第12話 祖母の死
祖母が亡くなったのは年明けすぐで、僕が大学受験でヒリヒリしてる頃だった。
死因は急性の脳卒中だった。
村の医者が言うには、少し前から脳血管性認知症の傾向があり、年齢的にいつ倒れてもおかしくない状況だったそうだ。
葬儀の時に近所のおばさんから聞いた話なのだが、秋頃にはどうやらその認知症の初期症状が出ていたようだ。
飼っていたペルシャ猫と祖母が会話している光景をおばさんは何度か見かけていたという。それはまるで人間と話してるようだったそうだ。
その夏に家族で祖母の家へ訪れたときは、片時もそのような様子を感じさせなかったのに、あまりにも唐突な別れに、僕は全く実感出来ずにいた。
夏以降も父は祖母に数回電話で連絡を取っていたようだが、息子である父でも祖母のその小さな変化に気づくことはできなかった。
だから、訃報を受け取った時の父は、とてもひどく落胆していた。
祖母は亡くなる数日前から、飼っているペルシャ猫が居なくなったと近所に聞いて回ってたようだった。
通報を受けた警察の話だと、その夜は一面を真っ白に覆うほどの雪が降っていた。
祖母は姿を消したペルシャ猫を、ひとりで裏山や畑の周りなどを探し回っていたらしく、遺体の周辺には行ったり来たりしただろう無数の足跡が残されていたらしい。
通報をしてくれた人は祖母の畑仲間で、積雪対策のために畑を見回っていたところで偶然発見したようだ。
降りしきる雪に埋もれた畑ばかりの舗装もされてないあぜ道に、横たわった冷たい祖母の遺体にはすでに数センチの雪が積もっていたそうだ。
祖母の葬儀は近所の畑仲間や猟師の知り合いなど、十数人ほどの弔問客のみで、とても慎ましいものだった。
僕は受験のことで頭が一杯だったが、線香の香りだけが印象的だった。
結局ペルシャ猫は、それ以来まったく姿を見せなかった。
祖母と数十年を共に過ごしていたからかなり長寿だったはずだ。どこかで孤独に息を引き取っていても不思議ではないだろう。
祖母の遺言には、祖父から受け継いだ裏山や畑の土地などの取り扱いについて記載されていた。その裏山と土地は既に高値で引き取ってくれる実業家と話がついていたようだ。
その頃ちょうど父は、まだ試験も受けていない僕の私立大学への高額な進学費用と、3学年差で進学時期が被っている弟と妹の進学費用とで頭を悩ませていた。
そして皮肉にも祖母の遺産を相続したことで、お金の問題はまるで曇りなく解決されたのだった。
父の例の学歴コンプレックスの矛先は受験当日まで僕に牙を向いていた。
少しでも母方の親類との関係をいい方向に……、せめて長男には学歴に悩む道を歩ませたくない……、そんな父のプレッシャーを感じながら、僕はなんとか大学に合格することができた。
同時に弟は高校へ、妹は中学へと無事進学を果たしていた。
結果的に僕は祖母が残した遺産の大半で有名私立大学に進学することができたのだ。
まるでパズルの最後のピースがはまるかのように、すべてが計算されたかのようだった。




