第二章1-2
『マジでさっき2階の窓から人影見えた!』
『おい寿!早く行けよw』
コメントが滝のように流れていく。
懐中電灯で寿のスマホを照らすと、皆でその文字をのぞき込んだ。
「……こんなに人見てるんだな。凄いよ、寿くんは」
柏が小さく呟いた。その声には、羨望と怯えが混じっていた。
「そんなことより」俺は低く言った。
「これだけ多くが同じことを言ってるなら、このホテルに本当に誰かがいるかもしれないだろ」
寿は歯を白く光らせ、スマホを掲げた。
「お前ら、わかってないな。こいつらは俺たちを怖がらせたいだけなんだよ。煽りだ、煽り」
「……そろそろ帰ろう」
桜井が静かに言った。
暗闇の中でも、その瞳の澄んだ強さが伝わる。
「幽霊がどうとか、許可があるとか、私にはどうでもいいの」
寿を見据えたまま、柔らかい声で、しかし一歩も退かぬ調子で続ける。
「私は寿から連絡をもらった時からずっと止めたかった。だからここに来たの。今すぐ配信を切って」
寿はにやりと笑い、スマホを桜井の顔すれすれに突きつけた。
「ほらみんな、この可愛い子、ビビってるぞ~!」
桜井の瞳は、氷のように冷ややかだった。
「じゃあ決めようぜ!」寿は声を張った。
「ここにいるみんなが“帰ろう”って言うなら、俺は帰る。――さあ、帰りたい人!」
沈黙。
ホテルの外から吹き込む風の音だけが、廊下を通り抜ける。
「……お、俺は、このホテルに……きょ、興味があるッ!」
柏が声を震わせて沈黙を破った。
下を向いた拍子に、顎の肉がたぷりと揺れる。
桜井は、俺を真っ直ぐ見た。
――あなたはどうするの? その瞳が問いかける。
「……俺も少しだけ付き合うよ」
喉を鳴らしながら言った。
「人影があったっていう二階を見に行くくらいなら」
桜井はすっと目を逸らし、呆れたように首を振った。
寿は満足げに頷き、また白い歯を見せた。




