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騎士王、異世界へ。

多分2話に分けた方がいい感じのアレでした。

 



 ジュリエットの意識が戻りかけている最中、最初に聞こえてきたのは鳥のさえずりだった。

 段々と意識が回復していくにつれ、木々のざわめきやイギリスの自然の中とは違う空気を感じていく。


「⋯⋯んむぅ」

 目を開けば、そこは森の中だった。

 周りを見れば少なくともイギリスとは違う植物に囲まれ、見たことも無い木々が生えている。


「どこだろうここ⋯⋯? 魔術的な事故で変なところに飛んじゃったのかな⋯⋯?」

 クリアになりつつ頭で現状を認識しつつ、原因が謎の本である事を踏まえて考えていく。


「スマホは⋯⋯圏外。モバイルバッテリーはあるから、光さえあれば充電はできるし⋯⋯魔術は⋯⋯」


 と言って虚空に右手を伸ばすと、人差し指に付けられている緑色の宝石指輪が輝きを放ち、授業用の木剣が現れる。

「うん、空間収納魔術は使える。これなら暫くは大丈夫そうだね」


 魔術が使えることを確認すると、小さな足取りで歩き始める。

「連絡が取れないとなると⋯⋯誰かいないかな⋯⋯森の中にずっといるのも怖いけど⋯⋯」


 下手に歩くと迷うことは重々承知だが、現状既に迷っているのだから関係無いだろうと思いつつ、周りを見る。

 やはり見たことの無い植物や虫が多く、少なくともピンク色のカナブンに似た昆虫は記憶にない。


「大通りに出れるといいんだけど⋯⋯おや」


 ジュリエットの耳に届いたのは、何かが大破する音と、男女入り交じった叫び声。

 そして獣の雄叫びと硬いものがぶつかり合う音。


「⋯⋯ここから近いね」

 聞こえた情報だけでも察する事のできる惨状を思い浮かべながら、すぐさまジュリエットは駆け出した。


 木々を慣れたように駆け抜け、ものの数秒で辿り着く。


 そこには大破した馬車と残虐に引きちぎられた馬、身なりの良い老人にジュリエットと同年代の少女。

 鎧を来た人物達が何人も血の海に伏しており、既に壊滅状態と言えるだろう。


 そしてソレを引き起こしたであろう3mを超える巨大な熊が、生き残りの二人へと鋭い爪を振り下ろそうとしていた。


 が、しかし。


 ジュリエットは瞬間移動じみた動きで間へと立ち入り、手に持っていた木剣で熊の首へと一撃を入れる。

「ググガッ!?」


 熊は大きく吹き飛び、転がっていく。


 死を覚悟していたであろう少女は、数秒目を瞑っていたが、まだ命がある事に困惑しつつジュリエットの方へと目を向ける。


「危ないところだったね。大丈夫かい、お嬢さん?」

「⋯⋯⋯⋯は、はい」


 ポカンとした顔で見つめてくる少女。

「せっかくだからお名前を聞いても?」

「クラリス。クラリス・オーリリア」

「そうか、クラリスか。もう少し僕が早く気がつければ助かる人数が増えてたかもしれない。ごめんね」


 悲しそうな表情でクラリスへと謝罪を述べるジュリエット。

「い、いや⋯⋯それよりも⋯⋯」


 吹き飛ばしたはずの巨大な熊が明らかな敵意を持ってジュリエットへと爪を振るうが。

「ああ、この子かい? 大人しく森に帰ってくれるのなら見逃したんだけど、どうやらそうもいかないみたいだ」


 その一撃を木剣でいなし、空いた左手を向けて魔術を発動。左手中指の宝石指輪が赤色に輝いたかと思えば、強い衝撃が熊を襲い、後方へと大きく吹き飛ぶ。


「ま、魔獣だから仕方ないと思うけど⋯⋯」

 クラリスは戸惑いながらも、既に怯えの感情は無いとジュリエットには伝わってくる。


「魔獣⋯⋯幻想種でも精霊でもない。なるほど」

 右手の木剣を空間にしまい、付近の騎士が持っていたであろう剣を拾う。

「流石に木剣じゃ無理そうだからね」


 鞘から剣を抜いたジュリエットは、熊へと目を向ける。

 10m以上吹き飛んだ熊は、何が起きたのかわからないようで、困惑しつつもジュリエットへの敵意を剥き出しにしたままだった。


「そうか。無益な殺生はイヤなんだけどな」

 そう呟き、一歩を踏み出したジュリエットは。


「ッ!」


 瞬きの間に熊の首を落としたのだ。


 熊の頭はズドンと大きな音を立てながら地に落ちる。

 ボタボタと鮮血を流しながら、やがて胴体も力無く地に伏した。


 ジュリエットはカチンと剣を鞘に収め、クラリスの方へと振り向いた。

「はい、勝手に借りて申し訳ない」


 仕事は片付けたと言わんばかりに、その手に持つ剣をクラリスへと手渡す。

「ねぇ、あなたは何者なの?」

「通りすがりの騎士だよ、と言って納得してくれるかな?」


「貴女ほどの剣の使い手なんて見たことがない! それにその服装、どう見ても普通じゃないわ!」

「む、そうだね⋯⋯」


 ジュリエットは思考を巡らせる。

 パッと見ても地球とは違うような気がしてならない。

 馬車や騎士風の兵士達。そして魔獣という生物。


(もしかして、これが所謂異世界転移っていうやつなのかな?)

「それなら、僕のことを教える代わりに相談に乗って欲しいんだ」


「そ、相談⋯⋯?」

 難しい表情になったクラリス。そしてその背後から顔を出す執事。


「特に難しい事を言うつもりは無いよ。今僕は放浪の身でね。近くの街か宿屋か。とにかくある程度落ち着ける場所まで案内して欲しい。何せこの辺りの土地勘は無いから、知っていると嬉しい」


「それくらいなら⋯⋯いいわよね?」

「はい。むしろ護衛として雇いたいくらいですとも」

 うんうん、と執事とクラリスの承諾を得ることが出来たジュリエットは満足気に頷く。


 その後、その場で護衛達の弔いを行い、クラリスと執事と共に歩みを始めた。




 ----------




 そこから1時間ほど歩いたところで、クラリス達が向かっていた街へと到着する。


 王都クランベルジュ。


 全体的な雰囲気は昔のイギリスと似通ったものがあり、第一次産業革命以前の文明レベルといった印象を受けた。


 クラリスの目的は王立魔法学園への入学手続きと、下宿先への入居である。

 三人は新しい馬車を借り、街を眺めながら互いの事情を話し合う。


「異世界から来たんだ⋯⋯!?」

「うん、明らかにここは僕のいた世界とは違うからね。周りの文字も読めないし⋯⋯」


 馬車に揺られながら、少し憂鬱げに話すジュリエット。

「お言葉ですがペンドラゴン様。そのような話、にわかには信じがたいものなのですが⋯⋯?」

「わかっているよ。でも、ありのままの話をしているだけだからね。異世界の産物は一応あるけど」


 ジュリエットはスマホを片手に電源を付けたり消したりして、色々と証明を図る。

「まあいいんだ。なんとかして元の世界に戻る手段を見つけないといけないけど⋯⋯」


 と言いながら現状を振り返る。


 身分はない。戸籍もない。身内もいない。文字も読めず、糊口をしのぐ金銭もない。


「おわりだぁ〜。僕はなぁんにもないやぁ⋯⋯」

 効果音があるとすれば、むにょお〜んという腑抜けた音と共に壁に寄りかかる。


「あ、あの⋯⋯さ⋯⋯」

 クラリスが遠慮がちにジュリエットへと声をかける。


「もしよかったら⋯⋯一緒に魔法学園に入らない⋯⋯?」


 その言葉に目を輝かせながら、前のめりになるジュリエット。

「く、詳しく!」


「お嬢様!」

「でも、彼女がいなかったら私はここにはいなかったし、オーリリア家の力があれば多少なら⋯⋯?」


 執事と言い合いながらも、クラリスがコホンと息を整えて話し始める。

「オーリリア家ってそれなりに力のある貴族だから、やろうと思えばペンドラゴン様を入学させることができると思うんだ」


「⋯⋯ジュリエットでいいし、様もいらないよ。それで、僕を入学させてくれる⋯⋯と。でも君にメリットはある?」

 当然のようにクラリスへと尋ねるが、既に幾つかは思い付いている。


「ないけど⋯⋯私達を助けてくれた礼として」

「僕は騎士として当然のことをしただけなんだけどな⋯⋯」

 メリットは思い付かないが、それでも命を助けてくれた礼として。


 それがクラリスの考えらしい。

「貸し借りという言葉は好きじゃないけど、そういう事なら遠慮無くご厚意に甘えさせてもらおうかな」


 ホッとした表情のクラリスは、一息着いてから概要を付け加える。

「学園側からしたら、身分の分からない人を入学させる訳だから、色々聞かれると思うけど⋯⋯」

「それくらいは大丈夫さ。入試みたいなものだろう?」


 イギリス王室直属の王立魔術大学附属高校は、秘匿されているだけにGCSEでの要求水準が高く、加えて魔術の素養試験も存在する。

 既に面接や座学は優秀であるジュリエットは問題なく突破でき⋯⋯。


「座学⋯⋯!?」


 ここで異世界転移の弊害が生まれる。


「あー、そうだよね⋯⋯読み書きできないんだよね⋯⋯」

 あはは、と苦笑いを浮かべるクラリス。


「本格的な座学試験はないと思うけど、入学してから大変になるし、とりあえず今日中に覚えて明日学園に行くのは⋯⋯」

「お嬢様、それは無理があるかと。やはり学園に通って頂くのは⋯⋯」


 クラリスが慌てていると、ジュリエットが冷静に呟く。

「とりあえず言語を覚えよう。発音が同じなら何とかなるずさ」

「「えっ!?」」


 ジュリエットの言葉に、二人は驚きの声を上げた。

「学問を学ぶには言語を覚える必要があるし、僕が元の世界に戻る為にも、学園で学ぶ事が一番の近道だろうからね」


 その後、下宿先に着いた三人は言語を覚えるべく初歩的な書物から始めたのだが、幸いにも言語体系が似ている部分が多く、ある程度の読み書きができるくらいには修得できた。



ジュリエットはかっこいい雰囲気を頑張って出したいなぁと思ってます。

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