1.召喚
唐突だが、異世界に召喚された。
気がついたら目の前に如何にも偉そうな恰好をしたやつらがいた。
王様、王妃様といった服装と言えばいいのだろうか? 王冠を被り、マントを身に纏い手には王錫を持っている。
如何にもな恰好をしているので恐らく予想は当たっていると思う。
ここは王宮? 玉座なのかな?
部屋中に煌びやかな装飾が施されており、彼らは豪華な椅子に座っている。
うん。
学生服の俺の場違い感が半端ない。
何も言葉がでない。
気後れを感じる。
あ~、何が起こった?
正直何が何だかわからない。
どうしてこんな事態になってるんだ?
誰か説明してほしい。
そんな俺の心を察したのか目の前の王様が口を開く。
「おお! 勇者よ! 我々の召喚に応じていただき感謝する」
「この国は、まさに存亡の危機に瀕しています。どうかお力を貸しください!」
異世界物のラノベでよく聞くフレーズである。
これって異世界召喚じゃね? やったー!
と、本来なら俺は歓喜すべきだったんだと思う。
だが、混乱中の俺は全くこの状況についていけてなかった。
あんなに望んでやまなかったシチュエーションであるにもかかわらずだ。
確かに俺のトレンドは、『クラスまとめて集団転移』とか『ゲームの世界に転生』とかだったりするので、厳密にいうと色々と言いたいことはあるのだが、その辺はこの際どうでもいい。
いや、異世界で活躍してクラスのヒロインに惚れられるとか、転生して美人の幼馴染といチャラブするとか、叶うなら何とかしてもらいたい切実な願いがあるが、一旦、それは置いておこう。
よく考えたら俺のクラスにそんな美少女いないし、可愛い幼馴染なんてのも存在しないしね。
諦めて目の前の問題に向き合おう。
うん。どうやら異世界に勇者として召喚されたようだ。
実際、「召喚した」と言われてるしね。
ちょっとパニックになってはいるけど、それは理解した。
大事なことなので、もう一度言うが、それはわかるんだ。
ただ、ちょっと待って欲しい。
おかしいだろう。
いや、テンプレ展開なので、王様や王妃様に召喚されるのはおかしくないかもしれない。
異世界モノではよくあることだ。
だが、そういうことじゃない。
おかしいのは、目の前にいる王と王妃が立派な牙を生やした豚面だということだ。
おまえらどうみてもモンスターじゃないか!?
◇
俺は山田八雲。16歳の高校生だ。
少々オタク気質だが、普通の高校生だと思う。
海も山もある自然に囲まれた典型的な田舎に住んでいる。
この辺は、本当に何もなく、俺からしたら、ただただ不便なところだ。
当然、遊ぶ場所もない。カラオケ、映画館、大型ショッピングモールなんて若者が集まれるような場所は一切ない。
どこに行くにも車やバイクがなければ移動もままならず、学校まで自転車で一時間半もかかる。まう。
無遅刻無欠席を継続する俺を褒めて欲しいものだ。
ちなみに、俺がそんな長時間の通学をしているのは、あえて家から遠くの学校を選んでいるという事情もある。
「田舎は嫌だ、せめて高校生活は、もうちょっと都会で過ごしたい」と、この辺では比較的発展した都市部の学校に通学距離を無視して必死に勉強して滑り込んだ。
ただ、現実は厳しい。
何か楽しいことがあるんじゃないか、恋人ができるんじゃないかとか、多いに期待した高校生活だったが、実際は、平々凡々にを過ごしてきてしまっている。
入学後、特別なイベントが発生することもなく、ゴールデンウィークが終わり、新入生も部活などが落ち着きだすと、入学時の華やいだ雰囲気も終わり、何の変哲もない日常が繰り返されるようになっていった。
なんか思っていたのと違う。
何も起こらない日々に漠然とした恐怖を覚えつつ、クラスメイトと現実逃避がてら、異世界転生したい! 異世界でハーレムを作りたい! なんて話をしながら高校生活を過ごしていた。
そんな矢先だった。
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