ラバウルの黒潮
<<よしこれで5機。墜したぞ!>>
<<少尉、我々は3機です>>
それぞれ腕が良く弱点となる発動機からは毎回と言っていいほど精密に狙うと言う技術が陸軍の航空隊は身に着けて、海軍は機動力を求めているため中の人を射殺すると言う技術を求められている。
<<機動部隊がこちらに背を向け離れて行くぞ。地上部隊の高射砲に任せよう>>
最後に無線から雑音を鳴らしてユウコの声が切れ、私に尾翼を見せていた四式戦闘機と零式艦上戦闘機二二型は機体を下に滑らせ帰還して行く。
(私も帰還しよう・・?)
急に暗くなった。
積乱雲かな?
と空を見上げると、
「地獄猫・・!」
F4Fとはまったく違う戦闘機で一撃離脱を仕掛け、素早く操縦桿を右下に倒し曵光弾が混じった機銃弾を回避。
(隙から攻撃するとは卑怯な!)
<<米軍の新型機のF6Fだ!火力と速度は零戦より上だぞ!>>
「1対1で戦いますので援護は無用」
無線の電源を切り、私の後ろに張り付くF6Fに操縦桿を一杯に下げ視界に入る雲に宙返り直前にエンジン出力を落とし失速状態にそのまま横にすべるような感覚で、ガクンとF6Fが視界に入り出力を一気に最大に。
まだ慣れない左捻りこみはあまり使いたくないが正直活用できる。
機銃と機関砲発射機レバーを落とし発火と耳障りな銃声でF6Fに弾をお届け。
火花が数回と機体に大きな穴が1つ。
厄介だな・・。
また速度を落とし私の隣にぴったり張り付いたF6Fの操縦士に顔を向け、私に"グッドバイ"と指を動かし最後にVサイン。
飛行帽を取り、ゴーグルを取り外した操縦士の額には血が流れていた。
戦線に送られていた日系離れしていて銀のロングヘア。
黒い瞳を輝かせてそのままF6Fは黒潮の太平洋へ向かって言った。
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夜に入りいつもの所へ。
上官にF6Fの件と腕作りの強化を求め、後の状況報告まで行いまたお気に入りの油臭い格納庫へ向かいはがれた濃青の零戦美貴型のコックピットの中に入ってチョコレートを一齧り。
「F6Fねぇ。最近、対零戦用の戦闘機が開発されてると聞いたがまさか本当だったとは」
翼の横に寝っころがりパイナップルを頬張るユウコ少尉。
「P51Dと言う万能型戦闘機も欧州で活躍してるらしいです。四式戦闘機とほぼ互角と言う感じでしょうか」
「日本でも紫電改と烈風の開発も進んでるし、重武装航空機の陣風も進んでるし。おまけに太平洋決戦で大日本低連合艦隊も結成してるしねえ」
「ラバウル海軍航空隊に編入していた人達は元の航空隊に戻ってますしね」
喋りながら1枚のチョコレートを完食。腹が満ち、当分の夜中の空腹は抑えられるだろう。
「美貴軍曹、忍少尉、夜間哨戒の任務を願いたいと命令が」
整備士の忠がこちらに敬礼して格納庫の扉がガラガラと音を鳴らして前が見えない滑走路。
ちょうど暇だったので「構わないです」と私は言うと忠が茶碗から黒い汁を注ぎ白い液を入れてガラス棒で混ぜ混ぜと、
「どうぞコーヒーです」
両手で私に差し出し、座席に座ったまま受け取り茶碗を口に着け軽く飲むとやや苦い。
舌に残る味。
「カフェイン沢山なので当分眠気は無いでしょう」
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ユウコと私・・一緒にラバウル上空と海上の夜間哨戒を開始。
コックピットの速度計や高度計、レバーは薄い緑色で光っていてどれがあれであれがこれで分かりやすく表示されているため的になり難い。
しかしコーヒーと言う飲み物は不思議・・。
パッチリ目が覚めてこのまま朝まで働けそうな気がする。
<<美貴!上から敵機だ!>>
急に大きな衝撃が加わり右の主翼が何故か骨組みだけ残っていて急に操縦不能に。
キャノピーを全開に開き、その場で飛び降り背負っていた落下傘の紐を引っ張り、肩がキツクなる。
<<敵機・・・やら・・!>>
零戦の無線から最後のユウコの声がし、ラバウルの黒潮の真上、目の前には銀髪の地獄猫が居た。