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入学

 


「ふむ、こんなものかな」

 赤色を基調とした学生服を身に纏うジュリエットは、鏡の前で髪を整えていた。


 質の良いベッド以外は現状生活する分に必要な最低限のものが揃っており、本日から通う王立魔法学園の校章や筆記具が机に置かれている。

 校章は中央に安価な宝石が付けられており、その色で学年を判別するという。

 ジュリエットの場合は青色で、一学年を意味している。


 王立魔法学園の試験結果は勿論合格。無事クラリスとは同クラスであり、Aクラスとの事。

 クラスに関しては能力順かと言われると半々なところであり、貴族かそうでないかで別れている。


 ジュリエットは身分的にこの国、クランベルジュ王国の貴族ではないが、特例として扱われている。

 貴族は家系によっては比較的素養の高い生徒が集まっている為、そういった生徒の為の授業が行われているらしく、ジュリエットは素養の高さで選ばれたという事らしい。


「持ち過ぎなくらいの才能があるのは⋯⋯この血の運命かな」

 心の中で溜息を吐きながらも、それを表には出さない。


 ふぅ、と一息吐くと外の部屋からコンコンコンとノックが鳴る。

「ジュリエットいる〜?」

「いるとも。今行くよ」


 丁度身支度を終えたジュリエットが扉を開けると、同じ制服を着たクラリスが立っていた。

「おはようジュリエット!」

「おはようクラリス。⋯⋯制服、似合っているよ」

「えっあっ、えへへ⋯⋯ありがと⋯⋯」


 顔を真っ赤に染めながら、二人で廊下を歩く。

「迎え来させてしまって悪かったね」

「大丈夫! 楽しみで中々寝れなくて!」

「そうは言っても、僕としては誰かを待たせるのは不本意だからね。明日からは僕の方から迎えに行くよ」


 ニコっと微笑むジュリエット。

「あっ、えっ、うん、迎えに来てくださいえへへへ⋯⋯」


 ニヤケが止まらないクラリスと共に二人は下宿先の寮を出る。


 王立魔法学園までは五分程度の距離。街中は比較的治安が良く、学園が近いということもあり浮浪者や不審者もいない。


「治安がいいのはいいことだ」

「クラリスのいた⋯⋯ええっと、北アイルラ⋯⋯」

「グレートブリテンおよび北部アイルランド連合王国だね。イギリスでいいよ」

「そうそれ! そこはどうだったの?」


 クラリスに尋ねられ、ふむ、と考える仕草をする。

「朝方や昼間は⋯⋯精々浮浪者が彷徨いている程度だね。堂々と犯罪をするような輩はいないよ。夜は⋯⋯危ないかな」


「そ、そっか⋯⋯」

「まあ、先輩方が夜通し飲み歩いているから、そっちの方が危険だけど」


 え、という驚愕の顔をするクラリス。

 ロンドンの夜は危険が多いものの、王立魔術大学の生徒が夜に出歩くことは珍しくない。

 というより、犯罪者や不良に絡まれても軽く一蹴できる程に魔術という武器は強いのだ。


 そう話しているうちに、二人は学園へと到着。古風な宮殿のような外観と上品な雰囲気に包まれたこの場所は、王立魔術大付属高と似たような空気感がありながらも、別種の緊張感があり、新鮮な気持ちを感じていた。


「教場は⋯⋯あった」

 一学年Aクラスの表示を見つけ、教場に入る。

 内装はシックなデザインで落ち着いたものとなっており、ジュリエット的には馴染みのある光景だった。


 五人で使える長い机が縦三列横十列程度に並んでおり、高校というよりも大学に近い。


 既に半分以上の生徒が席に着いており、隣の生徒と談笑したり、本と睨めっこしていたりと様々である。

「席はどこでも良さそうだね。クラリスの希望に合わせるとも」

「私もどこでも大丈夫だよ!」


 との事だったので、二人は手頃な中央辺りの席に座る事に。


 暫くクラリスとジュリエットが談笑しながら時間を潰していると、座席が生徒でいっぱいになりかけた辺りで、ローブを身に纏った金髪の男が教室に入ってきた後、黒板の前に歩いてくる。

「入校おめでとう。僕はソレット・エンフォース。このクラスの担任だ。早速、今日の日程を話していくから、みんな席に着いてね」


 席から立っていた者は席に着き、ざわめいていた教場はすぐ静寂に包まれる。

「よし。それじゃあ始めよう。最初にこの学園の説明後、入学式。そのあとは自由だね。明日からは普通に課業があるから、ちゃんと準備してくるように」


 ざっくりとした説明の後、この学園についての説明が始まる。

「それじゃあカリキュラムについて。この学園は三学年制。魔法の座学以外にも一般教養、実技、剣術があるんだ。学期末の試験では⋯⋯」


 こうしてソレットはこの学園についての説明を行い、時間と共に講堂への移動を生徒たちに促した。




 ----------




 入学式が終わり、ジュリエットとクラリスは食堂に来ていた。

 食堂は貴族食堂と平民食堂、供用食堂の三つに別れており、多少設備は違うものの、同じものが食べられる。


 強いて言うのであれば、貴族食堂は母数と比較しても席数が多い為並ぶことは無いが、平民食堂や供用食堂は多少並ぶことがある。


 供用食堂の風通しの良いテラス席で紅茶と共に昼食を楽しんでいた二人は、今日の説明を振り返っていた。


「せめて紙媒体で欲しいものだけど、こればっかりは仕方ないか」

「羊皮紙は貴重だからね⋯⋯」


 くるり、とペンを回しながら手帳にメモをするジュリエット。

 王国では紙の供給がお世辞にも多いとは言えず、本一冊すら貴重なものなのだ。


「三年間で手掛かりが見つかるといいんだけどね」

「そうだね、⋯⋯私も手伝うよ!」

「うん、ありがとう」


 と、紅茶の入ったティーカップに口を付ける。

「⋯⋯お世辞にも美味しいとは言えないが、こればかりは我儘を言えないね。ところで、話は変わるが⋯⋯」


 ジュリエットはクラリスの目を見て尋ねる。

「僕の目的は話した通りだけど、キミはどうしてここに入学したんだい?」

「えっ、んぐっ、ゴホッゴホッ⋯⋯!」


 丁度口に入れたサンドイッチを思わず喉に詰まらせてしまったクラリス。

「ええっ、き、気になる⋯⋯?」

「言えないのならば無理にとは言わないとも」


 優しく微笑むジュリエット。

 クラリスが言うか言わないか迷っていると。


「誰かと思えばオーリリアの所の女じゃねぇか」

 ふと、背後から声がかかる。


「あ、あなたは⋯⋯」

「忘れたなんて言わせないぜ」

 そこに居たのは浅黒い肌をした大柄の荒々しい男だった。金髪をオールバックにしており、筋骨隆々といった表現が正しい。


 周りには二人の取り巻きがおり、護衛というよりも擦り寄っているような雰囲気がある。

「ふむ。クラリスの知り合いかな? 良ければ名前を教えて頂けると嬉しいね」


「おいおい、議院貴族たる俺に対する礼儀がねぇな? 先に名乗るのはそっちだろ」

 議院貴族。という単語を口の中で転がしながら、ジュリエットは立ち上がる。


「議院貴族様か。それは失礼したね、僕はジュリエット・A(アーサー)・ペンドラゴン。彼女の友達だよ」

「⋯⋯ハッ、友達? コイツに?」


 何を言っているんだと笑いそうなところを堪えながら、男は話を続ける。

「俺はアジャシン・エリン・ペンヒュー。ペンヒュー家って言えばわかるだろ?」


 わかるだろ? と言われてもジュリエットの頭には?マークが浮かんでいた。

「ペンヒュー様は⋯⋯王国議院八貴族の一角、ペンヒュー家の次男だよ」

「議院八貴族というのを知らないからなんとも言えないけど、そういう事か。それで、クラリスに何か用事でも?」


 アジャシンが現れてからのクラリスは明らかに暗い表情になっており、今も尚俯いている。

「弱小貴族のオーリリア家の飼い主が、ペットの一匹の顔を見に来るのに理由なんているか?」

「なるほどね」


 その言葉になんとなくの関係性を察したジュリエット。

「それなら別の所で改めて話すべきだと僕は思うな。公共の場で余計な諍いを生むべきじゃない」


 今は引け、と遠回しに言いながら、アジャシンを睨むが。


「チッ、なんだお前?」

「彼女の友達だよ。友達が困っていたら助け⋯⋯」

「ッせぇなァ!」


 突如、アジャシンが拳をジュリエットへと放つ。

 空気を揺らすような強烈な一撃だったが、ソレはジュリエットに届く前に空中で止まる。


 否、何か透明な壁のようなものにぶつかる感覚と共にアジャシンの拳が弾かれたのだ。

「随分と短気だね。議院八貴族と言うから、もう少し穏便に済ませてくれそうな気がしたんだけど⋯⋯」


 ジュリエットが何事もないかのように立ち上がり、ふう、と一息吐く。

 ジュリエットの左手人差し指の指輪が青色に黄色の輝きを放っていた。


「ここは食堂。つまる話、皆の憩いの場だよ? そんな場所で殴りかかってくるとは思ってもみなかったな」

「⋯⋯テメェ、今何しやがった?」

「特に何かした訳じゃないとも」


 ジュリエットは透明な障壁を解く。

 ジュリエットが恒常的に使用できる魔術のひとつである防御魔術であり、左手人差し指の指輪を媒介に発動できる。


「僕は護衛としての役割も担っているんだ。相手が議院貴族だとしても、殺気を向けてくるのであれば容赦はしない」


 その瞳は凍て刺すような冷徹さが内包された光の無いもの。

 だが、その瞳はすぐ元に戻る。

「チッ、お前ら戻るぞ」

 と言うと、取り巻き二人を連れて元の道に帰ろうとする。


「おいオーリリア! 次会ったらタダじゃ済まさねぇからな!」

 そんな負け惜しみのような言葉を吐いて。


「⋯⋯どうやら、一筋縄ではいかないみたいだね」


 あまりいい予感はしないな、と思いながら席に戻り、ティーカップに口をつけた。

名前つけるのめんどくさいな⋯⋯。

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