第四章
先輩が死体で発見された翌日、クラスは騒然としていた。
そんな中、姫ヶ崎だけは全く興味を示さずに話の輪に加わらないでいた。もっとも、話せる相手がいないだけなのかもしれないが。
と、そんな俺の心中を察してか姫ヶ崎は俺をにらんできた。俺はあわてて取り繕うように笑顔を向けると、より一層しわを深くしてにらんできた。
俺がどう返すか悩んでいると、姫ヶ崎はスマホを取出してどこかにメールを送り始めた。といっても、あいつのアドレス帳に載っているのは俺と涼風さんと姫ヶ崎の家ぐらいしかないからおのずと相手は知れてくるのだが。
しばらくすると、予想通り涼風さんからメールが送られてきた。内容も大方予想通りで、俺に対する文句と愚痴で5行ほど埋め尽くされており、それからやっと本題に入った。
『姫牙があなたに話があるそうだから可及的速やかに彼女のところへ向かいなさい。』
たったそれだけの要件を伝えるのにいちいち人を挟む必要があるのかと愚痴ってやりたいのはやまやまだが、ここで言い争っても再び涼風さんに文句を言われるだけなのでぐっと飲み込む。
おとなしく言われた通りに姫ヶ崎の席に行くと非常に不機嫌そうな顔で、
「_遅い。」
「悪い悪い、遠くからじゃ何言ってんのかよくわかんなかったからさ。」
「そんなことは聞いてない。それよりも、あんたは自分の先輩が死んでもなんとも思ったりしないの?」
「もちろん悲しいさ。でも、いまはそんなことよりも重要なことがある。今回の依頼はどうするつもりなんだ?クライアントが死んでしまった以上この依頼からは手を引くのが妥当だと思うが。」
俺はあえて冷たく突き放すような口調で言ったのにはとうぜんわけがある。
姫ヶ崎はさっきの様子からわかるようにこのクラスから浮いている。そんな中でこの一件に関わっていることが知れると、今度はクラスから浮く程度では済まないだろう。下手をすれば早まった人たちから犯罪者のそしりを受けることとなる。そうなればさすがに小畠や俺でも擁護できなくなるうえに彼女の両親までに迷惑をかけることとなる。だから今のうちに手をひておけばそのうち警察が適当に理由をつけて世間を納得させてくれる。そしてほとぼりが冷めたころに再び調査を再開すればいい。
「だけど、それじゃああの先輩の死因はいつまでもわからないままでしょ?それじゃあ、彼の魂も納得しないと思うし。」
「だとしても、そもそもお前は警察になんて言って信じてもらうつもりなんだ?まさか俺たちみたいな高校生の言い分が信用してもらえるとでも?もしお前の家のつてで捜査関係者に接触できても信用してもらうことは難しいと思うぞ。」
「だとしても、調査をして死因をはっきりさせるの輪大事だと思うし、もしもそれが彼のいう妖怪の仕業だったら__」
「妖怪なんているわけがないだろう?もしも本当にそんなものがいて人が殺せるんだったら今頃地球の人口はかなり減っているだろうよ。」
怒鳴りたくなるのを必死に抑えて、姫ヶ崎に反論をする。するとさらに怒鳴ってくると思いきや、一瞬悲しそうな顔をして、直後外向けのふてぶてしい表情になると、
「あっそう。じゃあもういいわ。これからはこちらのやり方でやらせてもらうわ。雷智は指をくわえてみていることね!」
そう言い捨てると足音も荒く教室から出て行った。おそらく涼風のところにでも泣きつくのだろう。
それを無言で見送っていると、後ろから小畠が少し悲しそうな目でそれを見送っていた。
その後、担任がやってきてやっとその場は収まった。しかし、その日は姫ヶ崎が教室に戻ってくることはなかった。
そしてその日の放課後、俺は久々に早くに家に帰ろうとしていた。すると、小畠が俺に声をかけてきた。
「雷智は姫ヶ崎さんのことが心配じゃないの?」
その言葉に俺は振り返って、
「ああ、別に心配するほどのことでもないだろ。あいつはどうも妖怪や怪異といったものに嫌われてるらしいからな。たぶんあいつがいくら探しても一方的に逃げられるだけだろ。」
「いや、僕はそういうことが言いたいわけじゃなくってね。」
「、、、クラス内の空気はお前のほうが調節がうまいだろう。そんなこと俺に言われたって仕方がないだろう?」
「そうでもなくってね、ちょっと困ったことがあって。」
「なんだ?姫ヶ崎がまた何かしてたのか?」
「ううん。彼女は何もしてないよ。でも周りが少しばかり誤解してそれが爆発的に広がりつつある。」
「…まさかとは思うが、姫ヶ崎が犯人だと?」
「もちろん反論はしたよ。だけどそれ以上に猜疑心が勝っちゃているから説得は難しいと思う。」
全く、これだか姫ヶ崎の奴は…
「でもこれで雷智が動く理由ができちゃったね。」
そう言って笑う小畠を見て俺はため息をつく。
「ああ、全くだ。本当に面倒臭い。」
「ははっ。じゃあ頑張ってね。僕はこれで。」
そう言って小畠は帰っていった。それにしても、結局は小畠に乗せられてしまった。
正直言ってかなり面倒臭い。こんなことに首を突っ込むのは極力避けるつもりだった。
だけどまぁ、こうなってしまった以上仕方がない。
「さあて、少しばかり本気出しますか。」