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馬鹿桜、〇〇と再び出会う





「桜ちゃん、何だか今日は全然元気ないねぇ……」

「そんなことありません! とっても元気でーす!」

 馬鹿は元気だけが取り柄なのに元気がなくなったら本当にただの馬鹿だと、すぐさま元気を取り戻した。

 店長は突然元気にモップをブンブン振り回し始めた桜を見つめ、ホッと安堵した。


「桜ちゃんが暗いと僕も心配になっちゃうよ。何かあったらちゃんと僕に相談して」

「店長……」

 桜を思ってくれる店長の優しい言葉に思わず涙ぐみそうになったが、元気だけが取り柄の馬鹿なのでそのまま笑顔で頷いた。

 店長はそんな桜を優しく見つめた。


「店もようやく静かになったことだし………………すっかり落ち着いちゃったねぇ」

 夕刻をとっくに過ぎたこの時間、客の姿も少なくガランとした店内は、ついこの間まで至る所に点在した中学生の姿も見当たらない。

 すっかり馬鹿同士だと思い込んでいた子供達がいなくなるのも寂しいものだと、馬鹿なりに感傷に浸ってみた。


「そういえば………………あっちもようやく落ち着いたみたいだねぇ」

 店長が入口ドアを見つめたので、桜も視線を向けた。


「ようやく諦めたのかな…………まさか学校の先生だったとはねぇ。人は見かけによらないよ」

 今だストーカー疑惑の晴れない店長は、ようやく尚哉が店の前にいなくなって安心したようだ。


「桜ちゃんも災難だったね。でも大丈夫、いざとなったら僕がいつでも駆けつけるから」

「店長……ありがとうございます」

 何かあったらいつでも桜を助けに行くと意気込む店長に、桜も笑顔を浮かべた。





(店長――! いきなりピンチで―――――す!)


 無人駅からの帰り道、自宅に向かって歩き始めてすぐ桜の心臓はバクバクと激しく暴れ始めた。

 すでに真っ暗な闇に包まれた田舎の一本道、当然桜以外人っ子一人存在しやしない。

 絶対そのはずだ、絶対気のせいに決まってる。



(店長――! やっぱり気のせいじゃありませ―――――ん!)


 渋々気のせいではないことを嫌々認めた桜は、背後からカツカツと近づく足音を耳ジャンボでしっかりと受け止めた。

 馬鹿をつけ回すとは一体どんな馬鹿なのか、馬鹿の後つけ回してどんなメリットがあるのか知りやしないが、馬鹿桜は確実に後をつけ狙われているらしい。



(店長――! 馬鹿はまだ死にたくありましぇ―――――ん!)


 とりあえず馬鹿をつけ狙う背後の馬鹿が本当に馬鹿桜に狙いを定めているのか見極めるため、元々空っぽの知恵を無理やり絞り出し、鎌をかけてみることにする。


 桜は急ぎ足をあえてスピードダウンしてみた。


  

 トコトコトコトコトコ   トコ   トコ   トコ   トコ   トコ    



 カツカツカツカツカツ   カツ   カツ   カツ   カツ   カツ   



 桜のトコトコ足音がスピードダウンした途端、背後のカツカツ足音も同じくスピードダウンして、桜は血相変え今度は超スピードアップしてみた。



 トコ   トコ   トコ   トコトコトコトコトコトコトコトコトコトコ



 カツ   カツ   カツ   カツカツカツカツカツカツカツカツカツカツ


 

(店長――! 狙いは馬鹿桜でした―――――!)


 超スピードアップした桜のトコトコ足音に瞬時に応える背後のカツカツ足音から馬鹿桜が狙いだと確信した桜は、とりあえず最後の悪あがきとばかりに突然ピタリと立ち止まってみた。



 ピタリ



 ピタリ



(店長――! やっぱり馬鹿桜でした―――――!)


 今度こそ今度こそ本当に確信に至った馬鹿桜はピタリと止まったついでに、ヨーイドンとスタートダッシュを切った。



(店長――! いつでも駆けつけるって言ったじゃないですか―――――!)


 ついさっき交し合ったばかりの桜との約束をすっかり忘れてしまったらしい店長を猛烈恨みながら、馬鹿桜は猛烈スピードで一本道を突っ走った――――――――!



「桜ちゃん早く! こっちだ」

「ハアハアハアハア…………アハ?」

 突然呼ばれた桜がピタリと立ち止まると、前方にある外灯前で必死に手招きする人影を発見した。


「……ハッ! 店長!」

 よくよく目を凝らし確認してみると、やはりそこには店長の姿があった。


「店長――! やっぱり来てくれたんですね―――――!」

 さっきまで店長を散々連呼した心の叫びが無事ちゃんと届いたらしい、猛烈素早く店長の傍に駆け寄った。


「大丈夫だった? 桜ちゃん」

「はいっ! 店長」

 店長の心配に桜はビシッと敬礼で答える。


「よかった………心配したんだよ? なかなか帰ってこないから」

「店長……わざわざここまで? 桜、猛烈嬉しいっす」

 わざわざ隣町のコンビニからこんな田舎の一本道まで桜を心配してやって来てくれたらしい。

 桜はおうおうと猛烈に感動し、しみじみと店長を見つめた。


「……ん? 店長、なんだかいきなり黒いっすね」

 ついさっきコンビニで見かけた店長はそんなに黒くはなかったのに、なんだか今はとっても黒い。


「……あっ、そっか! 黒づくめなんすね」

 とってもオシャレな店長はわざわざ田舎の一本道までやって来るためにコンビニ制服を脱ぎ捨て、黒づくめでビシっと決め込んだらしい。


「……ん? 店長、季節間違えてるっすよ」

 今は確かに夏なのに、店長はついうっかり忘れてしまったらしい。

 季節外れにも程がある真っ黒黒のトレンチコート着用だ。


「……あっ! 店長、ついやっちまいましたね? ズボン穿き忘れっす」

 ついついうっかりものの店長は田舎の一本道に急ぐあまり中身も忘れてしまったらしい。

 トレンチコートの下は素足という冗談みたいな店長に、桜も思わずクスリと笑った。


「……ん? 店長、まさかうっかり上もっすか?…………クスリ」

 とってもうっかり屋さんの店長は田舎の一本道へ急ぎ過ぎたあまり、とにかく焦っていたのだろう。

 下もなければ上もない、いつのまにか全開していたトレンチコートの中身は見事にすっぽんぽんだ。


「…………店長、さすがにそれはマズイっす」

 たった今ようやく非常にまずいことに気付いた馬鹿過ぎる馬鹿桜は、目の前の素っ裸店長を呆然自失で見つめた。


「……て、店長」


「久しぶりだね、桜ちゃん」

「へ」


「僕はちゃんと覚えてたよ…………9年振りだ」

「ん」


「あの時の君はまだ高校生だったね」

「た」


「僕はここでずっと君を待ってたんだよ」

「い」


「やっとこの一本道で再会できたんだね」

「へんたい」


 無意識に「へんたい」と呟いた桜は、無意識に「へんたい」とは何かを一生懸命考え始めた。


 へんたい

 ヘンタイ

 HENTAI


 へんたい 

 ヘンタイ

 HENTAI


 へんたい

 ヘンタイ

 HENTAI

 変態


 へんたい

 ヘンタ………………ん?


 へんたい

 ヘンタイ

 HENTAI

 

 へんたい

 ヘンタイ

 HENTAI

 変態………………ん?


 変態?


 変態

 変態

 変態


 変態

 変態

 変た………………ハッ!



 変  態



( OH! MY GOD! あの時の変た―――――い!!)


 実に9年振り、高校時代に遭遇したあの時の変態露出全開男がたった今、確かに桜の目の前に佇んでいた。


「ハ……ハハハ」

「桜ちゃん」


「ヒ、ヒ―――」

「会いたかった」


「フ、フフフ」

「どこ行くの」


「へ、へへへ」

「もっとこっちに来て」


「ホ、ホホホ」

「さあ、照れてないで。僕の胸に飛び込んでおいで」



「ハ  ヒ  フ  へ  ホ――――――――!!」


(助  け  て――――――――!!)


 馬鹿桜は支離滅裂になるあまり意味不明なハ行雄叫びで思いっきり助けを叫んだ。



「桜!」

 桜がハ行雄叫びで救いを求めた直後、突然背後から名を叫んだ男がこっちに突っ込んできた。


 その瞬間、変態が夜空を舞った。



 


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