもなく、シャイナである。
赤い髪に深紅のローブ。主席宮廷魔法使いであることを示す深紅のローブを纏った彼女は、王国の魔法使いの象徴であり、これまでに数えきれないほどの実績をしめしてきた。気難しい熟練の魔法使い達も彼女の言葉には素直に従う。
「わかっているよ。気を引き締めていこう。アリシアのことが心配だ。時間をかければかけるほど彼女の生存が危うくなっていく。そもそも第一騎士団は、二十五階層まで進んでいたんだろ?そこまでは計画通り急ごう」
祥吾が、仕切り直しとばかりに真剣な表情でユーリに尋ねる。
「はい。そうです。二十四階層までは順調に進んでいたとの連絡を受けています。焦らなくても進行スピードは、予定よりも早いですよ」
第一騎士団の定期連絡では、二十四階層まで、苦戦することもなく、スムーズに攻略を進めていたとのことだった。
二十五階層の攻略を開始する、との報告を最後に連絡が途絶え、消息不明になっている。
オークやゴブリン程度のモンスターしか出現せず、罠らしい罠もない低難度のダンジョンであるとの報告しかなかったところでの突然の連絡断絶である。
二十五階層に何かあるのは明白である。
大掛かりな罠があるか、ダンジョンボスが待ち構えているか、何にしても第一騎士団が攻略できないだけの仕掛けがあるだろうと、王国の上層部でも当然に予想された。
また、第一騎士団が攻略に失敗したのは騎士団のみで攻略に向かったことが最大の要因と考えられていた。
ダンジョン攻略に詳しい冒険者や案内人を連れていくべきだった。恐らく騎士達だけでは回避できないようなトラップにかかってしまったのだろうというのが大方の予想である。
そのため、今回の勇者の探索ではダンジョンの罠に詳しい案内人とシーフ、罠探知の魔法が使える魔法使いを連れてきている。万全なお供をつれていくのがダンジョン攻略許可の条件の一つである。
なお、もう一つの条件は、祥吾には通知されていないが、問題の階層に勇者を進入させないことである。
当該専門家と今回勇者パーティーに同行させるA級冒険者パーティー「ブラックブーツ」を二十五階層に先行させ、調査させる手筈になっている。
ダンジョン攻略経験豊富な「ブラックブーツ」を高額な報酬で投入しているあたり、王国の本気が垣間見える。もっとも、ブラックブーツ自体が男性4人組のパーティーであるため、美少女達との会話に勤しむ祥吾が積極的に話しかけるようなことは一切なかったりする。
当該調査で今回の謎が解ければよし、解けなければ、調査を中断し勇者は帰還させる。
王国の上層部(ユーリ王女を含む)では、既に生存が危ぶまれる聖女や第一騎士団の救出よりも勇者の安全を最優先すべきと判断されている。
今回は、勇者の聖女救出に赴きたいという要望に応えつつ、ダンジョン攻略の経験を積ませることが主目的になっているのである。
第一騎士団が消息を絶ったという見過ごせない要因があるものの勇者が苦戦するようなモンスターが出現しないことは確認されており、当該階層にさえ進入しなければ、レベル上げと経験を積むうえで許容範囲、そんな風にユーリは考えていた。
残念ながら、ダンジョンは既に八雲によって大きな変化を遂げているのだが、ユーリ・スペードがその可能性に気づくことはなかった。
ダンジョンが変動するという事実は、世にあまり知られておらず、それはやむを得ないことではあるのだが。




