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第7話 盗賊征伐中編

「さて、ここがあの盗賊のハウスね!」

「確かに間違いではないと思うけど(なんとなく今のはムラクモが居たら殴られてた気が)…。」

「ん、なんか言った?」

「い、いえ。何も…。」


 今私たちは洞窟近くの茂みに隠れている。

 洞窟の前には見張りが2人居る。これもラグナロクさん曰く、『計画通り』らしい。

 ラグナロクさんの計画。それは…


 手始めに今からあの2人の前まで単身突撃していって、片方を始末しもう片方を逃がす。

 2人組のうち片割れだけを倒すことで、奴らは完全にラグナロクさんを『強力な魔法が使えるものの、1対多数は苦手とする魔術師』と捉える筈だそうだ。


 となれば、盗賊達は洞窟内の各地点で固まって行動しラグナロクさんを迎え撃つ。誰かがやられたら後退して奥に居る仲間に合流し、共に警戒にあたる。その繰り返しで疲弊させて仕留める作戦に出るとの予想をしている。

 ここからが私、ヘリアの出番であり、『魅惑の誘い(テンプーション)』で集団の動きを封じ込め、お得意の暗殺術でまとめて葬る、という作戦だ。


 唯一この作戦を見破られる要素があるなら、『1対多数が苦手な魔術師が何故単身で盗賊の集団に挑むのか』という点だが、案外金に目が眩んだ魔術師が単身で無茶な依頼を受ける事もそれなりに多いそうなので、余程勘が良くなければまず見透かされはしないだろう。


「どうよ!この私の作戦は?」

「…もしかして、これを見越して私を指名してたの?」

「…どうでしょうねぇ?案外たまたま良い作戦が浮かんだだけかもよ?」

 これは最初から何もかもを計算しつくして行動してるわ。

 多分盗賊が洞窟を拠点としていることも、その洞窟が何処であるかも、近隣にそんな建物が見当たらず、暇な時に散歩しているように見せかけて村周辺の地形を調べ尽くしていたから、あの盗賊がペラペラ喋る前から知っていた。

 ふざけているようで、何かあったときにどうするかをしっかり考えている。ムラクモもそこら辺をよくわかっているから「さっさと行ってこい」と言ったのだろう。流石である。

「それじゃあ、作戦開始ね!」

 彼女はそう言って目の前の2人の前に躍り出ていった。


「来たぞ!奴だ!」

「でやがったな!魔術師め!」

「ハァーイ、ジョージィ。風船要る?要らないでしょうからこれあげる!『ダークスネーク』!」

「な、なんだ!?ぐわあああああああ!」

 盗賊の片方が突如現れた大蛇に丸呑みにされた。

「くっ、覚えてろ!」

 盗賊は洞窟の中に去っていった。ここまでは計画通り。

(さ、ヘリア!行くわよ!)

 というラグナロクからの『思念伝達』もあり、いざ行かん!と気張ったその時、村へ調査に出かけていたムラクモから思念伝達による連絡がきた。

 そういえばしれっと二人ともさも当たり前のように使ってるけどそれ結構な高等魔法だからね?『自分の意識の断片を魔力に乗せて遠くの対象にピンポイントで飛ばすことで思念によるやり取りを行う』って簡単に言うけどすごく難しいんだからね?


(早速行こうというときにすまんが、村からの報告だ。各村に度々出没し、物資を盗んだり女子供を攫ったりしていたらしい。スミレも危なかったことがあるそうだ。容赦は要らんから好きなだけやってこい。)

(了解しましたよっと。狩った奴の魂は貰っちゃって良い?)

(構わない。好きにしろ。ただし骨にはあまり傷をつけるなよ。死体はダークスネークの腹に収納して持ち帰らせてスケルトンに加工する。ラグナロクにももう伝えてあるからな。)

(ハイハーイ。)

 悪魔にとって魂は力の源とも言えるもの。要はそれをつまみ食いしてもいいとの許可が出たのだ、これは頑張るしかない。

 …まぁ、同時にムラクモに「お前が少し強くなったところで俺の足元にも及ばないから多少力を蓄えるくらい許してやるよ」と言われたも同義なのだが…ここはムラクモは寛大な主人だとポジティブに考えよう。

 そうと決まれば、サクッと狩っちゃいましょうか。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 さて、結果から言ってしまうと、作戦は実に上手くいっている。

 ちょっと順調すぎないかと疑ってしまうくらいにだ。

 その原因は簡単、ラグナロクさんが背後で『弱体の霧(ウィークミスト)』を使用しているからだ。

弱体の霧(ウィークミスト)』は、敵味方含め範囲内全員の耐性を下げる霧を発生させる魔法だ。本来ならば味方の耐性も下げてしまうため、非常に扱いにくい魔法なのだが、今回は耐性を下げて『魅惑の誘い(テンプーション)』で動きを封じて一撃で倒すという戦法上こちら側は攻撃を受けることがない。つまり、耐性が下がってようが何だろうが関係ない。

 洞窟という暗がりの中という非常に視界の悪い場所であることもあり、『弱体の霧(ウィークミスト)』が見えた頃には既に私の『魅惑の誘い(テンプーション)』の射程範囲に入っているということも大きい。


 そんなことを考えながら、爪を振り上げて目の前の盗賊の首筋を切り裂く。

「よっと。これで98人目ね。」

「やるじゃないの~。いやぁ連れてきて正解だったわ!」

 あなた絶対1人でも片づけられたでしょうに…。部下を立てるつもりなのかそれとも単に自分が戦うのは面倒くさいのか。どちらにせよここまでお膳立てしてくれているのだ、もうラグナロクさんに足を向けて寝れない。

「うん?なんか言いたそうな顔してるわね?」

「え、いや、ラグナロクさんって凄い人だなぁって…。」

「なんでさっきまで規格外(オーバード)のくせに道に迷うような変人奇人と思われてたはずなのに評価が180°変わってるんでしょうねぇ…。」

「本気で思ってるから!あ、ぶん殴ってスイマセンでした!」

「あ、アレわざと物理攻撃無効の耐性を気力で無効にして食らってるだけだから気にしなくて良いわよ?しっかりツッコまれないとボケた気がしないからね!」

「え、あ、そ、そう…。」

 そんな雑談をしている間に、だいぶ明るい場所の目の前まで来ていた。

「ここがリーダーの居るところかしら?」

 そうぽつりと呟くと、いつの間にか『弱体の霧(ウィークミスト)』を解除したラグナロクさんが元気な声で

「お?つまりここがボス部屋って事ね!おっ邪魔しまーす!」

 と突撃していった。

「え?あ、ちょ、ちょっと!?置いていかないでってばぁ~!」

 と、私もその部屋へと入っていった。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 盗賊たちのリーダーである彼女は苦悩していた。

 部下たちからの報告が1度たりともないのだ。何らかの依頼でこの盗賊団を潰そうとする冒険者は今までにも何人かいたが、ことごとく返り討ちにしている。今回の相手は対多数を苦手とする魔術師一人の筈。ならばと、彼女は部下達を複数人のグループにして、各自洞窟内で待機させ、出会ったら各自応戦、戦える数が減ったら退却し後続に伝令、更にはどの程度まで進んできたかを自身への報告を行うようにと指示を出しておいた。その報告が1度もないのだ。引き際を見誤ったか?まさか全滅させられた?あいつらに限ってそれはないはず…それなのに、嫌な汗が背筋をつたう。


「…どうしますか、姉貴。あっしが様子を見に―」

 そこに、全く空気を読まない、とても元気で、最悪の結果を意味する声が響いた。

「おっ邪魔しまーす!」

 報告にあった、青い着物を着た魔術師。それがここに来た。

(馬鹿な!なぜここまで来れた!?まさか皆全滅したとでも…ありえん!)

 そう思ったが、それに続いて

「え?あ、ちょ、ちょっと!?置いていかないでってばぁ~!」

 という声と共に、淫魔(サキュバス)であろう悪魔が現れた。

 これで合点がいった。恐らくサキュバスの『魅惑の誘い(テンプーション)』で魅了され、その隙に殺されたのだろう。

「くっ…まさかサキュバスを連れていたとは…!」

 仲間は1人、相手は魔術師とサキュバス。洞窟の最奥地であり逃げ場はない。彼女は、人生で最初で最後の不覚をとったのだった。

「奥の手ってのは、最後まで隠しておくものよ?」

 そう悪戯に笑うその女の顔は、どんな悪魔よりも恐ろしく見えたのだった。

ラグナロク「いやー今回で終わらせたかったのになぁ盗賊征伐編。まぁでも、基本ふざけてるけどちゃんとかっこいい時はかっこいい、流石私よね!」

ヘリア「うーんあんまり否定できないのがなぁ…。」

ラグナロク「なんで否定しようとしてるのかしらね?」

ヘリア「ま、そんなのもう関係ないですけどね!」

ラグナロク「上機嫌だな。…ってこれ私止まらなくなるヤツじゃん!フリージア咲いちゃうヤツじゃん!」

ヘリア「バレてしまっては仕方がないわね。

次回、『第8話 盗賊征伐後編』!みんなも、止まるんじゃないわよ!」

ラグナロク「キボウノハナー」

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