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15-死妖鬼(3/4)

 鍋の底が見え始めた頃、ミラカさんは自分から他の妖怪に話しかけに行きました。

 彼女の歓迎会だというのに、割合どの方も好き勝手に騒いでおります。一部では徳利を持ち出して出来上がってしまっているものもあるようです。


「おい、ろくろっ首! おめえの首につまづいちまったぞ! ちゃんとしまっとけ!」

「だめだよこの子、すっかり酔っぱらっちまって伸びてるよ」

「それじゃ蛇みたいにぐるぐるに巻いとけ!」

「ミナサン、ホットになってマスネー。あっちはメンドッチー感じがするので、静かなところから斬り込みデース」


「楽しんでマスカー?」

「わ。主役がこっちに来た」

「不思議な人。あたしどきどきしちゃう」

 ミラカさんが最初に訪ねたのは小僧の妖怪さんたちのところです。

 豆腐小僧に一つ目小僧、それに座敷童(ざしきわらし)亀麿(かめまろ)です。彼らはまだのんびりと鍋をつついているようです。

「こっちのお鍋は材料がスコシ違いマスネ?」

「豆腐と揚げを入れてるんだ。どっちも豆腐小僧さんが作ったんだよ」

「オー。エクセレント。小僧さん料理できるデスカー?」

「うん。ちょっとだけ……」

「豆腐小僧さんは豆腐の妖怪ネー? 豆腐でどうやって脅かすのカシラ?」

「脅かさないよ。“おあがり”ってするだけ」

「そうなんデスカ? よく分からないデース。お料理も関係ナッシン?」

「うん。お料理は趣味。ミラカさんも、おあがり」

「いただきマース。オヤ? こっちのお豆腐は昨日食べたのより、つるつるでやわらかいネー?」

「それはきっと木綿豆腐だったんだね。これは絹ごし豆腐」

「豆腐博士! 憧れマース。ワタクシ料理苦手ネ! チキン焼いたらコンボーになって、卵茹でたらバクダンになりマス! ……目玉焼きも真っ黒こげネ! ……チラッ」

「どうして僕の方を見たの?」

「でっかい目ん玉デース。でこっぱちも立派でナイスデザイン!」

「一つ目小僧さんのおめめは大きいからね」

「それだけ大きいと物がよく見えますカー?」

「ううん。目はあんまりよくないの。目がひとつだと、近いとか遠いとかよく分からなくって、いつもおでこをぶつけちゃうの。僕、おでこも大きいけど、これは生粋じゃなくて、ぶつけたからなの……」

「オウ、難儀シマスネ……」

「ミラカさんもそういうのある?」

「アリマース、ワタクシもキバがでっかいネー。よく口の中噛んじゃいマス」

「痛そう」

「セルフでブラッドサッキン。吸血デース」

「ミラカさんは人の血を吸うのが生業なの?」

「お仕事じゃないですけどネー。……チラッ」

「どうして僕のおでこを見るの」

 一つ目小僧はおでこを押さえました。

「アハハ。ジョーク。冗談デース。血吸わないデスヨー」

「びっくりした……」

「あはは。一つ目小僧が驚かされたらだめじゃない」

「亀ちゃんは良いよね。おどかしが生業じゃないから。悪い事しないでいいのは気楽なもんだよ」

「オー? 悪い事しない妖怪居るデスカ?」

「妖怪の生業もなにも悪い事をしてばかりじゃないよ。あたいは座敷童っていってね。お家に住み着いて、こっそりお手伝いをしてやるんだ」

「ぼくもお豆腐あげるだけなんだけど……」

「オウ! 一家に一台! ザシキワラシ! うちにも欲しい!」

「ぐえ。苦しいよ、ミラカさん」

「亀ちゃんなんだか嬉しそうだね……」


 ……。

「オバチャン、今のワタクシどうでしたかー?」

「ええんちゃう。遠くから見とったからよう分からんけど、なかなか解け込めてたと思うで」

「ヤッター。この調子で大人の妖怪とも仲良くなりマース! 次はどこにお邪魔しようカシラー」

「あれは? あっちはなんかずいぶん静かにやっとるで。元気注入したり」

「元気チューニュー!」


 続いてミラカさんが訪ねた座敷は、何やらしんと静まり返っております。妖怪たちは鍋を囲んで食事をしているようですが、火も灯されず、鍋から湯気は上がっておりません。

「オヤ? ここはなんだか涼しいネー?」

「あら、ミラカちゃん。いらっしゃい」

「ハーイ、お雪さーん。親睦を深めにキマシター。こっちはなんだか、しめやかデスネー? 元気ないデスカー?」

「そうなの。私たち、お鍋を用意してもらったのはいいけど、熱い食べ物ってどうしても駄目で……」

「見てやこれ、削り氷(けずりひ)みたいになっでるど」

 削り氷とはかき氷のことでございます。わたくしは宇治金時が好きですね。

「こら、雪坊(ゆきんぼ)。食べ物をつつきまわさないの。罰が当たりますよ」

「でも、凍っちまって食べられねえよ。何とかしねえと。食べずにいる方が悪いべ」


「悪い子はいねがー!」

 突然現れたのは(みの)をまとい、包丁と桶を持った鬼のような妖怪です。


「ワオ! びっくりしたネ! 本物のオニさんがキマシタ!」

「ミラカちゃん、この方はなまはげです。なまはげさんは鬼じゃないですよ」

 風貌からしてよく鬼と間違われるなまはげでございますが、彼らは元来、神様の使いなのでございます。昨今、鬼と混同されて扱われているようですが、その理由などははっきりしていないそうです。

「オニじゃナイ?! ソーリー! それは失礼しマシタ! マルハゲなのにふさふさネ!」

「そいだばおがだべ」

「ソイダバ……?」

「“そりゃあんまりだ”っで。なまはげさん秋田訛りが凄えがら」

「オウ、日本語にもいろいろあるんデスネ。ミラカ勉強が足りませんデシタ」

「この異国の子、さがしな」

「探す? ワタクシはここデース?」

「賢いって言ってるのよ。ミラカちゃん褒められてる」

「ワーイ。褒められマシタ! 嬉しいデス。マルハゲなんて言ってソーリーね! 名前が似てるからつい」

「わざとだったの……」

「おがだべ……」


「ところで、なまはげさんは何する神様デスカ?」

「おれはわりごどしたわらしや嫁ご、ごしゃぐだ」

「今のは何となくわかりマシタ! 悪い子にぐしゃぐしゃにオシオキするデスネ!」

「ぐしゃぐしゃにはしねえが……だいたいあってるべ。ミラカちゃんもいい子にしでないと、なまはげに攫われるべ」

「悪い子はいねがー!」

「オー、ミラカ悪い子デス。人の生き血をチューチュー吸いマス。オシオキしてクダサーイ」

「まんじどでんしたな。ごしゃがれたい言うわらしは見だごとねぁ。かっちゃまだぁ」

「かあちゃま? ワタクシまだ子供居ないデース」

「ちげえよ。かっちゃまは逆さまって意味だべ。怒られたいなんてあべこべ言う子供は見たことねえってさ」

「そうなんデスカー。ワタクシ、お父様とお母様が叱ってくれないデス。愛が足りないデース」

「ごしゃがねえ親もわりなあ」

「あー……妖怪じゃ珍しくないけど、ご両親は別に住まれてるのね。しつけをしない親は悪い親だって言ってるわ。雪女だって大抵は片親だしねえ……」

「ノー。お父様とお母様はカンオケに入ってマス」

「あら……。ごめんなさいね」

「呼んでも出てきてくれないデス。ミラカがお家で暴れてもぐっすり眠ったままネ」

「ぐず……。がわいそうだ」

「んどせぇ……。俺んどこの子になるか? おどになってやる」

「オー? なまはげさんがパパに? ……なんだかヤラシーデス」

「俺がじっぱりめんこめんこしでやる」

「……ガッデム。しっぽりはダメデース! お嫁にいけなくなってしまいマース! 子供を攫ってオシオキをするって、ソーイウ意味デスカ。とんだ神様も居たものデスネ!」

「ミラカちゃん、なんか勘違いしてない? ……あらら、行っちゃったわ」



「オバチャン、聞いてクダサーイ!」

「なんやミラカちゃん。そんなぷりぷりして」

「ぷりぷりどころじゃないデース! ぶりぶりデース!」

「そんな、うんこみたいな……下品やで。もっとお上品にせな」

「うんこもうんこ、クソヤロウが居ました! 子供攫ってイタズラする神様デース」

「ほんまか。そらあかんなあ。妖怪のやることやからおばちゃん口出しでけへんけど、ミラカちゃんは近寄らんときや」

「死妖鬼も若い娘攫いマスが、汚さず大事にシマース! 汚れた女はゲロマズですから。あいつは神の名を騙るファッキンプリーストと同じデース! これだからワタクシは十字架が嫌いなんデース!」

「ああ、そういう理由やったん?」

「近所の教会のハゲ神父が悪いヤツデシタ。教皇様に処罰されマシタネ! ザマーミロデス! 教皇様バンザイデース!」

「どっちなん……なんや分からん子やな。……あら、なまはげさん、こんにちは」

「おばちゃん、ども。異国の子が来んがった? 俺しくじったみてぇで、あちこどで……」

「ギャア! エロハゲが来た! ニゲロ!!」

「あ、待で!」

「あー……追いかけんとき。なんかわかった気がするわ。後で誤解は解いてあげるから」

「わりな。おばちゃんには、いっかだやがなってばかりでなぁ。今度、いぶりがっこ持ってくがら……」

 いぶりがっことは燻製にした大根を漬けたお漬物でございます。噛めば噛むほど癖になる、おつまみに最適な一品ということらしいです。

「おおきに。あれ、癖になって好きなんよ。……それにしてもミラカちゃんどこまで行ったんやろ。外でてってもうたな」


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