13.猫
◇
ハート聖教国。聖女の属するこちらの国でも事態は動いていた。
聖女の追跡が出来なくなったこと、スペード王国第一騎士団のダンジョン攻略失敗、それらは当然に聖教国でも把握していた。
「聖女のシグナルが消えたとか」
「あぁ、例のダンジョンでとのことだ」
「そうか」
聖教国の一室にてこの国の頭脳と言ってよい枢機卿団が聖女の件について議論を行っていた 。
「生存不明とのことだ。ダンジョンに囚われれていた時点で望みは薄いところだったが、シグナルが消えたとなるといよいよ生存は絶望的だな」
「国中に知らせを出すか?」
「いや、民衆が不安を覚えるだけだろう。出すにしても、まだ消息不明の方がいいだろう。民衆が納得するようなストーリーをつけてな」
「王国から今回の件についての連絡はないのか?」
「聖女の生死についての確定的な報告はない。第一騎士団がダンジョン攻略に失敗したというのは確かなようだが」
「聖女の暗殺失敗だけでなく、ダンジョン攻略も失敗とはな。密約を交わす相手を間違えたと判断せざるを得ないな」
「偉そうなことを言っておいてこの様か。王国最強が聞いてあきれる。国内外に大見栄えきっておいて聖女の救出失敗どころか第一騎士団まで失ったとなると王国の面目は丸つぶれだな」
「我が国だとて対外的な評価は似たようなものだ。我が国が聖女を失い、王国が騎士団を失った。勇者を召喚できなかった他の同盟国も少しは溜飲を下げるだろう」
「どうかな。今回の件に不自然な点があることは勘のいい連中は気づいているだろう」
「とはいえ、先ずは外交面よりも目の前の問題を片付けなければな。今だ聖女の死亡が確認されたわけでもない。加えて、ダンジョンの脅威も放置しておけない」
「教皇様がどう判断されるか。どちらにしろ民衆に正義を示す必要がある。クルセイダーズの出番だろうな」
「確かにな。当国が勇者を有している以上、教皇様が静観されることはないだろう。それに勇者殿は随分と聖女にご執心なようだったからな」
「そうだったな。我々もクルセイダーズを動かす準備はしておこう。邪悪なダンジョンには早々に消えてもらわねばな」
◇
「マスタぁ~、何で猫なんて召喚したの?」
八雲がダンジョンマスター機能で生み出した魔猫と戯れていたところ、ダンジョンナビが背後からひょいと話かけてきた。
「ん?別になんとなくかな。可愛いだろ?俺にも癒しは必要だからな」
八雲は同様にダンジョンポイントで設置したソファーに寝転がりながら、ニュー、と鳴く子猫を抱き上げながら答える。
「えぇ~、余裕だね~。それに癒しならこんなに可愛いダンジョンナビちゃんがいるのにぃ~」
回答が不満だったのか、ダンジョンナビは八雲に詰め寄る。
「オマエはなんか違うんだよな~」
「ふ~ん。そういってチラチラと胸元見てくるのは気づかないようにしてあげるね」
「ちょっ、それ言っちゃてる時点で気づくとか気づかないとかじゃないから!」
いやいや、胸元を強調した服で近くにくるんだから目がいってもしょうがないだろ。いや、「オマエに見せてんじゃねー!」とか凄まれないだけありがたいか。
「えへへ、それでマスター。ダンジョンの強化はもういいの?」
「あぁ、そうだな。一通りは終わったかな。後は状況にあわせて色々やりたいからポイントには余裕を持たせている」
今回、大量のダンジョンポイントが入ったことで八雲はダンジョンの大改造を行った。
三十階層までだったダンジョンを百階層までに拡張し、大量のモンスターに様々な罠を設置した。
百という数字にこだわりがあったわけではないが、百階層までがポイント効率が良かったので、この際だからと思い切って大きく拡張している。
モンスターの方も騎士団の死体が大量に手に入ったこともあり、アンデット系のモンスターが大量に作成できた。
元が強力な騎士だったことからかなり強力なアンデットを作成できている。戦力は大きく強化できたと言っていいだろう。
何の工夫もされていなかった低難度ダンジョンが、今や難攻不落の凶悪なダンジョンに変化を遂げている。
精鋭騎士団に押し込まれているという絶望的な状況だったが、凌ぎきってみると、その分リターンが大きかった。ほんとピンチはチャンスだよなぁ、と八雲はしみじみ思う。
なお、最下層も大きく手を入れている。
ずっと玉座に座っているのも落ち着かなかったので、リビングや浴室なんかを作って居住スペースの向上を図っている。
先ほどから猫と戯れているのもこのリビングスペースである。
ちなみに、モンスターを作成する際に、エルフや猫耳なんかの獣人、亜人種が生み出せないか試してみたがそちらは駄目だった。
ナビに亜人種を生み出せないか確認してみたところ
「う~ん、条件があるのかもね?」
と、詳しくないようで大して参考にならない回答だった。ダンジョンナビがこれとは心許ない限りである。
その際に、魔猫が作成できるということがわかったので、猫から人化したりできないかな、と一匹試しに誕生させたのがこの猫だったりする。
この猫が人化しなくても、育成していくことで派生で獣人が生み出せるようにならないかなと密かに八雲は期待している。彼の獣人ハーレム化計画は静かに始まっていたのである。




