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第27話 その振動と攻防戦

「貴方の年齢はお幾つでしょうか?」

「今年25になります」

「随分とお若いのですね」

「はい、運悪く事故に遭ってしまって……」

「では、転生をご希望なのですか?」

「えっと、出来れば……現世に戻りたいですね」

「転生希望なのですね」

「いや、あの……」


 僕はまだ死んでない。転生ではなく僕は生還したい。

 思わずそれを口に出しそうになったが、『とにかく入国さえすれば』という猫の紳士の言葉を思い出し、グッと飲み込んだ。ここでややこしくなるのはごめんだ。


「ではまず、死者の国へ入国する際の、注意事項をいくつかご説明させて頂きます」


 そう言うと審査官はひらりと一枚、説明用紙を僕の目の前に差し出した。




     入国審査における事前説明

           (輪廻転生希望者用)


 ◆序文

   死後世界における処遇は、生前の業により、

   決定される。尚、処遇ごとの待遇については

   下記のとおり定める。


           記


  其の一、神への道を判断された者は、

      天界へ立ち入ることを許可する


  其の二、輪廻の道を判断された者は、

      死者の国への永住権を与える


  其の三、その全てにあてはまらぬ者は、

      地獄にてその罪を悔い罰を受けること


 ◆神への道

    別紙参照


 ◆地獄行き

    別紙参照


 ◆輪廻の道

 一、死者の国への入国を許可された者は、

   その転生権利を行使する権利を得る


 一、死者の国にて居住する者は、

   その範疇内で自由の権利を保障する


 一、死者の国にて著しく調和を乱す者は、

   その永住権を永久失効し地獄行きとする


 一、不幸の記憶は、その所有権を放棄し、

   速やかに回収施術を受けること


 一、幸福の記憶は、その希望を来世への

   糧とし、奉仕事業に尽力すること


 一、奉仕にて徳を積んだ転生希望者は、

   事業所または分署へ届け出を提出すること


 一、転生希望が受理され、命を授かりし者は、

   その一切の記憶を放棄し、全回収施術を

   受けた上で、新たな生を歩むこと


 ◆例外事項:

   一、死者の国への多大な貢献により評価

     されし者は、その功績を称え爵位と

     占有地を国から授与する


   一、死者の国での政事や統括などの職務を

     希望する者は、貢献と評価により、

     その職務に就くことを認める


  以上のことを理解した上で、死者の国へ入国を

  希望する者は、その血判をもって承認すること


 死者ノ国 入国管理局

 第4審査室

 室長代理 バステト

 管理番号:キ-209-ハ-8922




 審査官の猫は淡々と説明文を読み上げていた。

 止むことのない死者の来訪で、何度も何人もの死者に読み聞かせてきたのだろうか。

 その文章はとうに見飽きてうんざりしてるようで、審査官の口調はおもいのほか早口で、僕の頭では全く理解が追いつかなかった。

 僕はその説明の内容よりも、時折テーブルをカタカタと音を立てるほどの、審査官の貧乏ゆすりがどうにも気になってしまい、僕の意識はまるでその振動で(ふるい)にかけられる砂のように散漫になっていた。



「のちほど入国前検査と、記憶の回収施術を行うことになりますので、こちらの資料にも目を通して頂き、同じように血判をお願い致します」

 カタカタカタ……


「貴方の処遇は、これからゲートを通過していただき、認証コードをスキャンします。現世でのパーソナルデータとの照合が完了次第、正式に決定されます」

 カタカタカタ……



 審査官の念仏のような説明で、僕はウトウトと(ひじ)をついて居眠りをしてしまったが、その審査官の貧乏ゆすりの振動によって僕の肘がじわじわと移動し、やがてガクンとなって目を覚ました。

 審査官はその様子を見て、一度だけ咳ばらいをしたが、再び説明を始めた。


「また、現段階ではまだ仮審査になりますが、結果の内容次第では、いくらか徳を積まないと、転生希望を出せない場合があります。ご了承ください」

 カタカタカタ……


「またそうなった場合、初めの期間だけは、その適正を見るため、当方が指定した労働行為を行うことになります」

 カタカタカタ……



 集中力が切れて少し退屈になってきた僕は、その心理を悟られないよう審査官の貧乏ゆすりに合わせ、心の中で音楽を再生してビートを刻んでは、その振動するリズムに同調したりもした。


「また、こっちの資料については、個人情報の取り扱いについてと、回収した貴方の記憶の取り扱いについての詳細が記載されております」

 カタカタカタ……


「回収された記憶に関しましては、その権利を一切を再生処理事業へ帰属されます。ご了承ください」

 カタカタカタ……



 仕事を早く片づけたいのか、ほとんど審査官の猫の一方的な説明ばかりで、僕はただただうんうんと頷き、言われるままにぽんぽんと血判を押すのだった。


 その説明や手続きは既に1時間ほど経っただろうか、まるで現世の役所で行うそれとあまり大差なく、面倒くさい事務処理の数々で僕は少しばかりグッタリしていた。

 僕は審査官の止まらない説明で目を回しつつ、ちらりと猫の紳士の方に目をやった。

 猫の紳士は腕を組んで深刻な顔で何かを深く考え込んでいるように見えたが、よく見るとうつらうつらと居眠りをしていたのだった。


「……(あんにゃろうめ)」


 僕はその説明で度々出てくる『回収施術』という、聞きなれない単語だけはとても耳に残っていた。

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