第2話 物資の確保
結局のところ、契約は結んだ。待遇は良い方だし、何より(先代であるとはいえ)邪神に仕える機会なんて滅多に無い名誉あることだ。それはよく分かっている。分かっているのだが…
「…どうしたお前、契約結んでから急に元気がなくなったというか…しおらしくなったというか…」
「だってぇ…さっきのが初めての召喚だったんだよ?そりゃあビシッとかっこよく決めて悪魔らしい尊大な態度で召喚者を良いように扱いたかったに決まってるじゃないさぁ~…」
「あぁ、その…悪かった。」
「というかさ、先代邪神っていう割には態度が緩いっていうか…さっきから私のタメ口に対しても何も言わないし…もっとこう、威厳とかそういうのは無いの?」
「無い。」
「即答で無いって言いやがったよこの人…。」
「あくまで先代だからな。それに、今は邪神だった時程強いというわけでもない。せいぜい悪魔将軍程度と言ったところか。」
「それ邪神のちょっと下ぐらいよね?十分今でも強いよね?」
「そうか?…まぁ、そうなるか。」
洞窟内を歩きながらそんな会話をしていると、外に出た。どうも入口の周辺は森林に囲まれているようだ。木々の間から見える優しい木漏れ日の光が周辺を照らしている。どうやら丁度昼頃らしい。
「で、ダンジョン作ろうって言ったのにいきなりピクニックってわけじゃあ無いんでしょ?何しに外に出たのよ。」
「物資…主に食料の確保だな。この周辺に村が6つある。そこから…」
「なるほど、そこから略奪するのね!」
「…それじゃ50点だな。」
「え~?じゃあどうするのよ?」
「説明するより見たほうが早いだろう。ほら、あそこが最初の村だ。ヘリアンフォラは隠れて見ていろ。」
「ハ~イ。あとヘリアで良いわ。長くて呼びにくいでしょ。」
「へリアがそれで良いならそうさせてもらおう。」
何をする気でいるんだか…と思いながらも、一応主人からの命令は絶対であるために、しぶしぶ隠れて様子を見ることにした。
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さて、ヘリアには隠れてもらい、村の前まで来た。村の前では兵士が見張りをしているようだ。鎧の模様から察するに北西方面に位置する『強欲連合』の兵士だろう。
『強欲連合』、元は貴族達がより豊かな暮らしを求めて移住してきた地域であったが、今では貴族階級の者達の欲を満たすために多くの奴隷が働かされている国となった。どれ程満たそうとしても飽き足らぬ欲を持つ貴族たちが政治の実権を握っているため、『強欲連合』と呼ばれている。
ともかく、これはこれで好都合だ。堂々と正面から行くための口実ができた。
「おい、そこの冒険者、止まれ!この村に入りたいなら通行料として銀貨3枚を支払うんだな!」
村に入るだけで銀貨3枚…呆れた。強欲な国とは聞いていたがここまでとは思ってなかった。
この世界における貨幣価値は国際的に統一されており、銅貨10枚で銀貨1枚、銀貨10枚で金貨1枚となっている。具体的な貨幣価値を示すなら、パン3つで銀貨1枚、防具一式に一般的な鉄製のブロードソード1本で銀貨5枚…
敢えて前世の知識に合わせるなら、凡そ銅貨は10円、銀貨は100円、金貨は1000円、といったところだろうか。
村に入るだけで300円支払えってどういう金銭感覚してるんだか…せめて宿で請求しろ。
まぁそんなことはどーでもいい!
今から自身の領地になる場所になぜ金を払って入る必要があるのか。
というわけでだ、この兵士達にはさっさと死んでもらおう。
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「ですから何度も申した通りそのような重い税はもう払えませんと…」
「フン、ならば家畜でも売りに出せば良いだろう。出し惜しみなどと小賢しい真似をしおって。この村の警備をしてやっているというのに何たる無礼か!」
「お爺様…。」
この村の村長である彼は苦悩していた。目の前の兵士長が税として請求している金額はとてもではないが払えるものではない。家畜を売りに出したところでその場しのぎ、ましてやこの小さな村から家畜が減るだけでもだいぶ痛手である。
しかし、目の前の兵士長が率いる兵士たちがこの村を警備してくれているのもまた事実。
盗賊の被害は今でもあるが、魔物に襲われないだけマシなものだ。
何より、これ以上愛しい孫娘である【スミレ】に心配をかけさせるわけにもいかない。
どうにか交渉して税を減らしてもらわなければ…そう考えた矢先
「…ふむ、まぁ今回に限り、見逃してやっても構わんぞ?」
「そ、それは本当ですか!?」
「あぁ、本当だとも。ただし、条件がある。」
「条件、とは…?」
「貴様の孫娘、スミレを俺の妻とするなら…考えてやらんでもないぞ?」
「…っ!」
「どうした?払えないというから仕方なく提案してやっているのだぞ?」
「そ、それは…わかっておりますが…しかし…」
「…お爺様、私は構いませ――」
それを言い終わるか言い終わらないか、そんなタイミングで使用人の慌てた―――というよりは怯えたような―――声が聞こえた。
「い、今は、村長は取込み中ですと――」
ドンッ!と乱暴にドアが蹴り開けられた。
そこに立っていたのは…
村長にとって、まさに『悪魔のような救世主』と呼ぶに相応しい人物であった。
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部屋の中に居たのは、おそらく兵士長であろうオッサン、村長っぽい爺さん、あと…紫の髪をしたお嬢さん…使用人がなんかぼやいてたし多分村長の孫娘か。
となると困ったな。さすがに年端もいかぬ少女にショッキングな光景を見せるのは俺の良心がちょっと痛む。元邪神のクセに良心があるのかって?むしろほんの少しの良心も無いと思ってんのかお前は。ボス前には回復スポットとかセーブポイントとか、そういうのが無いにしてもせめてショートカットぐらいはあるだろ?そういうことだ。
「だ、誰だ貴様!?おい!警備兵は!何をしているんだ!」
なんかオッサンが騒ぎだしたな。至極真っ当な反応だけど。一応答えてやるとしようかな。
「警備兵?それっぽい奴らは邪魔だったから全員切り伏せてきたが。」
「何だと!?そんな馬鹿な事があるか!」
予想通りの反応だな。うん。村長は驚いて声も出ないといったご様子。
娘さんは…あれ?なんか悦楽に満ちた表情してない?…気のせいだろう。多分。
「貴様、ただで済むと思うなよ!」
と、兵士長っぽいオッサンがブロードソードを抜き払った。
一応確認だけとっておこう。…主に娘さんが血を見て(いろんな意味で)大丈夫か。
「…此奴も切り伏せて問題ないな?」
と、聞いてみると。
「えぇ、問題ありません。」
この上ないってくらいの笑顔してる、そんなにこのオッサン嫌いだったのか…というか問題あるよな?…もういい、深く考えるのはやめておこう。許可は得たんだからそれでいい。
「舐めたことをほざきおって!貴様がその刀を抜くまで待ってやる気も失せたわ!」
「『その刀を抜くまで』…か。」
切りかかってくる…が、遅い。人としては腕が立つ方なんだろうがな。
シュッと剣が振り抜かれる音が鳴り響く。既に俺は奴の背後に立ち、振りぬいた刀を納めている。
「お前は、『その刀を抜くまで』と言ったが…『この刀が抜かれたとき』には、
とっくにお前は負けている。それが『抜刀術』だ。」
「…ばか…な…」
ブシャッ、と血が勢い良く噴き出し、頭部を失った肉体は力無く倒れる。
「さて、邪魔な者も消えたところで交渉に入りたいんだが…。」
村長は…すっかり青ざめた顔になっている。腰も抜けているのか立てないご様子。…というか、いきなり理解の範疇を超えた状況に晒されたうえに部屋を汚されたわけだし、この人がある意味一番の被害者だよな…。
急に申し訳なくなってきたが、今は目的のために態度は崩せない…あとで謝っておこう。
???「村突入から交渉まで一気に1話で終わらせるつもりが長引いてしまったんで、もっとテンポよくストーリーを進められるようになりたいねぇ…。」
ムラクモ「後書きのナレーションとしては割と再登場早かったなお前…。」
???「本編での再登場を早める事はできないものか…。」
ムラクモ「中の人っつーか作者に頼んでみれば?」
???「最早メタ発言のオンパレードだね。メタ空間だからって何しても良い訳じゃないと思うんだけどな!
次回、『第3話 交渉』!」
ムラクモ「0話の時点からあんだけ飛ばしてたんだし今さらじゃねーか?」