第二章1-4
「悪ふざけも大概にしたら!?」
桜井の声がロビーに鋭く響き、寿に突き刺さった。
俺たちは例の手紙をテーブルに置き、薄暗い一階のロビーで向かい合っていた。
寿のスマホにはコメントが絶え間なく流れる。
『この子かわいすぎ』『演出ですやん』『これ本物なら洒落にならん』
画面の中の匿名の声が、現実をますます薄気味悪くする。
「い、いやいや!俺じゃねえって!」
寿は肩をすくめ、両手をひらひらさせた。さっきまでの余裕はもう無い。
「……こんな焦り方、寿らしくないな」
柏がぽつりと漏らす。
桜井は封筒をにらみつけながら俺を見た。
「でも、この手紙を置いたのは確かに人間。そうよね? 幽霊なんかじゃなくて」
「……この中に誰かが居るんじゃなく、俺たちの他に“誰か”が紛れ込んでる。そう考えるしかない」
そう言ったが、自分の声もどこか心許なかった。
「その“誰か”って誰?」柏が震える声で尋ねた瞬間――
桜井が思い出したように寿を問い詰めた。
「そういえば……許可って、誰から取ったの?」
寿は慌てて紙を掲げる。
「これが取材許可書だ! ちゃんと自治体に認められたやつ!」
見た目は本物に見える。だが桜井と俺は顔を見合わせた。
「……廃墟の管理権って、本来は自治体じゃなく管理人だろ」
俺が言うと、桜井も疑いの色を隠さず頷いた。
寿は必死にまくし立てる。
「マジだって! 幽霊ホテルって言われてから色んな奴が来て、危険な特定何とかに指定されたらしいんだよ!だから普段は取材も拒否。だけど、うちのスタッフが交渉して、特別に許可されたんだ!」
その声には、もはや配信者の余裕などなく、ただ怯えが滲んでいた。
「じゃあ……やっぱり、誰かが俺たちをここに呼び込んだんだ」
柏の声は震え、顔色は蒼白だった。
窓の外では風が唸り、建物全体が小さく軋んだ。
そのとき、桜井が静かに立ち上がった。
「桜井!?」俺は半腰のまま声を上げる。
彼女は迷いなく玄関の方へ歩いていく。
「待て! 出たら殺されるかもしれない!」
俺の言葉に、寿と柏も息を呑む。
玄関の前で桜井は振り返った。
その瞳はまっすぐで、決意に揺らぎがなかった。
「もし、この手紙が真実でも――榊原の死に私が関わっていたのは事実。なら、私は友達を殺した罪を背負って、ここで償う」
そう言って、彼女はわずかに笑みを浮かべ、ドアノブに手をかけた。




