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第76話 嵐の前の静けさ

「無事なの!? ねぇ、伯爵! 返答してよ!」

 僕は通信機である小さなボタンに必死に呼びかけ、猫の紳士からの返答を待つ。

 荷台の弟達も、ただごとではないと固唾を飲み沈黙した。

 しばらくしてようやく、小さなボタンから猫の紳士の声がする。


<――大丈夫、こちらは無事だ――>

 猫の紳士の返答で、僕らは安堵のため息をつく。

 小さなボタンの向こうで、猫の紳士はとても冷静な声で続けた。


<――黒き者と安全な距離を確保した。現在位置は森のほぼ中央ってところだ――>


「じゃあ今のところ、問題は無いんだね」


<――ああ、問題ない。これから黒き者の動向に注意しつつ、追跡を行う――>


「了解。動きがあれば教えてね」


<――承知した――>

 猫の紳士との通信を終え、僕はふうっと大きく息をつく。


「ふむ。順調な滑り出しだな」

 やり取りを見ていた博士が、後ろの荷台から言った。

 確かに黒き者とどこで遭遇するか分からずにいるよりは、位置が掴めている方が遥かにやりやすい。


「このまま順調に行くと良いね!」 

 弟は明るく無邪気に言った。


「よし、じゃあサクサク修理していこうか!」

 そう言って僕は、先ほどから白煙を上げている1基目の幸福バランサーへと台車を引き駆け出した。

 遠くからは煙突のように見えた幸福バランサーは、よく見ると上部は細く、まるで巨大な一升瓶のような形をしていた。

 ところどころゴツゴツとしていたり、途中でくびれていたりしていて、どこか懐かしさを感じる馴染みのある形なのだが、それが何なのかは思い出せなかった。

 外壁には遠くからでも認識出来るほど、大きな爪痕が残されており、近くで見るとその大きさはより一層迫力が増して、果たして僕たちで黒き者をどうにか出来るのかと恐怖で震え上がらせるほどだった。

 割れた外壁の隙間からちらりと覗く大型のタンクのようなものから出ている数本の金属性のパイプのようなものが、外側の壁を伝って屋根に乗っている機械に繋がっていたが、その中の一本がぐにゃりと曲がって折れていた。

 白煙はそのひしゃげて折れたパイプから、しきりにもくもくと漏れ出していた。

 素人目から見ても、修理箇所は明らかだった。


「派手にやられたなぁ。ちょっと中の被害状況を確認してくるよ」

 そう言ってぴょんと荷台から飛び降りた博士は、工具ケースを片手に幸福バランサーのハッチを開き内部へと入っていった。

 助手の猫はいそいそと荷台を降り、修理道具のようなものを運び始めたので、僕と弟もそれを手伝った。

 しばらくして建物内部から、博士の声が聞こえる。


「中は問題なさそうだ。外側のパイプの交換だけで済みそうだよ」

 博士の声を聞いて、助手の猫は丸眼鏡をくいっとさせた。


「わかりましたー! では博士、一旦電源を落として頂いてよろしいですかー?」

 助手の猫がそう言うと、折れたパイプから漏れていた白煙がすぐに止まった。


「あの、すみません。あのパイプの箇所に梯子を立てかけて貰って宜しいですか?」


「はーい!」

 助手の猫にお願いされた弟は、先ほど運び出した荷物の中にあった伸び縮みする梯子を運び外壁に立てかける。

 すると崩れかけた外壁の一部が、粉のようになってパラパラと落ちてくる。


「ちょっと不安だから、僕が下で支えてるよ」

 弟がにこやかにそう言うと、助手の猫はぺこりとお辞儀をした。

 助手の猫はそのままスパナのような物を片手に、器用に梯子をスルスルと登っていくと、剥き出しの折れたパイプをキュルキュルと外し始める。

 僕は手持ち無沙汰でどうすればいいかわからなかったので、周囲を注意深く見回していた。

 助手の猫は時間を掛けることなく、パイプの交換が終わらせる。


「博士ー! こちらは交換が済んだので片付けてしまいますね」

 割れた外壁から内部にいる博士に向かって、助手の猫が声を上げる。


「ああ、わかった!」

 建物の中で博士の返事が響く。

 梯子から下りた助手の猫は、修理道具や荷物を再び荷台に積み始めたので僕と弟もそそくさと手伝い始めた。

 しばらくして博士がハッチからひょっこり顔を出し、僕を手招きする。


「キミの出番だ――幸福のチケットを分けて貰うよ」

 ようやく声が掛かった僕は、博士の手招きに促されるまま幸福バランサーのハッチへと向かう。

 幸福バランサーの内部も気になっていたけど、僕は幸福のチケットの用途にもとても興味があった。

 そして僕は少しドキドキしながら、幸福バランサーの内部へと入ったのだった。

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