2.気がついたら
その日は普段と変わらない退屈な日だった。
ぼーっと授業を受け、終業時間になる。
特にやることもないので、
「じゃあ、また明日な」とクラスメイトに挨拶をして、教室を出た。
自転車での帰り道、山道を登っている最中だっただろうか。
突然、強烈な光に包まれたと思った次の瞬間、目の前には猪面の化け物がいた。
何が起こったかは先すぐには理解できなかった。
憧れた異世界転生だが、目の前にオークがいては台無しだった。
チート無双で活躍!
美女に囲まれるハーレムを目指す!
なんで夢想していたけど、実際に突然、訳の分からない場所に呼び出されてみると頭は真っ白だ。
「異世界召喚だ! やった!」などと喜ぶ余裕もなく、目の前の巨大なモンスターに圧倒され言葉が出なかった。
すぐに状況を受け入れて。魔王退治を引き受けるなんて話もラノベで読んだことあったけど、あれは半端ないな。
俺にはそんな強靭なハートはなかった。
チキンですまん。
話を戻そう。
俺が召喚された直後、戸惑う俺に構うこともなく、オーク達は当然のように説明を始めた。
「突然のことに驚いていることだろう。我はこのモンスターの国の王であるオークキングである」
「私は王妃。オーククイーンです」
「我が国、我らが居をかまえるこのダンジョンは、現在進行中でスペード王国からの侵攻を受けている。
しかも、やつらは既にダンジョンの半分を超えた二十階層まで侵攻を進めており、このままでは後、数十日でこの王の間こまで到達するだろう。
口惜しいことにやつらの力は強大で、我々の力だけでは如何ともしがたい。
我々はこのまま座して国が亡びるのを待つのを潔しとせず、藁をもすがる気持ちで人族に伝わる勇者召喚を行ったのだ。
さぁ、勇者よ。どうか我々を救ってくれない! 異世界から召喚された勇者は特別な強い力を持つといわれている。その力を我々に貸してくれ」
むむ、俺にもチートがあるのか?
いきなり戦えたりするのか?
いや…、無理だろう。
普通に考えて。
そもそも勇者といったら人間側じゃないのか?
モンスターに召喚されて、モンスターのために戦うとかありえないだろう。
なんで、当たり前な顔で助けを求めてきてるの? おかしくないか。
だいたい、こういう場合、超絶可愛い王女なんかが色仕掛けでその気にさせるんじゃないのか?
こいつらオークだぞ! その気になるわけないだろ!!
「あの…… すみません。急にそんなこと言われてもよくわかりません」
バシッと断ってやりたいと思ったが、目の前の凶悪なモンスター相手を前にそんな強気な発言はできるわけなかった。
だって普通に怖いよ。
「そうだろうな。それもよくわかる。まずはこれに触れてみてもらえないだろうか」
オークキングがそういうと、俺の目の前に黒い正八面体の物体が出現した。
宙に浮いている。
ファンタジーだな。
よくある鑑定石とか、そういうやつだろうか。
俺は言われるままにそっとそれに触れてみた。
『ダンジョンコアへの接触を確認。ダンジョンマスター権限が「オークキング」より「ヤマダヤクモ」へ移譲されました。「ヤマダヤクモ」がダンジョンマスターになりました。』
えっ?
2020/6/15 文章を少しシンプルにしました。内容は変わってないです。