表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

私に懐いた、悪戯な猫の話

作者: ももくり


「先輩……そんなとこで何してるんですか?」


 校舎裏の、小さな花壇。そこでしゃがみ込み、作業をしていると、後ろからぎゅっと抱き着かれた。


「ちょっと!深猫みねこ君!?こんなところで……離れてっ……!」

「何でですか?誰もいませんよ」

「そういう問題じゃなくてぇっ!」


 私が引き剥がすと、彼は納得いかないとでも言うように、こちらを見つめる。そういう顔、本当、困る!



 深猫君は、一つ下の男の子。料理部の後輩。

 黒い髪に、切れ長の眠たげな瞳。ちょっと垂れているせいもあって、色っぽい。本人曰はく一日中寝ていたい過剰なインドア派らしく、肌は女の子のように真っ白。だけど背は高くてすらっとしていて、完全なモデル体型。



「ねえ先輩、せっかく二人なので膝枕してくださいよ」

「えっ?何で!?だめ!」

「眠いんですよー。抱き枕でもいいので」

「そっちの方がだめ!」


 見た目は私よりもずっと大人っぽいのに、中身は子供みたい。何故か初めて会った時から、私にめちゃくちゃ甘えてくる。他の人には少しも懐かないくせに。本当、すごい。



「……っていうか、花?育ててるんですか?」


 深猫君は、ひょいっと花壇を覗き込む。興味津々なその仕草に、私は可笑しくなった。自由すぎるっていうか。


「そう。使われてない花壇だったから、綺麗にしたいなーって」

「お世話、してるんですか?」

「そうだよ。水あげしたり、肥料あげてみたり」

「ふうん。嘘つき」

「え?」


 深猫君はそう言うと、右手で私の手首を掴んだ。びっくりして、顔を上げる。すると、すぐ近くに、じっと私を見つめる彼の瞳。どこか気怠そうなのに、真剣で、何も読めない。端正に整った顔に、どきっとした。



「この前は時間無いから俺の相手しないって言ったのに……あるじゃないですか」

「それとこれとは話が違うっていうか……」

「本当は俺の事嫌いなんでしょ?だから嘘吐いたんでしょ?俺は先輩に捨てられたんだ」

「めんどくさ!」


 --そう、言った瞬間。



「それも嘘でしょ?俺の事、本当は大好きな癖に」



 つん、と。唇に触れた、深猫君の人差し指。


 にやっと、悪戯に上げた口角。気怠そうな瞳の奥の、真剣な色。「先輩」と囁く、いつもより低い声も。媚薬みたいに、チョコレートみたいに、甘くて怖い。


「ふふ、先輩。まだまだですね」

「えっ?」


 固まっていた私に見かねたように、深猫君は、ぷっと吹き出した。そしてくすくすと口を押えて笑う。めちゃくちゃ馬鹿にされてる感じがする。


「もっと飼い慣らしてくださいね、俺を」


 それだけ言うと、ガバッと私に抱き着いてきた。重さに耐えられず「うおっ」と女子らしからぬ声を上げ、私は背中から倒れる。


「ちょっと離れて一旦!」

「駄目ですよ。嘘つきには制裁が必要です」

「ちょっ……おおお!どこ触ってんの!」

「どこって。先輩の、」

「言わなくていいからぁ!」



 飼い慣らすのは、しばらく無理かもね。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ