第二章1-3
「おいチャッツ! 二階の窓って、この辺か?」
寿が、わざとらしい大声でスマホに向かって叫ぶ。
二階へ続く木製の階段は、一歩踏むごとにギシギシと悲鳴を上げる。
客室は全部で十五。そのうち二階には八部屋。人影が見えたのなら、きっと外側の部屋だろう。
寿だけが上機嫌で喋り続け、他は沈黙。
俺の隣で歩く桜井は、機嫌が悪いのか一言も口を開かない。
後ろを振り返ると、柏が息を荒くしながら眉を八の字に曲げていた。
やがて寿が、ある一室の前で立ち止まる。
スマホをこちらに向けて「どうやらここだな」と、緊張を装った声を出した。
「ここに入ったら、私は帰る。……みんなも帰ろう。いいよね?」
桜井が腕を組んで告げる。
空気が張り詰めた。
寿も一瞬だけ強張った顔を見せる。
けれど次の瞬間、「まあまあ」と軽く笑いながら、ドアノブをひねった。
軋む音とともに扉が開く。
中には、簡素なベッドと机と椅子。白いカーペット。
ただそれだけ――のはずだった。
部屋の中央。小さな丸テーブルの上に、ぽつんと封筒が置かれていた。
「……何だ、あれ。」
柏が指を差す。
寿はスマホをズームしながら、わざと余裕の声を作った。
「おい桐島、見てこいよ。」
冷たい命令。
拒否したかったのに、足は勝手に前へ動いていた。
一歩。床がギリ、と軋む。
二歩。三歩。心臓の鼓動が耳を打つ。
やがて俺は封筒の前に立っていた。
「……封筒だ。」思わず口に出す。
「封筒?」柏が繰り返す。
「どういうこと?」桜井の声は震えていた。
それは明らかに新しい封筒だった。
つまり――この場所に、つい最近まで「誰か」がいたということだ。
寿が言う。「開けてみろよ。」
スマホのレンズが俺に突き付けられる。
喉が乾ききっている。
それでも俺は、封筒をつかんで開いた。
――四つ折りの紙。
白地に、機械的な文字。
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榊原悠真は自殺ではない。
殺された。
この中に犯人がいる。
明朝六時までに一人を指し示せ。
できなければ全員を殺す。
このホテルから出ようとすれば――殺す。
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意味が理解できず、何度も読み返す。
黒いざわめきが胸を這い上がってきた。
「桐島……大丈夫?」
顔を上げると、桜井が心配そうに見つめていた。
俺は迷った末に、震える手でその紙を掲げた。
「……これが、置いてあったんだ。」




