サウダージ6 したの子
長男が5ヶ月前に生まれた子を連れてやってきた。
近くにいて、2週間前の週末にも嫁と三人で来てたから、チョクチョクのことでいいのだが、つい最近まで夫婦と男の子二人の生活が長かったから、わたしら二人になった家にこうして男の子二人が戻った光景をみると、サウダージが吹いてくる。
齢三十の立派なオジさんの長男はイジりようないが、赤ん坊は余白が大きいから、孫でも下の子でもこの家にいる一番下の男の子には変わりないから、憧憬がいろいろにハマっていく。
夏といえば海というあの頃、3人のれるゴムボートをポンプを忘れ30分口だけで膨らませた。海に浮かべれば、二人とも遭難していた小島から脱出するように羽交い締めしながら乗り込んでくる。
冬といえば雪しか見えない妻の実家への里帰。冬でなくても出不精の妻をおいて、誰もいない僻地に造った都市公園でルールのない雪合戦してずぶ濡れになり、雨宿りするみたいに入ったレストランに置かれた薪ストーブのその前に置かれたロッキングチェアを独り占めしている次男のドヤ顔。
四人いた祖父母の誰も欠けていなかった時分の、上と下に挟まれバランス良い酔い心地いるわたしがシャッター切ったスナップ写真が戻ってくる。
そんなジジぃの憧憬などすぐに脇に追いやられ、スヤスヤの赤ん坊は急に泣き出す。
長男は、すぐに「おなかすいた」を察し、スタートしてから5ヶ月の現役バリバリのフットワークの軽さを見せながら、ミルクを作り飲ませの態勢に入いる。
それをただただ見ているわたしに、「やってみる」と先輩風なんか吹かせてくる。いちど咥えれば200ミリ一気飲みするまでだいじょうぶだからと、選手交代で長男の座った椅子に座り、同じ姿勢を真似てやってみる。
30年前にこうしてやっていた長男から、そばに立ってレクを受けながらやっているとサウダージに吹かれてるのがばれそうなくらい感慨深い。それを一番に見破られたくない妻が覗き込んでくるから、ますますやばくなる。
わたしもいっぱしのジジぃになったのだ。
200ミリ一気飲みした孫を立て抱っこして、背中をさする。
飲ませたあとのゲップの流れくらい、言われなくても30年前のシミは残っている。そんなに気張らなくても、すぐに出ないからと二人に言われたが、こちらがびっくりするくらい大きな濁音が炸裂した。
グぉっ、ほっ。
そんなのが、腹と腹を通じて響いてくる。いきなりのすんなりにドヤ顔してやろうと向けるが、こんなときに限って妻と長男はお喋りを始める。
母と娘のようなお喋りを。
二週間前に来た時に、なかなかむずかずに眠りにつけないのをわたしが抱き上げ、立て抱っこした二三分でスヤスヤが始まったのをいまだに根に持っているのだ。
腹がくちくなった合図を終えた孫はふたたび幸福感だけが待ってる世界へ誘われる。
満足を遮るものがなくなった彼はご機嫌だ。見えてくるもの触れてくるものすべてをキャッキャッのオモチャに変えていく。
彼のオモチャの一部になっているわたしは、そんな彼から幸福感の一部をお裾分けしてもらう。
キャッキャッの顔を舐めるように眺めていたら、鼻の穴の中は見つからなかったが、右耳の穴の奥に耳垢の片が二つ見つかる。生意気だなぁと、耳の奥にだけ聞こえる声で囁く。
今日の収穫はこれだなと、機嫌のいいままの孫を親に戻して、わたしは爺さんを放れた。




