第3話 交渉
全開で終わらせたかった交渉回です。
「で、どうしたそうなったのよ。」
「俺が聞きたい。」
「ウフフ…。」
今の状況をザックリ解説すると、俺の腕に満足げな顔のスミレが抱きついていて、それを呆れ顔のヘリアンフォラが眺めている、ということになる。どうしてこうなったのかというと…
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「ようやく落ち着いてくれたか?村長さん。」
「は…はい…」
「部屋を汚してしまったことは詫びよう。あとでインプ共に掃除をさせる。だが、それはそれとしてだ、今日は交渉に来た。」
「こ、交渉…ですか」
「俺の傘下に入るならこの村に安全と恵み、そして無病息災を約束する。しかし断れば…わかるな?」
「ハ、ハイ…その、私どもとしても魔物たちから身を守ってくれる存在をなくした今、断る理由もありません…その上で恵みと健康を保障してくださるとは…感謝します…。」
そうは言うが声が震えている。そりゃあ目の前で人殺されていきなり条件の良い話持ちかけられたら多少は怪しく思うだろうし、恐怖も感じるだろう。普通は。
普通はだ。
「…やたらと近くないか、お前さん?」
「そうでしょうか?」
いや近いよ。もうイチャラブしてるカップルの距離感だよ。なんで手を繋いでないんだって言われそうなレベルの距離感だよ。
「まぁいい。さて、俺は慈善団体ではないんでな。当然きっちり代償もいただく。」
「ハ、ハイ…」
「ここに来る前に家畜や作物を見てきた。本来ならば、今村の端でインプに作らせている祭壇に、水瓶の月の初めと獅子の月の初めに牛と豚を番で2頭、鶏も番で2羽に作物をいくらか捧げてもらうつもりだったが…どうも成長が芳しくないようだな。最初の1度だけは捧げなくとも構わない。」
「よ、よろしいのですか?」
「構わないと言っている。どうせなら俺の与える加護を実感して貰ってからの方が村民からの抵抗もあるまい。」
「は、はい。寛大な処置、感謝致します…ところで…貴方様のお名前は…?」
「…ムラクモだ。俺はこの村の守護者となる者を呼び出してくる。その間にこの村が『誰に従い』、『その者に何をすべきか』を村民に説明して来るがいい。」
よーし!態度は崩さなかったぞ!とりあえずさっさと村の中心に行って兵士の魂と死体を触媒にガーゴイルを呼び出してしまおう。
…。
「…おい、なんでついてきてるんだ?」
「え?何故、と言われましても…」
「先ほど言ったはずだが、この村が『誰に従い』、『その者に何をすべきか』説明して来いと。」
「それは…私にも行けということですか?」
「当たり前だ、村長であろうとただ一人老いた体で村を回るのは厳しいだろう。」
「まぁ…!わかりました、行って参ります!」
まぁの後に「寛大で優しくて人への思いやりや気遣いも忘れないなんと素晴らしい人なのでしょう」と魔術師顔負けのとてつもない早口で言われた気がするが気のせいだろう。そういうことにしておこう。
さて、折角なので悪魔の召喚について解説しておこう。
まずは魔法陣だ。魔法陣と聞くと複雑な文字が書かれた良くわからん円形のアレを思い浮かべるだろうが…実際のところは最低限、丸を一つ書くだけで良い。
あの複雑な文字は魔法陣やそれを取り囲む結界の補強をしているのであって、必須というわけではない。ちなみに魔法陣が円形なのは、結界を張る際に角があると結界が均一な強度を保てないからだとか。
…話が逸れた。次に魔法陣に魔力を込める。これで魔法陣が起動されたことになる。この時呼び出したい悪魔を念じながら魔力を込めることが重要である。テキトーに魔力を込めるとどんな悪魔が召喚されるかわかったものではない。
最後に、触媒を捧げて魔界から悪魔を呼び出すためのゲートを開く。
この触媒というのは、だいたい新鮮な血肉や魂、魔力といったものになる。付け足して言うと、金銀財宝は一般的な召喚の触媒には使えない。悪魔は基本的に金に興味はないので、これらが触媒として用いられる場合はかなり特殊な悪魔を召喚する時になるだろう。
とまぁ、こうして悪魔召喚3分クッキングが終了し、ガーゴイルを呼び出した。
本来はここから少しでも隙を見せた方が負ける取引を行い、契約を結ぶことで悪魔と一時的な主従関係になる…のだが、そんなまどろっこしい事をしている暇もないので、
「…ガーゴイル、貴様にはこの村の守護者になってもらう。」
と、威圧的に大量の魔力を放ちながら交渉する事で了承してもらった。
その後、この村に魔物が近寄らないように守護し、侵入してきた場合は即座に攻撃する、お前を媒介してこの村に俺の加護を与える、俺の配下以外のお前の手に負えない存在が村に侵入してきた場合は即座に連絡する、といった仕事の内容を伝えて契約終了。なんとか手早く終わらせた。
ちなみに守護者にガーゴイルを選んだのは理由がある。
ガーゴイルは石の肌を持つ悪魔で、動かなければただの石像にしか見えない。そして姿を簡単に変えられるので、村人たちが恐怖を持たないような姿になってもらうことも可能…
なんだけど、なんで少女の姿になった?別にいいけど。
ついでにインプについても解説しておこう。
底辺中の底辺悪魔。魔術師はこれが使役できるのが基本と言われるレベル。
ただし、れっきとした悪魔なので油断していると寝首を掻かれる事もあるし、新人の冒険者がインプ程度と侮って、魔法攻撃で痛い目を見るということもざらにある話だ。
最も、俺から見ればそこら辺の虫やネズミを触媒に呼び出せる便利な悪魔と言ったところだが。
「ムラクモ様~!」
あの娘さんの声が聞こえた。なんか嬉々としているが…なんだかよくわからんがとても嫌な予感がするぞ。
目の前までやってきた彼女は、とてもうれしそうな顔で報告を始めた。
「ムラクモ様、村の皆さんもムラクモ様の加護を受けることに無事、納得してくださりました。」
「そうか…なら良い。それでは、俺は帰らせて――」
「お待ちください!もう一つご報告があります。」
嫌な予感程よく当たるのは何故だろうか。
「…なんだ?」
「不肖ながら私、スミレは、ムラクモ様に嫁入りしたく存じます!お爺様や村の皆様からの許可は既に得ておりますので、どうか!」
…。
………。
はぁ!?お前何言ってんの!?あったばかりの見ず知らずの男に結婚しようとか正気の沙汰じゃないだろう!ともかく落ち着け。落ち着くんだ俺!
「待て。いきなりそんなことを言われてもだな…」
「問題ありません、ムラクモ様の為ならたとえ火の中水の中であろうとお供いたします!」
「ちょっとは話を聞け!」
なんだか人が集まってきたぞ。しかもなんか全員
『スミレちゃん、良い領主が見つかって良かったねぇ。おめでとう!』
的な事を言いながら嬉し涙を流してやがる!こんな空気じゃ断るに断れねぇ!
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「と、いうわけで、断る事も出来ず仕方なく連れ帰ることになったというわけだ!」
「威張って言うことじゃないでしょ!…で、どうすんのよ。その子。」
「とりあえずダンジョンの奥にある俺の自室まで送っといてくれ。誰にも見つかるなよ。」
「ハイハ~イ。にしても、略奪じゃなくてエサを与えて搾り取るとはねぇ。」
「事実には変わりないが言い方が悪いぞ…。一方的に搾り取るだけでは継続して利益を得られないからな。そこら辺をアイツらは弁えていなかったから、ホイホイ言うことを聞いてくれた。」
「その結果がコレだけどね。」
「うるさい。はやく連れていけ。俺はこれからあと5つの村との交渉もある。流石に女の子一人を守りながら連れて行くのは面倒くさい。」
「わかりましたよっと。ほら、行くわよスミレちゃん。」
「嫌です。」
「嫌とのことですが。」
「今すぐ俺の腕から離れろ、そしてヘリアンフォラに大人しくついて行け。」
「…ハイ。」
しばくぞこのアマという感じのすごい形相をしているヘリアンフォラは見なかった事にして、残りの村へと向かう。
…どうしよう。すんごいダンジョンに帰りたくないんだけど。
ヘリア「次回からようやくダンジョンに触れていけそうね。これでタイトル詐欺にならなくて済むわ。」
スミレ「タイトル詐欺…?」
ヘリア「ところで、貴女なんでムラクモについていこうと思ったのよ?」
スミレ「勢いとノリで!」
ヘリア「それ絶対長続きしないやつよね。
次回、『第4話 ダンジョン始動』!」
スミレ「それで、タイトル詐欺ってなんですか?」
ヘリア「知らない方が身のためよ。」
スミレ「え?」