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「上位存在から直接的な祝福を受けるのは、昇華者の中でもごくごく稀だ――」
警視庁捜査4課のコガは、すっかり外見の変わった僕と、その右手に握られたキョウゴクの頭部を見て直ぐに事態を理解した。
ここは教会地下の処理路。教会側から侵入してきたコガ達警官隊と、帰還中だった僕は鉢合わせする形になった。
コガ達からは濃厚な臓腑の臭いが立ち込めている。恐らく、寺院に大して粛清を行ったのだろう。
「――君は本当に彼らに目を掛けられているんだね」
僕は黙ってキョウゴクの頭部を投げる。
大きな男の生首が宙を舞い、僅かな脳漿と大量の血が撒き散らされた。
男はそれを受け取り、軽く確認すると直ぐに背後の部下に渡す。
「これで全部終わりですね、概ね貴方たちの書いた筋書き通りになった」
「終わった? 何を言ってるんだ、キュレイターという組織の処理がまだ残っている」
僕はわざとらしくため息をついてみせる。
コガがそれに対して微かに緊張を見せたのを受け、僕は自分の推測に自信をもった。
「いいや、終わりです。キュレイターは貴方達なのですから」
コガは黙ってる。
曖昧な表情を浮かべ、心の内を隠そうと努めている。
「貴方達警察はあえてキョウゴクに毒の精製手法を仕込んだまま野に放った。この地区の過激な思想を持った守堂と人間至上主義者達と寺院、そして不敬な僕を同時に始末するために。ひょっとしてキョウゴクの思想に同調もしていましたか?」
「誤解だ、私達は……」
「まぁ、どうでもいいですよ」
僕は一方的に話を打ち切って歩き始める。
彼か言いたそうにしていたが、聞くつもりはない。これ以上不毛な会話に興味はない。
「天邪鬼が、さっさと焼けた地平線に行っちまえ」
警官の一人がわざと聞こえるように毒づくのが聞こえた。だけど僕は気にしなかった。
処理路の闇へと歩き出す。死臭と闇と罪がどす黒くこびりついた暗黒の中へと。
「大丈夫だよ」
気が付くと、僕はそんな言葉をつぶやいていた
何が大丈夫なのか、自分でも理解できない。 多くの罪が影となって僕にへばり付いているのを感じる。僕はそれを引き剥がすことができるのだろうか?
そもそも、それが剥がれることを望んでいるのだろうか。
振り返って見る。
罪なんて物は見えず、ただ困惑する警察官が遠くに見えるだけだ。
「大丈夫だよ」
僕は再び前を向くと歩き出した。
戸惑いはない。
縋る心や何かを期待する気持ちも無い。
でも何かを祈る心だけは、僕の脳の奥底で煌々と燃えるのを感じていた。




