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Ascension  作者: 黒部雅美
11/17

11?

 「拿禰」地区守堂本部3階小会議室――。

 僕は入るなり、北西に設置されたスクリーンに最も近い席を取る。

 オギワラが僕の対面に座った。僕を駅に迎えに来た時とは違い、守人の礼服にしっかりと身を包んでいる。

 部屋には他に守堂長の「ズシ」という名の男と、テーブル中央のプロジェクターを弄る色白細身の若者が一人。

 たった四人、少数会議にしたって人数を絞り過ぎだ。大方これからろくでもない報告を聞かされるのだろうと、僕は内心辟易していた。

「始めろ」

 守堂長、ズシがそう指示を飛ばすと、プロジェクターはある区画の衛星映像をスクリーンに投影し始めた。細身の男がスクリーンの横に立ち、一つ咳払いをして説明を始める。

「これは、今から三時間前の『村山倉庫、拿禰地区南営業所』、通称『南倉庫街』の映像です――」

 僕は椅子から身を乗り出して、その映像に注視する。

「――この地区は十年前より上位存在『リサーナル』により棲家として選ばれたため、禁足地とされてきました」

 画像の一部、とある大通りが拡大されていく。そこには赤銅色の太い植物の根のような物が地表面を覆い、十二本足の巨大な怪虫が歩き回っていた。

 映像が別の地点へパンされる。

「これが今回問題となっている倉庫なのですが……」

 とある倉庫が大きく映し出される。屋根にはコケのような何かがびっしりと生え、ツタのような物が外壁の大半を覆い、窓や出入り口などを多い尽くしてる。

「周辺部が少し見たい、北東へ10mほど映像をずらしてくれませんか?」

 僕がそう頼むと、要望通りに映像が動く。

 朽ち果てた別の倉庫、天井が崩れて内部が見える。ベッドや棚、保存ケースのような物が見える。まるで店だ。

「随分と生活感がありますね、本当に倉庫街なのですか?」

「完全な倉庫街として使われてたのは『滅び』以前の話だ。それ以降は空き倉庫ばかりになって浮浪者の溜まり場になっていた」

 オギワラがそう説明してくれる。

「その浮浪者たちは今何処に? 禁足地化するにあたって追い払ったのですか?」

「いいや……上位存在リサーナル様が浮浪者をどう思って棲家として選んだか不明だったため、敢えて彼らは放置していた。が、その後ここでも災厄が発生して全員死んだ」

 映像の一部が拡大される。ベッドの上に倒れる白骨死体がスクリーンに大きく映し出された。

「大昔は無人エリア、かつては貧民住居、今は再び無人エリアですか」

 僕の言葉にオギワラは薄ら笑いを浮かべる。

「まさに『垣に残るはただ蔓』って具合だな」

 無、一度有を経て、そして無へ。

 クドウキョウコの話が僕の脳裏に浮かび上がった。

「質問は以上です、説明を再開してください」

「はい――」

 画像が再び先ほどの苔むした倉庫に戻る。今度はこれまでの映像と違い真上からの見下ろしではない。

「――これは定点カメラの映像です。色調を切り替えますね」

 映像がモノクロの物に挿し変わる。倉庫の中心より白い光が漏れているのがわかる。

「なんだこれは……」

 オギワラが困惑の声を上げる。

 映像がカラーに戻る、先ほどまで見えていた光の漏れは確認できない。

「閾値を変えます、青の感度を引き上げていきます」

 映像の様子が変わる、画面全体がじわじわと青みを帯びていく。

「他二色の感度を下げます」

 青い光が、倉庫の中心から漏れているような映像。先ほど見たモノクロの映像とそっくりになった。

「これは……チェレンコフ放射ですか」

 僕の発言に細身の男はニコリと微笑んで応える。

「えぇ、我々もその可能性が高いと考えています。しかしかなり弱い」

 チェレンコフ放射が観測されている、それはつまり「上位存在」に纏わる何かの発生を意味する。

「肉眼で観測できないレベルの微弱な放射……ですか。ちょっと違和感がありますね」

「それについてはまた後で説明させていただきます。次にこちらを――」

 再び映像が切り替わる。今度は別の大通りが映っている。これまでの映像と違い、苔むした建造物や怪虫、金属質な植物の根などの無い、代わりに道路の片側には堅牢な壁が遥か彼方まで延びている。

「――ここは『南倉庫街』と隣の一般居住区の境界、3時間前の映像です。映像向って左側が倉庫街の壁、右側が一般住区画となっています」

 突然、映像に異常な物が映りこんだ。

 黒塗りの大型移動機が現れ、凄まじい速度で壁に突っ込む。移動機の全面には破城鎚のような物が取り付けられ、それが禁足地の壁に穴を穿った。

 移動機は煙を上げている。側面のドアが開く、漆黒のマッスルスーツに身を包んだ数名の人間が降りてくる。環境マスクも装備しているため素顔が見えない。

 マスクの表面には「毒」の文字が浮かんでいる。

「なんですかこれは」

 今度は僕が困惑の声を上げた。

 まるで悪趣味なスナッフスケッチだ、とても現実の光景とは思えない。

 映像の中では、マッスルスーツの男達の内数人が街頭カメラ、すなわち僕らの視点を見つけ、よって来る。

 残りの男達が車の中から何かを引きずりだす。

 人?

 裸の……人間だ。

 青あざだらけの肌、生殖器から男とわかる。髪をつかまれ顔を下に向けられているため、表情は見え無い。

 裸の男が街頭カメラの下にまで連れてこられる。顔が上げられる。

 こいつ……

「僕知ってます、たしかカタヤマとか名乗ってた」

「そう、この男は人間至上主義者のカタヤマ。ガキ共を率いて随分とヤンチャをしていた若者だね」

 ズシが僕の言葉に繋げてそう言った。

 数日前、僕に得意げにカクテルの薀蓄を語って見せた男。それが今、巨大なスクリーンに映っている。鬱血した目、切れて血の吹き出た額、欠けた犬歯、そして助けを求めるような視線。

 男達はたっぷりとカタヤマの姿をカメラに見せ付けると、再び彼を引きずり、続々と壁に空けた穴から禁足地へと入っていく。

 画面から全ての黒服が消えたところで、映像が止まる。

「……彼らは禁足地内のカメラには映っていません。我々が追えてる足取りはここまでです」

 映像が巻き戻される。

 カタヤマの顔の場面に戻り、ズームされる。そして今度はコマ送りで時間が流れ始める。

 血を口から流しながら、何かを言っている。

「恐らく彼はこう言っています『キョウゴクはここに』と」

 映像が止まる。

 再び切り替わり、先ほどの苔むした倉庫に切り替わる。

 更に切り替わる、苔が消え、コンクリートの地肌や分厚い工業用ガラス窓が見える真新し倉庫。

「こちらは先ほどの、チェレンコフ放射らしき物が確認された倉庫の、完成直後の画像です。今から半世紀程前の資料映像です」

 画像の一部が拡大される。窓から倉庫の中身が微かに見える。

 倍率が高くなっていく。

「この倉庫はかつては村山株式会社のアルコール飲料の出荷前保管所として用いられていたようです」

 拡大された画像にアンチエイリアスがかけられて行く。大量の酒瓶が積まれているのが見て取れた。ラベルの一つが拡大され、彩度があがる。

「『夢と記憶、過去への案内人、村山ビール』素敵なキャッチコピーだな」

 オギワラがラベルの文字を読み上げながら、何かを薄い紙切れを取り出し僕へと放った。

 僕は手に取り眺める、酷く劣化しているが、よく見ると画面に映っているアルコール品に貼られている物とまったく同じ物だ。

「お前がカタヤマからもらった酒に貼られていたラベルだ。瓶の中身はまだ分析中だがな」

 僕はそれをさっと眺めた後、視線をズシに向けた。

「これ、罠ですよね? 話が出来すぎてる」

 僕に渡された酒「村山ビール」、その工場に拉致られたらしきカタヤマ、キョウゴクはここにいる、そして微弱なチェレンコフ放射を出す倉庫。

「あぁ、そうだろう。カタヤマがあのザマになってる理由だけは謎だが」

「で、倉庫を未だ攻めれない理由は?」

 守堂の猟犬を使えば一瞬でカタがつく。マッスルスーツを着込んだ7~8人程度の暴漢なんて一時間足らずで制圧できるだろう。

「チェレンコフ放射が出てる以上、上位存在の活動の可能性もある。我々は上位存在の活動には無干渉の法を自らに強いている」

 僕は思わず鼻で嗤う。

「こんな微弱な放射、人工的な物に決まってるじゃないですか。何を臆してるんですか?」

 というか、昇華者である僕をさんざっぱらアゴで使っておいて何が「無干渉」の法だ。

 僕の剣呑な言葉を聞いて、横でオギワラが楽しそうに笑ってる。

「我々『守堂』は、上位存在の活動の可能性があれば静観を決める事にしている。それが如何に低い可能性であれな」

 我々の早まった行動で世界を燃やすわけにはいかないのだよ、ズシはもっともらしい口調でそう付け加える。

「それで、僕ですか」

 僕は部外者であり、そして不死だ。

 禁足地に仕掛けられた罠に送り込むには最適の人材というわけか。

「その通り。この件は全て無かった事にしたい、だから可能な限り少数のメンバーでこの倉庫を押さえたいんだ。理想は君とインストラクターが一名」

「で、そのインストラクターってのは俺だ」

 オギワラはそう言ってゆらゆらと手を上げる。

 僕はため息を吐き出し、背もたれに力なく寄りかかる。

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